「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界で起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に見解や対処方法をお聞きし、紹介するコーナーです。今回は話題の生成AIを使ったトラブルについて紹介します。

生成AIを使って作ったポスター。「私のイラストが盗用された」と訴えられた!
弊社は釣具メーカーです。先日、弊社が生成AIで作成したイラストを使用したポスターを掲示したところ、「私のイラストが無断で盗用された」として、個人のデザイナーの方が、当社に使用停止と損害賠償を求めた訴えを起こしてこられました。
弊社は昨年から人気の生成AIソフトを使い、イラストや画像を生成したものを作り、宣伝用のポスターや弊社のホームページで使用する画像として使用してきました。弊社が使用しているソフトはもちろん「商用利用は可能」であり、会社として商用利用できるプランに加入し、月額料金も支払っています。
今回、訴えを起こされたポスターですが、魚のイラストを大きく使用したもので、魚のイラストは生成AIを使って作成されたものでした。

具体的にはルアーがヒットしたシーバス(スズキ)が水面を割ってジャンプしているイラストなのですが、目が大きくウロコの一枚一枚が浮き上がっているような特徴的なタッチのイラストで、構図も含めて非常に迫力のあるものでした。
訴えを起こしてこられたイラストレーターは、このシーバスのイラストが著作権の侵害に当たるとして当社に訴えを起こしてこられました。
当社が調べると、このイラストレーターの過去の作品の中に、当社が生成AIで作ったシーバスのイラストとそっくりなものがある事が判明しました。イラストのタッチも良く似ており、客観的に見ると「盗作された」と思われても無理はない、と感じてしまうほど2つのイラストは酷似していました。
弊社は、このイラストレーターや、以前に書かれたシーバスの作品についても知りませんでしたし、盗用するつもりなど全くありません。生成AIが作ったイラストをポスターに使用しただけなのですが、生成AIがどのような画像等を学習してイラストを作っているのかは分かりません。
弊社としては、イラストレーターが訴えてくるのも無理はない部分もあると感じており、対応に困っております。
そこで弁護士の先生に質問です。まず、生成AIで作ったイラストや画像をポスターやホームページで使用する事に、法律的に問題はないのでしょうか。使用する際に気を付ける事があれば教えて下さい。
また、今回訴えてきたイラストレーターの要求が通り、当社が使用停止や損害賠償など何らかの対応をしなければならない可能性はあるのでしょうか。ご回答をお願いします。
(※質問は全て架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)
【弁護士の回答】著作権侵害となる可能性は大きい
ご質問のケースでは、生成AIを使って生成したイラストや画像をポスターやホームページで使用していますが、このような行為について法律的な問題は生じるのでしょうか。この点について、結論から申し上げますと、法律的な問題は生じ得ます。

後半で詳しくご説明しますが、生成AIを使用して生成したイラストや画像については、著作権を侵害するおそれがあり、著作権侵害に基づいてイラストの使用を停止する義務を負う可能性があります。
今回、訴えを起こしてきたイラストレーターは、著作権侵害に基づいてイラストの使用停止や損害賠償請求を行っていると思われます。そこで、生成AIによって生成されたイラストが著作権を侵害するかどうかを検討します。
生成AIでイラストや画像を生成する場合、著作権との関係では大きく二つの場面が問題になります。一つはAIが様々な情報を解析して「学習」する場面、もう一つは生成AIの利用者が生成AIを使ってイラストや画像を「生成」する場面です。
ご質問のケースは、既存の生成AIを利用して、イラストや画像を生成したところ、その生成したイラストが、あるイラストレーターのイラストに似てしまったというケースですので、「生成」する場面で著作権を侵害するかどうかの問題となります。
著作権侵害が認められるためには、主に「類似性」と「依拠性」という2つの要件を満たすことが必要となります。
「類似性」と「依拠性」の2つの要件に注目
「類似性」とは、生成AIで生成したイラストとイラストレーターの過去の作品とが、表現のうち本質的な部分で似ていることを意味しています。
ご質問のケースでは、生成AIで生成したイラストとイラストレーターの過去の作品とは、イラストのタッチもよく似ており、「盗作された」と思われても無理がないほど酷似したイラストであったとのことですので、「類似性」は満たしている可能性は高いでしょう。
次に、「依拠性」とは、他人の著作物を知ったうえで、その著作物を自分の作品の中に用いたことを言います。つまり、他人が作った作品を知っており、その作品を真似して自分の作品の中に取り込んだ場合には依拠性が認められることになります。そのため、他人の著作物のことを知らずに、たまたま他人の著作物に似ている物を作り出してしまっても依拠性は認められません。

しかし、生成AIを使ってイラストなどを生成する場合には、全く同じように考えることはできません。というのも、生成AIを利用する場合、生成AIを利用する人は、生成AIがどのような素材から学習してイラストなどを生成したか知らない場合もあるからです。このような場合に、生成AIを使って生成したイラストについて、「依拠性」が認められるかが問題となります。
この点について、文化審議会著作権分科会法制度小委員会が令和6年3月15日に公開している「AIと著作権に関する考え方」(以下「考え方」といいます)の記載が参考になります。
「考え方」によると、生成AIの利用者が、既存の著作物を認識していなかったとしても、使用した生成AIが学習段階でその著作物を学習していた場合には、「依拠性」があると推認されるとされています。
ご質問のケースでは、貴社は、イラストレーターのことや過去のシーバスの作品について知らなかったということです。また、生成AIがどのような画像等から学習してイラストを生成しているかも分からないとのことです。
しかし、結果的に生成AIで生成されたイラストが既存のシーバスのイラストと酷似していたということは、生成AIが既存のシーバスのイラストから学習していた可能性が高いといえます。そのため、本件においては依拠性が認められる可能性も高いでしょう。
このように、ご質問のケースでは、貴社が生成AIを使って生成したイラストについて、イラストレーターの過去の作品との類似性や依拠性が認められる可能性が高く、著作権を侵害する可能性が高いといえます。そのため、イラストレーターの請求のうち、イラストの使用停止を求める訴えについては、その請求が認められる可能性が高いです。
「著作権侵害については以下もご参照ください。
参考:著作権侵害とは?事例や罰則、成立要件などをわかりやすく解説」
損賠賠償請求については認められる可能性は低い
一方、イラストレーターの請求のうち、損害賠償を求める訴えについては、その請求が認められるためには、訴えられた者に故意又は過失がなければなりません。
ご質問のケースで、貴社は、商業利用が可能である生成AIについて月額料金を支払ったうえで、生成AIを利用しており、今回問題となったイラストを生成・利用するにあたっても、イラストレーターの過去の作品を知らずに利用していたにすぎません。したがって、貴社には、故意や過失はなく、イラストレーターの損害賠償請求については認められない可能性が高いです。
以上をまとめると、ご質問のケースにおいて、イラストレーターの請求のうち、イラストの使用停止の請求は認められ、損害賠償請求は認められない可能性が高いです。そのため、貴社としては、イラストレーターに対して損害賠償は行う必要はありませんが、使用しているイラストの使用は停止する必要があります。
最後に、生成AIを利用すると上記のような法的責任が生じる可能性がありますが、どのような対策が考えられるでしょうか。
この点について、著作権侵害のリスクをゼロにできるわけではありませんが、生成AIによって生成されたイラストや画像について、インターネット検索エンジンの画像検索を利用して類似の画像がないかを調べることが対策の一つとして挙げられます。
こうすれば、少なくとも生成された画像に酷似した画像がインターネット上で公開されていないかを確認することができ、著作権を侵害しているおそれのあるイラスト等を使用することを避けることができます。
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】
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