YouTuberの動画が原因でため池に釣り人が殺到。迷惑行為も増えて…。損害賠償請求は可能?【弁護士に聞く】

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ため池のイメージ
「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に解説して頂くコーナーです。今回はため池で起きたトラブルです

人気ユーチューバーによる釣り動画によって、撮影に使われた釣り場が人気釣り場になる事はよくあることでしょう。

今回のお話では、とあるため池が動画撮影に使われたことで、そこに釣り人が殺到し、トラブルを起こしてしまいました。被害に遭ったため池の所有者は動画投稿者に対して、どんな対応を取ることが出来るのでしょうか?

弁護士の先生にお聞きしました。

※以下の質問は架空の内容であり、実際の人物・団体とは一切関係がありません。

釣り人にため池の水門が壊された!?原因となった動画の投稿主を訴えられる?

私は農業を営んでおり、田んぼや畑に加え、農業用水で使用している「ため池」も所有しています。先日、そのため池でトラブルが起きてしまいました。

そのため池は魚が釣れる池として、地元の一部の釣り人の間で知られており、地元の釣り人がたまに魚を釣りに来る、静かな池でした。

ところがある日、人気ユーチューバーが、私が所有するため池において、私に無断で魚釣りのロケを行い、大きな魚をたくさん釣る動画をアップしました。その動画は10万回以上再生され、人気動画となりました。

私はため池を、立入禁止や釣り禁止にはしていなかったのですが、動画の公開以降、地元以外に遠方からも多くの釣り人が来るようになりました。そのため、早朝から道路や田んぼの脇道等への路上駐車が増え、農作業に支障が出るようになってしまいました。

そして、一番問題となったのが田んぼの用水路です。ため池から用水路を通じて、それぞれの田んぼに水を引き込むのですが、その用水路に設置してある、簡易な水門が、恐らく釣り人によって壊されてしまいました。犯人は特定できませんが、その水門回りで釣りをしているのを複数回目撃していますし、釣り人以外に水門付近に近付く人はいません。

そのため、一部の田んぼで必要な時期に水を引き込む事が出来ず、育てていた稲を枯らしてしまうという、大きな損害が出てしまいました。

こういった事態になってしまったため、私はため池を「全面釣り禁止」とし、看板も設置しました。さらに、実際に被害も出たため、損害賠償について検討しています。

そこで、弁護士の先生に質問です。

人気ユーチューバーが動画で公開するまでは、たまに釣り人が来るぐらいで、特に問題もなかったのですが、動画の公開以降、路上駐車や敷地内に車を停められるなど、迷惑行為が目に付き、実際に農作物の被害も出てしまいました。

そもそも、このユーチューバーは、私の所有する土地に無断で侵入し、無断で撮影を行い、公開しています。そのため、急激に多くの釣り人が来るようになり、大きなトラブルが発生しました。

私は、このユーチューバーに対して、何等かの損害賠償を求めたいと思っているのですが、どのような訴えを起こせるのでしょうか。動画の削除に加え、いくらかの賠償金を支払ってもらう事は出来るのでしょうか。また、田んぼに水を引けなかった事による、農産物の被害をこのユーチューバーに請求する事は出来るのでしょうか。

ご回答をお願いします。

動画撮影のイメージ
ため池の所有者に無許可で撮影された動画。直接所有者に被害を与えたわけではないが…

損害賠償請求は困難な可能性が高い【弁護士の回答】

以下、弁護士の先生からの回答です。

人気ユーチューバーのアップロードした動画が10万回以上再生されるなどした結果、静かな池だった「ため池」に多くの釣り人が訪れるようになってしまいました。しかも、やって来た釣り人によって用水路の水門が壊されるなど、農作業にも支障が生じてしまいました。しかし、水門を壊した犯人は特定できていないとのことです。

このような場合に、ため池に立ち入って釣り動画をアップした人気ユーチューバーに対して、動画のアップがきっかけで損害が発生したとして何らかの法的請求ができないのでしょうか。

・損害賠償請求するには「不法行為」といえるかがポイント

もし人気ユーチューバーが他人の権利を違法に侵害した、つまり「不法行為」をしたといえるならば、人気ユーチューバーに対して損害賠償請求が可能です(民法709条)。一方、不法行為にあたらなければ損害賠償請求はできません。

では、本件の人気ユーチューバーの行為は不法行為にあたらないのでしょうか。結論を述べると、人気ユーチューバーの行為は不法行為にはあたらない可能性が高いです。

・ため池への立入行為を明確に禁止していたか

法的には、立入行為や動画アップ行為によって質問者の権利が違法に侵害されたといえるかが問題となります。質問者はため池を所有しているため、人気ユーチューバーの立入行為によってため池の「所有権」が侵害されたといえるようにも思えます。

たしかに、私有地に無断で立ち入れば所有権侵害となる可能性があります。もっとも、あらゆる立入行為が違法な私有地の権利侵害となるわけではありません。

立入行為が違法な権利侵害になるのは、立ち入ることが禁止されていたのに、それに反して立ち入ったような場合と考えられています。個人所有のかえでの木が立つ土地への立入行為について、そのような判断を示した裁判例もあります(東京地方裁判所平成14年7月3日判決・かえでの木事件参照)。

・立ち入りが「全面釣り禁止」の看板設置の前か、後か

本件についてみると、質問者のため池は、従来から地元の一部の釣り人の間では釣り場として知られており、魚を釣りに来ることもありました。そのため、質問者もため池で平穏に釣りをすることは禁止していなかったといえます。

また、質問者は、農業に支障が出る事態になってからは「全面釣り禁止」として看板も設置したとのことです。 しかし、農業に支障が出るまではそのような看板はありませんでした。

つまり、看板を設置するまでは、通常の方法で釣りをしたり釣りの様子を動画撮影したりする目的でため池に立ち入ることは、明確には禁止されていませんでした。

人気ユーチューバーは、ため池で大きな魚をたくさん釣り、その様子を動画撮影したものの、ため池や近くの農作業の設備に悪影響を与えるような行為をしたわけではないようです。

そうすると、人気ユーチューバーが、看板の設置前に、釣り目的でため池に立ち入ることや釣りの様子を動画撮影する目的でため池に立ち入っていたとしても、質問者がため池への立入りを明確に禁止していない以上、ため池の所有権を違法に侵害したとまではいえないことになります。

よって、本件では、看板設置前に人気ユーチューバーがため池に立ち入ったことは不法行為とはいえず、人気ユーチューバーに対して、ため池に立ち入ったことを理由に損害賠償請求することは困難でしょう。

一方で、質問者が農作業への支障があると考え、ため池に「全面釣り禁止」や「ロケ動画の撮影禁止」などの看板を立てた後に、釣り人が釣りやロケ動画の撮影の目的でため池に立ち入れば、ため池の所有権を侵害する不法行為にあたることになるでしょう。

魚釣り禁止看板のイメージ
事前に看板の設置などで、「明確に立ち入りを禁止していたか?」が要点の1つとなる

・動画のアップによって水門が破壊されることまで予見できたか

では、ため池への立入行為が不法行為にあたらないとしても、人気ユーチューバーが釣り動画をアップしたことが、水門が壊されて稲が枯れる原因になったとして損害賠償請求することはできないのでしょうか。

たしかに動画がアップされなければ、多数の釣り人が来ることもなく、水門が壊れることもなかったのかもしれません。

しかし、動画をアップしたことを理由にした損害賠償請求ができるのは、釣り動画のアップによって質問者に「損害」が発生すると予見できた場合、つまり水門が破壊されたり稲が枯れたりすると予見できた場合です。

本件ではどうでしょうか。人気ユーチューバーがネットで動画を公開すれば、動画が多数回再生されることが多いでしょう。そのため、ため池での釣り動画をアップすれば、動画が多くの人に視聴されることを予見できたといえます。

また、動画の中で本件のため池を宣伝するなどしていれば、ため池が釣り人の間で人気になり、実際に多くの釣り人がため池にやって来ることも予見できたかもしれません。

しかし、釣り人は釣りをするために釣り場に訪れるのであって、釣り場の近くにある物を壊すことはないため、ため池にやって来た釣り人が用水路の水門を壊すといった非常識な行為をすることまで予見できたとはいえません。

よって、水門を壊したことの責任は水門を壊した犯人にあるというべきで、人気ユーチューバーに対して釣り動画をアップしたことを理由に損害賠償請求をすることは困難でしょう。

・被害発生を防ぐためにできること

ため池の所有者としては、ため池や用水路、水門などに悪影響を及ぼす可能性のある行為を看板や掲示物によって明確に禁止しておくべきです。

また、私有地への迷惑駐車については、そのような行為を行った本人に警告や損害賠償請求をすることになります。弁護士であれば、車種、ナンバー、駐車日時などの情報によって車の所有者を特定できる場合があります。悪質な違反行為を繰り返す人に対しては、こうした法的措置を講じることが適切です。

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・小林 允紀】

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