釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。
今回は、反射時間とフッキングについて、車の運転の「選択反応時間」とヘラブナの練り餌の強度を基に考察して頂きました。
一般社団法人全日本指定自動車教習所協会連合会から発刊されている「みんなで守る安全運転」という手引きがあります。これは自動車免許証の更新などの際に配布されているもので、皆様も何度か目にされたことがあるかと思います。
その中に、運転者が危険を感じてから行動を起こすまでの平均時間を年齢とともに示したものがあります。これを「選択反応時間」と呼んでいて、若い世代であれば0.5秒台で行動を起こしていますが、50歳以上になると0.6秒以上の時間を要してしまいます。
スポーツ選手のように日頃から訓練していればこの反射時間は大幅に短くなると言われますが、「車は急に止まれない!」とよく耳にする通り、ブレーキ性能とは関係なく、人の反射する時間は思いのほか長いということになります。年はとりたくないものですね。
ヘラブナが吸い込みやすい練り餌の強度は?
ところで、この「選択反応時間」は釣りにも大きく影響していると考えています。
例として、身近な場所で釣れるヘラブナというお魚さんはとても神経質で、釣り針に装着した餌が硬すぎるとすぐに吐き出してしまいます。しかしながら、餌が柔らかすぎると、投入した後すぐに餌が溶けてヘラブナがいるタナに到達するまでに無くなってしまいます。かといって柔らかくするために餌に粘りを付けすぎると、今度は集魚力が低くなってしまいます。
では、練り餌の強度はどれくらい必要なのでしょうか。
装着する練り餌が釣り針から脱落するまでの時間を計測してみました。用いた餌はポピュラーな商品です。詳細は割愛させていただきますが、加える水量が多いほど柔らかく、ヘラブナが吸い込みやすい仕上がりになります。
これを以下のように水量を変えて作成し、長さ10㎝のハリスに結んだ釣り針に装着し、投入後に脱落するまでの時間を10回ほど計測した結果は以下の通りです。
・柔練り(標準水量の1.2倍量の水を加えて練った物):35秒
・標準練り(標準水量の1倍量の水を加えて練ったもの):64秒
・硬練り(標準水量の0.8倍量の水を加えて練ったもの):213秒
ただし、実際の釣り場はこれよりも水深があり、ヘラブナが群れていることが多いため、この時間よりも早く脱落します。
次に、これら3つのサンプルを水槽で飼育しているヘラブナを用いて、釣り針に装着して投入。ヘラブナが吸い込んでから吐き出すまでの時間をそれぞれ10回ずつ計測し、その平均値を示したものが下図になります。
結果として、標準水量の0.8で作成した硬練りの餌の口腔内滞留時間は0.62秒で、同じく標準練りは0.88秒。そして柔練りは1.68秒になりました。
しかしながら、柔練りの餌は水中で釣り針に残っている時間が僅か35秒ほどしかなく、実際の釣り場で使うことは困難です。そうなると、実用可能な餌は硬練りと標準練りということになります。
練り餌の強度と「選択反応時間」の関係は?
そこで、少々無理があるかもしれませんが、アタリが出たと察知して、アワセるまでの時間を先ほどの「選択反応時間」と重ね合わせて見ましょう。
50歳以上の年齢の方はアタリを感知してアワセるまでに0.6秒以上を要してしまいますから、標準練りの餌であっても、フッキング可能なタイミングは僅か0.3秒弱ほどということになります。硬練りにおいては0.62秒ということで、アタリを感知してアワセを入れてもほぼ間に合わないという結果になります。
それともう1つ、この釣りで重要なことは、ヘラブナが餌を吸い込んだ時、餌が柔らかければ吸い込まれた練り餌の塊は口腔内で崩壊するため、釣り針はむき出しの状態となり、吐き出そうとしてもどこかに引っ掛かっている可能性が高くなります。
一方、餌が硬いと吸い込んだ後もそのままの塊が釣り針を覆っていますから、餌の塊を吐き出すとき、釣り針も一緒に吐き出してしまう可能性が高くなります。
柔らかい餌を如何に脱落させずにタナに届けるか、そして、アタリを察知してからの瞬時の判断を的確に行うためには、相応の集中力が伴います。
ヘラブナ釣りは年配のベテランがとても多いのですが、これはこの釣りの手軽さが大きく関わっています。面白くてしかも脳の老化を防ぐ…ヘラブナ釣りは一石二鳥の効果があると確信しています。
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