アブ・ガルシアを「ライフスタイル・フィッシングブランド」に。釣り具メーカーの新しい挑戦。【吉川ショウ代表にインタビュー】

スペシャル ニュース

釣具業界はデジタル系インフラが整っていない

吉川社長(以下、同様)
「まず、釣具業界はまだデジタル系のインフラが整っていないという印象を受けました。今でも受発注にFAXが使用され、手書きの伝票もあります。営業も人海戦術に頼っている雰囲気があり、ビジネスの進め方が昔の化粧品業界と似ている感覚を受けました。ただ、こういった事に対して当社の社員も危機感を持っていますので、特別な心配はしていません。

業界全体の印象ですが、私の目から見ると、本当に業界として釣り人口を増やそうとしているのか、釣具の市場を拡げようとしているのか疑問に思う時があります。もっと釣りという楽しいレジャー・スポーツに入ってきて頂けるような事を行っていく必要があると思います。

アブガルシアのイメージ写真
釣り人を増やすためには、商品のスペックや高品質をうたうだけではなく、釣りをする事によって得られる素晴らしい体験や文化を伝えていく必要があるのではないかと吉川氏は語る(出典:PFJ公式ホームページより)

決して批判をしているわけではないのですが、企業においても釣り人口を増やすというより、近年のアップルの戦略のように、一定のファンを獲得したらそのファンを囲い込み、商品の買い替えを促していくという傾向が強いのではないかと感じます。

高品質・高性能はビジネスの前提。今の時代に商品を売るには、商品の背景にある出会いや文化を伝える

昔のアップルは、買い替え需要を喚起するのではなく、インテリアにも映えるデスクトップPCをリリースするなど、人々のライフスタイルを意識して顧客を拡げる戦略を取られてきました。こういった新しい顧客を確保していく方策は非常に重要です。

また、釣り人や釣りに興味をお持ちの方とのコミュニケーションデザインが、少しズレているのではないかと感じます。もっと洗練されたコミュニケーションを行い、釣りや業界のイメージを高めていくと良いのではないかと思っています。

釣具業界のプロモーションを見ると、商品を売るために、スペックや高品質をアピールしているものをよく見かけます。しかし、今の時代は商品が高性能・高品質である事は当たり前で、それはビジネスの出発点だと思うのです。

高性能・高品質である事を前提として、その商品を売るためには商品の背景にある様々な出会いや素晴らしい体験、文化を売る必要があるのです。

単によく釣れる物だから良い物です、といった話ではないと思うのです。こういった取り組みが、当社も含めて少し遅れているのではないかと思いました」。

選択と集中を徹底。起爆剤となるのがアブ・ガルシアのブランディング

アブガルシアのロゴ
釣り人以外からも支持されているアブ・ガルシアのロゴ。アブ・ガルシアの今後の展開について話を伺った

――ピュア・フィッシング・ジャパン(以下、PFJ)はどのような会社だと感じたのだろうか?

「会社に入って感じた事は、力を入れる商品の選択と集中が徹底できていないという事でした。当社は多くのブランドを展開していますが、売れるポテンシャルのある商品、伸びしろのある商品により集中して経営資源を投下していく必要があります。

会社がどのようなマーケティングやコミュニケーションデザイン、イベント等を行ったとしても、最終的には商品が全てです。商品が常にキングなのです。

その商品がまだ現在のニーズにマッチしきれていないと感じています。パッケージデザインを含め、魚種別の展開などマーチャンダイジングもマーケットに最適な形になっていません。社員1人1人の能力はとても高い会社です。何か起爆剤があれば、会社を更に大きく伸ばす事が可能だと思います。その起爆剤となるのが、アブ・ガルシアのブランディングだと考えています」。

――今、アブ・ガルシアのアパレルラインがファッション業界でも話題となっている。釣り人の中では往年のファンも多いアブだが、どのようなブランドに育てていくのだろうか?
 
「アブ・ガルシアは大きなポテンシャルを持ったブランドです。今後、釣り人はもちろん、釣り人以外にも、より多くの人に愛されるブランドになる素地が既に出来つつあります。ブランドロゴも、一般の方々にも受け入れられていますし、アブの歴史やストーリーもブランディングをより強固なものにしてくれます。

アブガルシアのイメージ写真
歴史のあるアブ・ガルシア。釣具業界で言えば老舗リールメーカーのイメージだが、近年では釣り人以外からも注目が集まっている(出典:PFJ公式ホームページより)

釣りに軸足を置いたアウトドアブランドへ

今後、アブ・ガルシアは釣りに軸足を置きながら、アウトドア分野を主眼に展開していきます。少なくとも3年以内にはアウトドアブランドとして一定の認知度とシェアを獲得したいと考えています。

ノースフェイスやパタゴニアも、もともとは山登りやサーフィンをルーツとするブランドであり、そこからアウトドア領域に進出して現在のポジションを築かれています。我々も釣りを起点としたアウトドアブランドとして展開を拡げていきたいと考えています。

商品としても、釣りで魚を持ち帰る方も多いでしょうから、クッキング用品やテント等を出しても良いと思います。アパレルも釣り人が街でも着る事が出来るウエアではなく、ライフスタイルの視点から釣りを捉え、デザインや機能性の伴った商品を作っていきたいと考えています」。

展示会のアブガルシアコーナーの様子
釣りに軸足をおきながら「ライフスタイル」の視点から釣りを捉えた様々なアイテムを展開していく

専門性の高い分野を扱うメーカーが新たな顧客を獲得する方法

吉川社長のインタビューでは、GoPro時代をはじめ様々な興味深いエピソードが語られたが、ナイキ時代の話が印象的だった。その概要を紹介すると、ナイキは当時、オーセンティックスポーツと呼ばれるバスケットボールやサッカー等のカテゴリーでナンバーワンを目指す戦略を取っていた。しかし社員は1000人ほどおり、オーセンティックスポーツ分野だけでは事業として成立させる事が難しかった。

また専門性の高い分野のスポーツシューズ等は、アスリートにとっては道具だ。その道具は、各地域や各選手に合わせてローカライズやカスタマイズが求められる。こういった個別の対応は、一般的にどの業界でもグローバル企業は好まない傾向がある。

一方でナイキは若者に人気のブランドになりつつあった。そこで、オーセンティックスポーツに力を入れつつも、ライフスタイルに視点を合わせて、吉川氏はスニーカー等を次々と発売した。

当時、先進的なマーケティング戦略を次々と展開。若者のナイキのファンを増やし、ユースカルチャーとしてナイキの第二次バブルを作り上げる事に成功した。そして、ライフスタイル分野の好調に引っ張られる形で、ナイキのスポーツカテゴリーの商品も売上を伸ばしてきたという。

ワールドワイドに展開し、専門的な商品を扱うメーカーは、ある程度企業が成長した段階で「ライフスタイル」等の分野へ進出し、今までと異なる新たな顧客をつかみ、それと同時に専門商品の「ローカライズ」や「カスタマイズ」にも取り組み、コアなファンを離さず、増やしていくという、両方の取り組みが求められる。

こういった事は釣具業界にそのまま当てはまる話ではないかもしれないが、共通する点も多いのではないかと思われる。

吉川社長は、新たなブランディングを行っているアブについても「アブ・ガルシアを一番支えて頂いているのは少数の非常にコアなファンです。その方々に見放されては絶対にいけません。その方達を驚かせ、満足して頂けるような商品ラインナップの拡張が必要だと思っています」と語っている。

JB/NBC協賛の終了について

――PFJは昨年、JB・NBCの協賛終了を発表し釣具業界でも話題となった。これについてはどのように考えているのだろうか?

「まず、当社は決してフレッシュウォーターやバスの市場から撤退するわけではありません。選択と集中の中で、先ほど述べた通り、今後会社を継続して成長させていくために、今最も取り組むべきはアブ・ガルシアのブランディングです。そこにどうしても資金やリソースを集中させる必要があります。しかし、我々が投入できるリソースは限られています。

アメリカのビジネス会話ではよく使われるのですが「nice to have」ではなく、「must have」しか出来ないというのが実情です。

今回の件で、将来にわたって一切協賛をしないという事ではありません。会社の優先順位が変われば、当然再度お願いする事はあり得ます。私のミッションは、財務基盤をさらに強化しながら売上を成長させる事です。そのためにこういった判断をさせて頂きました」。

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