釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。
今回は、魚の嗅覚の感度はどれくらいなのか?について解説して頂きました。
前回はお魚さんの嗅覚に対して最も高い刺激を与える化学物質がアミノ酸であること、そしてアミノ酸とたんぱく質の関係についてお話しさせていただきました。
前回の記事 → 【釣り人なら知っておきたい】魚が感じる「匂い物質」の正体とは?ヒトにとっても身近な「アレ」だった!
では、それらのアミノ酸を、お魚さんはどこで、どれくらいの濃度であれば感知することが出来るのでしょうか?
実は、お魚さんがアミノ酸を匂い物質として認識する感度は実に鋭敏です。
例えば、サメが数十キロも離れた場所から血液の匂いを感知して集まってくるのは有名な話です。何らかの事故によって海面に浮いている怪我人が、最も遭遇する危険な事故の1つにサメの攻撃が挙げられています。
釣りにおいて、釣りあげたお魚さんをすぐに血抜きすることで鮮度を良好に保つことが出来ますが、釣り場によっては(特に沖磯では)そうした行為によって、釣り場の周囲にサメが集まってきてしまうことがあります。
不用意にサメを寄せてしまうと、ヒットした後のファイト中に掛ったお魚さんが襲われてしまう頻度が高くなることがありますから注意が必要です。
一方、鮭が生まれた川に戻ってきて子孫を残す、いわゆる母川回帰では、その川で孵化(あるいは放流)した鮭の稚魚が川の水に溶け込んでいるアミノ酸を匂いとして記憶していて、産卵が近づくと記憶しているアミノ酸の匂いと同じ匂いのする川に戻ってくると言われています。
大海原を回遊しながら、とてつもなく希釈された生まれ故郷の川の水にどれくらいのアミノ酸が溶解しているのかは分かりませんが、人類が英知を尽くして製作した高性能分析装置以上の感度があるかもしれません。
10万トンの水中でも嗅ぎ分ける!?チヌの驚くべき嗅覚
ところで、お魚さんの嗅覚の感度は一体どれくらいなのでしょうか?
推定としてクロダイは10-8M(10のマイナス8乗モル)に希釈したアミノ酸水溶液を感知すると言われています。
ちなにクロダイが好むアラニンというアミノ酸の1Mとは、約89gを水に溶解させ、1リットルにしたときの濃度を指しています。10-8というのは、0が8個ついた100000000リットル=10万トンを指しています。
数字だけを並べてもイメージしにくいかと思われますから図に示しますが、100m四方、深さ10mの水に一握りのアラニン溶解させたときの濃度ということになります。
少し余談となり恐縮なのですが、私は数多くのクロダイ用の配合餌を開発してきた中でこのことを知り、次のことを思いつきました。
① クロダイの嗅覚が大変発達しているということ
② クロダイは漁港や港まわりといった車を横づけ出来る手軽な場所に生息していること
③ 自らが携わって開発している配合餌の集魚力には絶対の自信がある
この3つの要素を考え、それを証明してみようと思いついたのです。
その後、クロダイ釣りは極力港内の「えっ! こんな場所で釣れるの?」と誰もが思うような場所に通うことにしました。
もしもこれを実践してクロダイを釣ることが出来ないとするなら、残す要因は自分の釣りの腕が悪いということになりますから、こうなるとかなり熱くなる性分です。
それから歳月は流れ、結果として、最大級のクロダイをそのような場所でも十分にヒットさせられることが分かりました。それにより先ほどの3項目が正しいことが証明できたように思っています。
鼻が良いのはタチウオ?ブリ?カワハギ?魚種により異なる嗅覚の感度
さて話を元に戻しましょう。お魚さんは、体のどの部分で匂いを感じるのでしょう?
お魚さんの頭部には、目の前方に前後2つ、左右合わせて4個の穴が開いているのをご覧になられたことがあるでしょうか。これがお魚さんの鼻の穴に相当する部分です。
2つの穴のうち前方にあるのは前鼻孔、後方(目に近い部分)は後鼻孔と呼ばれていて、前鼻孔から入った海水は後鼻孔から抜けるようになっており、このとき海水に含まれている匂い物質を感知します。
そして、この前後の穴の間にある表皮を取り除くと、嗅房と呼ばれる感覚器官を見ることが出来ます。
嗅房には、ひだ状に配列されている嗅板というさらに小さい組織が並んでいて、その表面に並んでいる繊毛に匂いを感じる細胞が存在しています。
一般的に、嗅房が相対的に大きく嗅板の数が多いお魚さんは嗅覚が発達していると言われています。
次に、嗅板の構造が極端に違うお魚さんの例としてクロダイとカワハギを示します。図には嗅板の画像とそれを元にして作成した略図を示しました。
これを見るに、やはりクロダイは相対的に嗅房が大きく、嗅板の配列の数も多く嗅覚が発達している様子を伺うことが出来ます。
一方、カワハギの嗅房は相対的に小さく、嗅板の配列もシンプルで餌を探すときあまり嗅覚に依存していない様子を伺い知ることが出来ます。
興味深いのは、ブリやタチウオで匂いの溶出の少ない活餌や疑似餌で盛んに釣られていますが、嗅板の配列は想像以上に複雑です。
また、古くから市販されているカワハギ用の仕掛けの多くには、海中で目立つための金属板(反射板)のようなものが装着されていますが、これはカワハギの嗅覚ではなく、視覚に訴えるための工夫ということがよく分かります。
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