埼玉県水産研究所は、ワカサギ種苗の県内安定供給を図るため、今年度から全国でも初という同魚の陸上養殖事業に取り組んでいる。事業に必要な施設を今年秋頃までに敷地内へ整備し、最終的に年間3000万粒のワカサギ卵の生産供給体制を構築する方針だ。
埼玉県水産研究所は試験研究、成果の普及と指導とともに水産に関する行政事務も行う県水産現場の総合的機関。増殖業の分野として、金魚など観賞魚の品質向上、ホンモロコなどの食用魚の安定生産を図るための技術開発や、生産者などへの普及指導を実施。
また、釣り人に関係の深い河川漁業の分野としては魚影豊かな川づくりのため、増殖技術の開発や魚類の生息環境の改善、漁協・関係団体などに対しての技術的指導や提言を行っている。
ワカサギの親魚育成技術・効率的な採卵法の開発を目指す
ワカサギの陸上養殖事業は、陸上養殖によるワカサギの育成、採卵技術を開発し、河川等に放流するワカサギ種苗の安定供給を行い、ワカサギ資源の増殖を図る。また、陸上養殖の技術や知見の蓄積を行うことで、県内陸上養殖の安定生産を図るのが目的。
県は、この新規事業の予算として令和6年度一般会計当初予算に約2600万円を計上した。
計画によると、今年度は秋頃に同研究所内の既存建物内へ直径3mほどのFRP製の円形水槽(容量3トン)2基と沈殿槽、濾過機、加温冷却機、循環ポンプ、紫外線殺菌装置を設置する。施設で利用する水は敷地内から汲み上げた地下水を利用し、かけ流しではなく、水温を管理しながら循環させる。
同研究所の敷地内には水量が豊富な人工池もあるが、太陽の照射を直に受け、夏季には水温が高温となってしまい、ワカサギ飼育には適していない。同研究所がこれまでのワカサギ飼育から得た孵化時の水温は15度が上限であり、稚魚の段階に移行しても「25度を超えると、きつい」(水産技術担当の大力圭太郎さん)という。しっかりとした数量のワカサギを飼育するには、水温の調節が管理できる施設整備が不可欠だった。
陸上養殖施設で飼育し、採卵するワカサギの親魚については、現在、県内単位漁協へ県漁業協同組合連合会(県水産研究所内)を通して配分されている北海道網走産の卵、または県内戸田市にある彩湖(さいこ)に生息しているワカサギを採捕し、卵を孵化、成長させた親魚の2通りのいずれかとすることで検討している。
施設を使ってワカサギ親魚育成技術を開発するとともに、親魚から効率的に採卵する技術も構築する。
年次計画としては今年度中の施設整備を経て、令和7年度からワカサギを飼育、3年目に1500万粒のワカサギ卵生産を目指す。
最終目標数については、3000万粒と設定している。この卵量は、県内漁協が放流のために求める最低ラインという。
釣り人のため、釣果安定を目指して…
埼玉県におけるワカサギの増殖方法は卵放流で、放流種苗はすべて県外からの供給に頼っている。しかし、近年は主要な漁場である長野県諏訪湖でワカサギが不漁なため、卵の供給が安定化せず、県内単位漁協の増殖計画に支障が生じている。
県内では秩父、埼玉中央、武蔵、埼玉西部、入間、埼玉南部、児玉郡市、埼玉県北部、埼玉東部の合計9つの漁協が活動し、このうち7漁協に、ワカサギ卵を県漁連を通じて配布することで、釣り場が維持されている。
しかし、7漁協の希望量に対して、卵供給量については達成しておらず、令和5年までの過去5年間の平均供給量は6割にとどまっているのが実情だ。
県のワカサギ陸上養殖施設は、こうした課題を打破し、自前のワカサギ資源が増加することで釣り人の釣果安定にもなると関係者は展望する。
青木伯生(のりお)所長は「将来的に各漁協さんの目標増殖量をカバーするとともに、この陸上養殖施設を使った養殖方法のノウハウの蓄積を、他の魚種でも活用できるようにしたい」と話している。
【小島満也】