釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。
今回は、魚は水中で匂いをどのように感じているのかについて解説して頂きました。
私の実家がある都内の荻窪駅北口には、階段を上がった出口のすぐ右側に、かつてとても繁盛していた焼き鳥屋さんがあって、夕方ともなると勤め帰りとみられる多くの客がジョッキを片手に大変な賑わいを見せていました。
まだ高校生だった私は、学校帰りの空腹時にウチワで煽られ漂ってくるあの香ばしい匂いに生唾を呑んだ記憶は今でも鮮明です。
さて、釣り餌にもそれぞれに特有の匂いがありますが、水中で暮らすお魚さんたちはその匂いをどのように感じているのでしょうか?
結論からお話しするなら、お魚さんの仲間たちは嗅覚が大変発達している種類が沢山あることが知られています。
お魚さんが餌を探すとき、これまでお話ししてきた通り視覚によって探していますが、全てのお魚さんたちが暮らしている水中は透明度が高く、日光が届きやすい表層であるとは限りません。
当然のことながら濁りが強い水域であれば離れたところにある餌が良く見えないこともありますし、深海に暮らすお魚さんたちの周囲には太陽光線が届かない暗闇の世界が広がっています。
そうした中で餌を発見するための有効手段として嗅覚は大変重要な役割を果たしています。
ただし、人が匂いを感じる仕組みとお魚さんが匂いを感じる仕組みを形成している嗅覚器官には大きな違いがあります。
先ほどの焼き鳥の匂いのように、空気中を伝わってくる匂いを感じる私たちは、匂いの元となる物質は空気中に拡散することが前提となります。
一方、水中を伝わってくる匂いを感じるお魚さんは、匂いの元となる物質が水に溶け込んで拡散することが前提となります。下図はそのイメージイラストです。
エサの匂い、お魚さんはどう感じているの?サナギとヘラブナを用いて実験!
私たちは粉末になった配合釣り餌を購入して、釣り場で開封すると真っ先に鼻を袋にあてて匂いを嗅ぐことがよくあります。
製品によっては甘い香りや原材料の一部に使用されている魚粉特有の香りが漂ってきますが、あの匂いをお魚さんはどう感じているのでしょうか。
そこでこんな実験をしてみました。
実験に用いた試料は、配合釣り餌の原料に多く用いられているサナギです。サナギというのは蚕蛾(カイコ)の蛹で、それを乾燥させた状態で粉砕していない状態のものです。
同じく実験に用いたお魚さんは、水槽で飼育しているヘラブナの成魚です。
サナギを用いた理由は、それ自体がとても強い臭気を持っていることと多くのお魚さん(特に淡水魚)が好んで食べるからです。
実験の方法ですが、丸底フラスコに水と乾燥したサナギ(粉砕していない状態のもの)を入れて、バーナーで煮沸します。
そのとき発生する水蒸気をゴム栓に通したガラス管を介して冷却管に導入します。
冷却管の内部には蛇管と呼ばれるらせん状になったガラス管が配置されていて、そのガラス管には常に水道水が流れていて、サナギの入った水から沸騰して出てくる蒸気を冷却し、下側に設置した三角フラスコに捕集するという簡単な装置です。
下図をご覧下さい。
バーナーに点火して丸底フラスコを加熱すると、数分で沸騰し水蒸気が発生します。さらに数分経過すると冷却管に触れた蒸気が冷やされて、その下側に置いた三角フラスコに水滴として落下してきます。
そのとき元の丸底フラスコに残ったサナギの茹で汁をA液としました。そして三角フラスコに集められた蒸留水をB液としました。
出来上がったA液はサナギから溶け出した成分によってまるでみそ汁のような感じで、いかにもサナギを茹でた感じのこってりとした匂いが漂っています。
そしてもう一方の捕集した試験水B液は無色透明ですが、強烈な臭気を発しています。