釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。
今回は、適切なタナを知るために必要な情報について、実際のお魚さんを例に解説して頂きました。
釣り人なら知っておきたい!撒き餌とタナの関係って?
磯釣りで人気の高いメジナを例にとるなら、釣り人が撒き餌を投入し始めた直後の朝方は、多くのメジナは空腹に近い状態であるため、足下に集まってきて尚且つ沈下していく撒き餌を垂直に遊泳しながら競うように食べます。
ところが、時間が経過して撒き餌をたくさん食べて満腹に近くなると、仲間と競うような食べ方はしなくなり、潮下に待機して、流れ着く撒き餌の一部を食べるようになります。このような場合、水面近くまで出て来て餌を食べる様子は見られなくなり、タナは深い位置に形成され、ヒットポイントも遠くなります。もちろん潮流などの変化により状況は様々です。
管理池のヘラブナ、表層に集まるのはどうして?
淡水で人気の高いヘラブナ釣りにおいては、放流量が多い管理池の場合、「タナ規定」というルールが設けられている釣り場が多く見られます。メーター規定というのは、ウキ止めゴムから、道糸に装着した一番上の鉛(板オモリ)=第一オモリまでの長さを1m以上にするというルールです。
過密に放流されたヘラブナは、前回お話ししたような水深のある場所で酸欠気味になりやすい傾向があるため、どうしても水面直下に浮上して来るようになってしまいます。このような理由で過密な状態になっているヘラブナを攻めてしまうと、釣ってはリリースを繰り返されるヘラブナが短期間のうちに大きなダメージを受けてしまい、結果として釣りにくくなってしまうことを緩和するため、この様な規定が設けられています。
前回のお話 → 魚が釣れるタナは水温、潮流の速さ、水の透明度でどう変化する?タナを見極めて釣果アップを狙おう!
ところが、ダメージを受けたヘラブナが浮上して来る別の大きな理由があります。
ヘラブナだけではありませんが、多くの種類のお魚さんは浮袋によって水中での浮力を維持しています。当然ながら深くなればその分、お魚さんの体には大きな水圧がかかることになります。浮袋の中には空気が入っていますから、水圧が大きくなれば、その分余計に空気を入れて膨らませておく必要があり、そうでないと水圧によって圧迫された浮袋は体積が小さくなり、浮力は少なくなってしまうのです。
ヘラブナをはじめとしたいくつかのお魚さんの中には、骨鰾類(こつひょうるい)と呼ばれている種類があります。これらのお魚さんは特殊な形状の浮袋を持っています。浮袋の前端が耳石に繋がっている(ウェーバー器官と呼ばれています)ほかに、気道の一部が消化管に連結されています。
それにより、浮袋の中にある空気の出し入れが容易になりますが、繰り返し釣られて大きなダメージを受けたヘラブナは、浮袋の周囲の筋力が低下し大きな水圧に耐えるために必要な空気を保持することが困難になってしまうのです。
ダメージを受けたヘラブナはそうした理由で、水圧の低い表層付近に群れるようになります。これも前回お話ししましたが、表層に近ければ水中の溶存酸素量も多いため、体を維持することが楽になります。
浅いタナで更に攻めてしまうと、彼らは体力を回復する間もなく衰弱してやがて死んでしまいます。
タナが合わないと何故釣れない?
まず初めに、設定したタナが浅すぎるとどうなるでしょうか?
例えばキスは普段は海底の砂の中や、表面にいる小動物を食べていますから、仕掛けが水面近くだけを漂っているとしたらまずアタリが出ることはありません。
では、タナを深く設定すればどうでしょう?
例えば、ヒラマサのようなフィッシュイーターはイワシなどの群れを追いかけて捕食します。イワシをはじめとした小魚は群れを作る習性があるため、通常群れの中の1尾が海底に沈下してしまうというような現象は起きません。彼らはそのことを知っていますから、ルアーや餌を海中の深い場所に単独で沈下させても、そこに餌があるという認識を持つことはまずありません。
メジナのように流れて来る撒き餌を食べるお魚さんも同様に、潮の流れの中で餌を食べている時は一定以上深い場所に沈下していく餌を追い続けて食べることはありません。
ヒラマサといったフィッシュイーターと、メジナのような雑食性のお魚さんは、食べる餌や習性は大きく異なる点もありますが、群れた状態で餌を食べようとするとき、沈下していく餌を追いかけてそのポジションから外れてしまうと、元のポジションに戻った時、他の個体にその場所を取られてしまいます。良いポジションというのは、沈下していく餌を未練がましく追い続ける必要が無いポジションなのです。
これらはほんの一部の例であり、色々な条件によって異なる対応が必要になることもありますが、適正なタナを知ることは食い気のあるお魚さん、より強い(立場の)お魚さんを効率よく釣るためにはとても大切です。
◆長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」の連載記事一覧はコチラ
関連記事 → 「全員釣り好き」の生徒達に「釣りと魚の科学」講義とワーム製作実習!「釣り」を通じて魚の生態を知る
関連記事 → 【釣果アップ間違いなし!?】話題の「クックックサイゼ!」。エサやワームに混ぜ込むだけ、摂餌効果で魚の味覚直撃
関連記事 → 【磯釣り師に朗報!】オキアミを黒くするとよく釣れる?革命的なエサ取り対策「オキアミブラック」