伝統的河川工法で河川環境改善。流域の市民も参加し木津川に「中聖牛(ちゅうせいぎゅう)」を設置

スペシャル ニュース
木津川で中聖牛設置の集合写真
伝統的河川工法を活用して河川環境を改善する取り組みが、市民参加型で設置が行われた

2月27日、京都府を流れる淀川水系の木津川(きづがわ)の開橋左岸で、中聖牛(ちゅうせいぎゅう)の組み立て・設置作業と竣工式が行われた。

この中聖牛の設置は伝統的河川工法を活用して河川環境を改善する取り組みだが、これらの事業は市民参加型で行われ、流域住民が河川環境に関心を持つキッカケ作りにもなっていた。

治水に加え魚の住み家を増やせる「中聖牛」。伝統的河川工法は優れた部分が多い

木津川での中聖牛の組立・設置作業の取り組みの主催団体は、流域の市民と共に自然環境の調査や保護を行う「NPOやましろ里山の会」だ。

支援は国交省淀川河川事務局。共催は京の川の恵みを活かす会、京都大学防災研究所、摂南大学エコシビル部、奈良女子大学大学院人間文化総合科学研究科。ほか様々な団体の協力で行われている。

竣工式当日は約40名が参加。各団体の会員や大学生、行政、市民など多彩な顔ぶれが参加した。

もともとこの事業は京都大学防災研究所の竹門准教授より「市民参加型で木津川の河川環境の改善したいので一緒にやって頂けないか」と、やましろ里山の会に相談したことから事業が始まったという。

木津川での中聖牛の設置作業は2017年から行われており、既に12基が設置済みだ。今年度、新たに4基の中聖牛の設置が完了し、当日はその竣工式が行われた。

今回新たに設置された中聖牛の4基
今回新たに設置された4基の中聖牛

そもそも、中聖牛とは戦国時代から治水目的に使われてきた河川工法だ。聖牛(せいぎゅう・ひじりうし)は聖牛の大きさによって大、大々、中など呼び名がある。木津川に設置されているのは中聖牛だ。

昔は大雨等により増水した際、聖牛を必要な場所に設置し、流れを変え、また土砂を堆積させて堤防や家屋などを水害から守ってきた。

また聖牛の重しとして使われている竹蛇籠(たけじゃかご)も同様だ。中聖牛や竹蛇籠は現地で調達できる木材、竹、石などから作られており、昔は大雨が降ると流域の住民が協力して聖牛や竹蛇籠を作り、必要な場所に設置して被害を軽減させていたと思われる。

関連記事 → 竹蛇籠(たけじゃかご)、伝統的河川工法を活用し河川環境改善。やましろ里山の会が木津川で製作設置講習会

今期新たに設置された4期の中聖牛も、設置の主な目的は出水時(大雨などで河川の水があふれだす事)に水の流れを変化させる事だ。これにより浸食が行われている場所を守る事が出来る。

以前に木津川に設置された中聖牛
以前に設置された中聖牛

ただ、こういった治水目的だけでなく、中聖牛の設置により中聖牛の側方に「たまり(本流とつながっていない水が溜まっている場所)」等が形成され、水生生物の多様化が図れる事が調査によって明らかになっている。

中聖牛を設置する事により、その後方は土砂の堆積が促され、側方下流等では「たまり」や「ワンド」が作られる。「たまり」や「ワンド」は魚の産卵場や生育場になるなど、木津川に住む水生生物が増えるといった効果もある。

以前に設置された中聖牛
周辺にワンドやたまりが出来、水性生物の住み家となる

伝統的河川工法を使い、治水だけでなく河川環境を良くする取り組みは全国でも初めてだと思われる。釣り人にとっても大いに関係のある事業だ。

竹蛇籠を中聖牛に設置し石を詰めて完成。1本あたり重量はおよそ2トン。石詰めには子供も参加

最終の設置作業では、竹蛇籠に石を詰める作業が参加者によって行われた。竹蛇籠は昨年の8月から市民も参加して製作が行われ、73本が完成している。

竹蛇籠に石を詰める作業の様子
設置の最後の仕上げとして、竹蛇籠に石を詰める作業が参加者によって行われた
竹蛇籠に石を詰める作業の様子

1本の竹蛇籠は全長4m。この中に大小様々な大きさの石を詰めて完成するが、1本あたり重量はおよそ2トン。1基の中聖牛に対して9本の竹蛇籠が重しとして使われているので、相当な重量だ。

中聖牛
1基の中聖牛に対して9本の竹蛇籠が重しとして使われる

子供らも参加し、石詰めが完成したところで竣工式が行われた。

淀川河川事務所の波多野所長から参加者へのお礼も述べられた

竣工式では各代表から参加者へのお礼やこれまでの経緯説明が行われたほか、国土交通省近畿地方整備局淀川河川事務所の波多野事務所長も「市民参加型で河川環境を良くしていく事業は素晴らしい取り組みだと思います。ややもすると単調になりがちな河川環境が中聖牛によって生態系に満ち溢れた川になる事を期待しています」と挨拶が行われた。

「市民参加型の河川環境改善に伝統的河川工法が役立つ事が証明」

竹門康弘准教授
京都大学防災研究所の竹門准教授

今回の設置について、京の川の恵みを活かす会の代表でもある竹門准教授は以下のように語る。

「このプロジェクトは2015年に竹蛇籠を設置する事業から始めて、2017年からは伝統的河川工法の柱ともいえる中聖牛を自力で設置する事を目標に活動を続けてきました。静岡県の原小組にご指導いただきながら、2年前からようやくひとり立ちが出来るようになりました。この事業は日本の河川管理においても国や企業でなく、市民団体が担う事ができたという点でも画期的な事だと思います。

もう1つは、この聖牛がどのような機能を発揮するのかはアカデミックな研究テーマです。これについては生徒が修士論文をまとめています。大変興味深いのは大聖牛や中聖牛といった大きさの違いは、河川の規模によるものと想像できますが、昔から大井川では大聖牛が、木津川では中聖牛が伝統的に使われてきました。この根拠が水理学的に明らかになった事です。

また中聖牛の設置によって、ワンドやたまりが出来た事により、そこにどのような魚類や水生昆虫等が生息するようになるのか、奈良女子大学や摂南大学の調査で明らかになりました。場所によってはたまりやワンドが数倍に増え、その結果、砂州における水性動物の多様性は大いに増える事が証明されました。

今回の事業を通じて、市民参加型の河川環境改善に伝統的河川工法がどれだけ役立つのか示せたと思い、成功したと考えています。この成果をマニュアルにまとめて、日本の各地の川で伝統的河川工法を使って頂けるように働きかけていきたいと考えています」。

河川の環境が良くなることは、河川の主な利用者である釣り人にとって直接的に関係する話だ。釣り人も河川環境により関心を持ち、こういった活動への理解と協力が求められるのではないだろうか。

(了)

関連記事 → 【京の川の恵みを活かす会】京都・鴨川に仮設魚道設置。天然魚増やし川の魅力高める | 釣具新聞 | 釣具業界の業界紙 | 公式ニュースサイト (tsurigu-np.jp)

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