【第8回】貴重な資源量を誇る山梨県甲州市・日川渓谷の「野生魚育成ゾーン」

スペシャル ニュース
大型のトラウトのはく製
クオリティの高い魚との出会いが期待できる

低コスト・ハイクオリティ・高密度。狭東(きょうとう)漁業組合大和支部が取り組む未来型漁場管理

内水面の数ある釣りジャンルの中で、今最も伸びしろが期待されている渓流釣り。対象魚はヤマメ・アマゴ・イワナ・ニジマスなどがその中心だ。渓流魚の資源管理は、ある程度は人がコントロールできる。だが、河川環境や増殖にかかる費用、労力などの問題で資源量の維持にも限界がある。

渓流釣り場の未来図を描くうえで、最重要課題となる保護増殖事業の高効率化。今回は上流域に「野生魚育成ゾーン」を設け、低ランニングコストでクオリティの高い個体を育て、しかも高水準の生息密度を誇る日川(ひかわ)渓谷を訪ねた。16年目を迎えた渓流魚の人工産卵場造成に体験参加させていただき、この河川を管理する峡東漁業協同組合総代を務める古屋学氏と、国の研究機関である「水産研究・教育機構」の坪井潤一氏に野生魚を育てるキーポイントとその魅力について話を伺った。

渓流魚の人工産卵床造成の様子
渓流魚の人工産卵床造成の様子(野生魚の産卵をサポートする)。今後ますます野生魚育成にスポットが当たりそうだ

「魚を育てる漁業」こそ、これらかの時代に求められる漁場管理

記者自身も内水面の漁協組合員であり、地元の和歌山県下の河川にて渓流魚の保護増殖に取り組みたいと考えている。

親魚放流や発眼卵放流の進め方を坪井氏に相談したときに、「釣り人も参加する産卵場造成の勉強会が山梨県であるので参加してみませんか?」と声をかけていただいた。
坪井氏から最初に言われたのは「魚が減る、魚がいなくなるには理由がある。魚が育たない環境で放流を続けていても、漁場管理の改善にはならない」ということだった。
効率が高いと言われる親魚放流や発眼卵放流を繰り返しても稚魚が育たない環境では失敗する。かといって成魚放流に頼るとコストが高くつき、釣れる期間が短くなる。これは渓流魚に限らず、あらゆる放流事業にも当てはまるだろう。

古屋学氏からは、長年に及ぶ経験から渓畔林(けいはんりん・渓流沿いに繁茂する森林)の有無などの環境によって、魚の成長や歩留まり率が大きく異なることを最初に教わった。
近年、効率が悪いと言われている稚魚放流であっても、日川のように渓畔林のカバーが多い河川環境に放流することで、鳥などの外敵から守られ、陸生昆虫が渓流魚のエサとなって成長を促進している。

1㎡あたり0.76尾。我が国トップの渓流魚生息密度(※2018年調査)

峡東漁協は17支部あるマンモス組織で、大和支部はその1つ。さらに日川に設けられた野生魚育成ゾーンは大和支部管轄河川のごく一部だ。

しかし、その約3㎞の流程がすこぶる高いポテンシャルを秘めている。標高1400mでアマゴ生息地では最も高度が高い山岳渓流であり、イワナも生息している。
その日川で一昨年に行った生息密度調査において、水面1㎡あたり0.76尾という結果が出た。それまでは志賀高原漁協が管理する雑魚川の同0・73尾が国内で最高値と言われていたが、それを凌ぐ数値に関係者も驚いた。
雑魚川は原種保存のため放流を一切行っていないが、数ある支流のほとんどを種沢(自然増殖事業特別試験地域)として禁漁区に指定し、ここに棲む渓流魚は手厚く護られている。一時的とはいえその雑魚川よりも魚の密度が上回ったのだ。

日川は多くの釣り人が訪れる人気釣り場で、フライ・ルアー・テンカラ・エサ釣り(割合は4:3:2:1)とさまざまな釣りスタイルで攻められながらも豊富な資源量を維持している。しかも野生魚育成ゾーンということで成魚・稚魚放流は行われていない。

増殖方法は仔魚放流・発眼卵放流・親魚放流と、人工産卵場造成(野生魚の産卵サポート)の4つだ。
峡東漁協内で野生魚育成ゾーンがあるのは大和支部だけで、他は高度利用ゾーンと呼ばれ、成魚放流を多く取り入れた漁場管理を行っている。
野生魚育成ゾーンと高度利用ゾーンを比較すれば、コスト面と資源量が段違いだ。高度利用ゾーンは成魚放流した直後にだけ生息密度が高まるが、釣獲圧(プレッシャー)などで数日後には魚が枯渇する。釣れる期間を伸ばすには追加放流しか手段はない。
個人経営のエリアフィッシングなら高額な遊漁料を設定することでビジネスは成立するだろうが、県の指導の下で漁協が低料金で管理する釣り場では、釣り人を満足させるのは難しいだろう。

前回紹介した犀川のように大型ニジマスとC&R区間を上手く活用して黒字運営できている漁協は限られている。成魚放流を主体にして赤字運営から脱却できない漁協に関しては、将来のために魚を育てる漁場管理に舵を切り直すのも一つの選択肢だろう。
ただし、そこには二つの課題がある。一つは、その河川に魚が育つ環境が残されているかどうか。二つ目は、コストは抑えられても産卵場造成や調査に労力が必要になることだ。
大和支部ではこの2つの課題を高度にクリアしている。労力に関しては次に紹介するが、協力してくれる釣り人を募って乗り切っている。(次ページに続く)

次ページ → 釣り人が実費を払い重労働なのにヤリガイを感じる仕事とは?

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