「川に新しい釣り人が増えた」という声が各地で聞かれ、アユルアーの注目度は全国的に高まっている。毎年10河川以上(一定区域のみの解禁含む)のペースでアユルアーが出来る河川が増えており、一部の鮎釣り河川や内水面漁業の明るいニュースとなっている。
そのような中、今年(2024年)からアユルアーの使用を認め、注目を集めているのが、三重県の大内山川(おおうちやまがわ)だ。
大内山川は三重県南勢地域を流れる延長約40㎞の一級河川だ。高速道路からのアクセスも良く、三重県内でトップクラスの人気を誇る鮎釣り河川だ。天然遡上も多い大内山川は適度な川幅で、入川道なども分かりやすく、釣りもしやすい。
伊勢神宮に奉納している「大内山のぼり鮎」も有名で、町の魚にもアユが認定されている。「清流めぐり利き鮎会」で準ブランプリを獲得したこともあり、美味しいアユが釣れる川としても知られている。
大内山川漁業協同組合の渡邊典浩代表理事組合長(以下、渡邊組合長)は、大内山川でアユルアーが出来るようにするため、スピード感のある改革を推し進めてきた。その経緯や背景を伺った。
日券の売上は一昨年比200%。驚くほどアユルアーの人が川に来てくれた
(以下、渡邊組合長)「今年、アユルアーを解禁して、日券の売上は5月末で前年対比130%、前々年対比では約200%と大幅に伸びました。当初、アユルアーを解禁しても、そこまで釣り人は増えないだろうと思っていましたが、ビックリするほどアユルアーをする方が川に来てくれました。それも、全く新規の釣り人ばかりです。
大内山川で急いでアユルアーを解禁したのは、今後も漁協を安定して経営していくためです。私は三重県内水面漁業協同組合連合会の代表理事会長も務めていますが、役員の高齢化や資金面等の問題で経営が難しくなっている漁協は多いです。今後も漁協を維持していくためには何をすべきか、漁協の役員や執行部も意識改革が必要な時代だと思います」。
「1年待つべきじゃない、今年解禁すべきだ!」
大内山川では今年の2月末に、釣り具メーカーに来てもらい、アユルアーの講習会を行った。それを見た渡邊組合長は「これは、あと1年待つべきじゃない。今年解禁すべきだ」と直感した。
アユルアーを解禁するためには遊漁規則等を変更する必要があり、そのためには三重県の内水面漁場管理委員会を通す必要がある。通常、委員会は5月に開催されるが、開催されるのを待っていると今年の解禁に遅れるため、渡邊組合長は県に働き掛け、委員会を早期に開催してもらい、遊漁規則の一部改正を実現させた。
それと同時に漁協内でも、アユルアーの必要性を説いて回った。渡邊組合長は地元の有力釣具店である「つりエサ市場」等を運営する中部レジャーグループの代表CEOでもあるが、経営者ならではの感覚とスピード感でアユルアーの解禁に向けて動き続けた。
「アユルアーの講習会を見るまでは、私もアユルアーはキャストするので、友釣りの人とトラブルが増えるのではないかと心配もありました。しかし、実際見てみると、そんな心配は無用だという事が分かりました。アユルアーは、出勤前や昼からなど短時間の釣りをするために日券を買ってもらえる人も多いです。漁協にとっても非常に有難いです。
漁協の経営的に見ても、アユの友釣りの方は朝4時過ぎから夕方までしっかり釣りをされて、50尾以上釣りたい方が大勢おられます。一方でアユルアーの方はそこまでの釣果は求められません。私も漁協の役員会でアユルアーを解禁するメリットを何度も説明しました。
アユルアーの解禁を進めて、もしトラブルが続出したらキッパリとアユルアーは辞めるという覚悟もありました。しかし、実際にはトラブルは起こっていません」。
支流の三ケ野川だけだった解禁を本流にも拡大。アユルアー可能エリアを大幅拡大
当初、2024年度から大内山川の支流である三ケ野川の流域のみ、アユルアーを使用できる区域に指定していた。しかし、アユルアーの関係者に率直な意見を求めたところ「このエリアだけでは物足りない」という感想を聞き、渡邊組合長は組合員を再度説得し、6月13日から三ケ野川に加えて、大内山川の本流4カ所でもアユルアーが出来る区間として指定し、アユルアーが出来るエリアを大幅に拡大した。
漁協の意識改革も必要。従来のままでは漁協は成り立たない可能性がある
「大内山川は三重県で一番人気の友釣り河川ですし、友釣りの方の遊漁料収入だけでも運営していく事はできます。今でも新しい若い組合員が入ってくる漁協です。それでも、賦課金(ふかきん・年間で払う組合員費)や行使料(こうしりょう・実際に自分が行う漁獲方法の漁業権を行使するための費用)は毎年微減となっています。何故なら、亡くなっていく組合員さんの方が多いからです。物産や賦課金等で漁協の経営が今後も賄っていければいいのですが、現実的には非常に難しいと思います。友釣りの方もなかなか増えないので、従来のままでは遊漁料収入も今後減少し、漁協の経営が年々厳しくなっていく事は明らかです。
本来は大内山川がアユルアーを解禁するのではなく、友釣りで遊漁料収入が稼げていない河川がアユルアーに取り組めば良いのですが、そういった漁協さんは、役員の高齢化等もあって、新しい事に取り組める状況ではない事が多いです。ですから、三重県では大内山川が先頭を切ってアユルアーを解禁するしかないと思いました。
アユルアーを解禁し、漁協の収入が増えれば、それまで反対されていた組合員の考え方も変わってくると思いますし、釣り人へのサービスの強化や更に良い川作りも出来ると思います。
大内山川漁協に限った話ではありませんが、漁協の中で議決権を持った方でも、今までと同じ量の放流を行い、それでダメになったらしょうがないじゃないか、と考える方もおられます。かといって、経営が厳しいので賦課金を値上げするという提案をしても、なかなか通りにくいでしょう。
他に収益を上げるアイデアも出にくいですし、実行できる人材もいない。こういった状況が続けば、将来的に漁協は解散せざるを得なくなり、その漁協が管理していた川は無法地帯となってしまいます。それで良いのでしょうか。釣り具メーカーさんが何か仕掛けたいと言っても、肝心の釣り場が無ければ何も出来ないと思います。内水面の釣り自体も衰退してしまう可能性があります」。
釣り人に来てもらえる川作りが必要!アユルアーを解禁するだけでは釣り人は来ない
渡邊組合長は経営者の感覚で漁協を引っ張っている。全国を見渡しても、アユルアーに率先して取り組んでいる組合長は、行政との連携があり、行動力があり、経営者感覚を持った人が多いように思われる。
注意したいのは、どのようなアユ釣り河川でも、アユルアーを解禁すれば多くの釣り人が来てくれるわけではないという事だ。また、地域や規模、状況によっては、アユルアーを解禁しない方が良い河川もあるだろう。
いずれにせよ、大内山川のように釣り人に人気のある河川にするため、川作りをしっかり行っている事が、アユルアーで成功するためにも重要だ。渡邊組合長も10年以上をかけて、大内山川で追いの強い、美味しいアユが沢山釣れる川作りを徹底して行ってきた。もちろん、カワウ対策も徹底しており、釣果等の情報発信も積極的に行っている。
三重県の連合会主催で鮎ルアー塾開催。来年はアユルアー大会も計画
「三重県内水面漁業協同組合連合会ではアユルアーロッドの貸し出しや、アユルアー塾も開催しています。今年は4回開催する予定です。来年は連合会でアユルアーの大会も開催したいと考えています。
バチコンやイカメタルなど、昔から釣ってきた魚でも、新しい釣り方を提案してきた事で、これだけのブームになっています。アユ釣りでも同じ事が言えるのではないでしょうか。アユルアーはアユ釣り河川の救世主になると思います」。
関連ページ → 大内山川漁業協同組合 (ayuriver.jp)