人類最古の漁法!?「石干見(いしひび)漁」を淀川河口で体験。干潟の重要性を伝える

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8月28日、大阪を流れる淀川河口左岸、海老江地区で石干見(いしひび)漁体験が実施された。

主催は大阪市漁業協同組合。昨年も実施されたこの事業には京の川の恵みを活かす会、大阪市、海遊館、なにわエコ会議等多くの団体が協力している。

潮の干満差を利用した「石干見(いしひび)」。石垣の中に入ると…

石干見

石干見(いしひび)とは、人類が古来より使用してきた定置漁具だ。

石を馬蹄形等の形に積み上げて漁場を構築し、潮の干満差を利用して、干潮時に石積み内に取り残された魚類等を捕獲する。

当日は、スタッフは午前10時に集合し準備を行い、参加者は午前11時に集合場所である淀川の川岸に集まった。地元の小学生や中学生など学生も多数参加した。

最初に当日の流れや注意点が述べられた後、京都大学防災研究所の竹門康弘先生より、今回の事業について趣旨説明が行われた。

京都大学防災研究所の竹門康弘氏
京都大学防災研究所の竹門康弘氏

「私は魚や水生昆虫等の生物が、河川等でどうすればたくさん住めるようになるのかを研究をしています。どうすれば魚等が増えるのか。その答えは砂を上流にあるダムから出して、川の中で土砂が動く川にすれば、多くの生き物が住めるようになることが分かってきました。

ダムから流れてきた砂の最後の到着場所が河口であり、その土砂はこれから皆様が観察する干潟になります。干潟が出来ると、たくさんの魚、エビ、カニ等が増えます。

今日の活動の目的は、干潟で色々な生き物を見たり、獲ったりして、干潟を体験する事です。そのための手段として、石垣を弓なりに積んで出来た石干見を使います。

今は水位が高くて見えませんが、水位が下がってくると石垣が見えるようになります。石垣には1カ所だけ狭い通路が設けられていて、今日はそこに網を付けています。干潮の時に皆で獲りにいきましょう。そして何が何尾獲れたか記録を取っていきます」。

続いて、石干見を長年研究してきた田和正孝先生より話が行われた。

石干見を研究している田和正孝氏
石干見を永年研究している田和正孝氏

「関西学院大学に勤めていました田和正孝と言います。魚を獲る道具について色々調べています。石干見は分布でいうとかつて西日本に多くありました。しかし、今では石干見はほとんどなくなってしまいました。漁船で沖に出て魚を獲る方が早いからでしょう。

今回、竹門先生を中心に淀川で石干見を再生して頂いていますが、海岸、河口を保全し、豊かにして活用しようという取り組みが長崎や大分、鹿児島など各地で行われています。

石を積んでいれば、多くの生物が寄ってきます。その時に生物や環境について意識し、環境を学ぶ良い機会になると考えられています。

淀川はかつて石干見がなかったところですが、淀川河口で始まった事に私も期待と喜びを感じています」。

石干見を研究している田和正孝氏
石干見の歴史や分布などについての説明も行われた

いざ、石干見漁にチャレンジ!どんな魚が獲れるのか…?

その後、子供たちは干潟に移動した。当日は午後1時が干潮であり、徐々に水位が下がり、石垣が水中から姿をあらわした。

石干見漁体験の様子
まだ潮位が高い時間帯には、魚を獲る前に周囲にある石を運び、石垣に積み上げるなど、石干見の補修作業も行われた

水位が下がったところで、網等を使い、石干見漁を行った。

石干見漁体験の様子
網を使って生き物をすくっていく
石干見漁体験の様子
すくい方のコツが伝授される
石干見漁体験の様子
泥だらけでずぶ濡れになって生き物を探す子供たち。シジミ探しも行われた

予想されていたより魚は獲れなかったが、網にはハゼや小型のスズキ等が入り、子供たちも大はしゃぎとなった。また、シジミも干潟の中から見つかった。

淀川は都会を流れている河川だが、干潟には多くの水性生物が生息している事を体感出来る良いイベントとなっていた。

石干見漁体験の様子
石干見漁の成果を確認。いろいろな魚が獲れた

最後に集合場所の川岸に戻り、石干見漁の結果発表が行われた。

まず、ハゼ多数、シジミほか貝類多数、クロベンケイガニ、モクズガニ。こういったカニが生息しているのは干潟が健全である証拠だと説明が行われた。

石干見漁体験でとれたハゼ
ハゼは多数捕獲できた
貝
シジミなどの貝も捕獲
石干見漁体験でとれたカニ
カニが生息しているのは干潟が健全な証拠だ

また、石干見漁始まって以来の獲物として小型のスズキとカゴカキダイが獲れた事も紹介され、最後に「来年も石干見漁を行いますのでご参加下さい」と挨拶が行われ、盛況の内にイベントは終了となった。

石干見漁体験でとれたスズキ
小型のスズキ
石干見漁体験でとれたカゴカキダイ
カゴカキダイも捕獲された

干潟は「魚のゆりかご」。海の魚、川の魚の両方を育てる

最後に、竹門康弘先生に干潟の重要性について話を聞いた。

「まず淡水魚で回遊性の魚は、海で赤ちゃんの時期を過ごし大きくなると遡上する魚が多いです。干潟はそのゆりかごとなります。

干潟で魚が子供時代を過ごす理由は、浅いので大きな捕食者がいない事、もう1つは藻類が多く生産されるので、プランクトンや小動物が多く、魚のエサが多いからです。つまり、安全でエサがあるという理由で、魚にとって大事な場所です。

また、淡水の魚だけでなく、海の魚にとっても重要な場所です。例えばスズキやヒラメなど深い場所に住んでいる魚は、河口までやってきて繁殖します。卵からかえった子供は川を遡り、干潟で大きくなってから海に戻ります。海の魚にとっても、川の魚にとっても干潟がゆりかごなのです。

石干見漁体験の様子
魚の繁殖に欠かせない「干潟」。今回は、石干見漁の体験を通じてその重要性を知ってもらった

また、干潟で藻類の生産が活発なのは、上流から流れてきた有機物が干潟で分解されるからです。栄養塩が豊富なので藻類が生えるのです。つまり、干潟は有機物の浄化装置でもあるのです。干潟には分解者も生産者もたくさんいます。だからエサが豊富なのです。

干潟は生き物からみれば繁殖のための大切な場所であり、生態系という観点から見ると分解の場であり生産の場でもあるという、非常に重要な場所です。

石干見漁体験の様子
子供たちと生き物を観察する竹門先生。干潟の重要性をより多くの人に伝えたいと語る

もし、干潟がなければ寂しい川や海になるでしょう。本来は干潟がもっと広範囲に広がっていないといけません。淀川でも干潟は全く足りていないと思います。

淀川だけの話ではなく、大阪湾にはもともと干潟や干潟になり得る遠浅の海が広がっていたのです。ですから、魚の庭(なにわ)と言われるほど、魚などの生き物が豊かな海だったのでしょう。

干潟の重要性はその川だけでなく、大阪湾全体の生産性にも関わる事です。こういった事をもっと多くの方に理解して頂く必要があると思っています」。

石干見漁体験の参加者
「豊穣な海のシンボル」でもある石干見漁を体験する事によって、干潟の重要性も認識できる良いイベントとなった

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