諸問題は長年の歴史を持つ日本の放流実績の賜物。様々な対策で放流成功の糧に
こうした問題に対して様々な対策がとられている。
例えば、放流後のパニック状態を緩和するため、放流魚を地先の海水に慣らしたり、放流魚を海底近くで放流することもある。また、防波堤の内港側の自然環境を利用して放流魚を飼付けしたり、音響馴致(おんきょうじゅんち・音がするとエサがもらえる事を学習させる)しながら人工飼料を与え(海洋牧場)、少しずつ自然環境に慣らすこともある。
放流魚の被食に対しては、予め放流場所の捕食者を調べたり、捕食されにくい大きさの放流魚を放流している。
また、マダイなら海底に横たわる行動(横臥「おうが」行動)を示したり、ヒラメなら砂に潜る能力(潜砂能力)の高い個体を放流することも効果的だ。放流魚と捕食魚を一時的に同居させ、放流魚に恐怖を体験させるというユニークな試みもある。
放流魚の体質に関しては、飼育密度をできるだけ下げたり、照明の照度を落とすことで個体間の干渉を少なくすることで、放流魚が天然魚に近い体質になることがわかっている。また、魚体成分の生化学的な成分分析によって、天然魚に近く、放流に適した種苗が指標化されている。
その他、放流後の生残に影響するものは、放流魚の放流場所や放流時期だろう。
目安として放流場所に同種の天然稚魚がいることが大切だ。放流魚を放流した場合、放流魚は天然稚魚と群を作り、餌の捕り方や捕食者回避など、生き残り戦術を学べるからだ。
一方で、過剰な放流魚を放流すれば、天然魚と放流魚の間で餌を巡る競合が起こる。稚魚を育てる天然の餌料には限りがあるので、環境収容力を見極めた上で放流することも必要だ。
さて、ここまで、種苗放流の問題について解説してきた。放流に関してあまり良いイメージを持たなくなった方もおられるかもしれない。
しかし、これらの諸問題は、約60年の歴史を持つ日本の放流実績の賜であり、放流成功の糧になっているのだ。
次回は、放流のさらなる問題について触れてみたい。
(了)
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