アユルアーで釣りが出来る河川は年々増加している。今では、アユルアーの認知度も高まり、釣具業界でも注目が集まるジャンルになっている。この流れを最初に作ったのは、株式会社カツイチ(兵庫県西脇市本社)の中川宗繁社長だ。2012年「再び鮎を!」というコンセプトで「REAYU(リアユ)」というアユルアーブランドを立ち上げた。これまでの経緯や、アユルアーに長年取り組んできて分かった「アユルアーを取り入れて成功する河川の条件」など、中川社長に話を伺った。
近いうちにアユの友釣りは廃れてしまう…。ルアー発表の3年前、2009年に中川社長は社内で極秘プロジェクトを始動
カツイチは、アユの友釣りのメーカーとしても有名だ。友釣り用の掛け鈎、ハナカン、サカサ鈎、仕掛け、小物類など多数ラインナップしており、今も友釣り師から高い評価を得ている。
そのカツイチがアユルアーに取り組むキッカケは何だったのか。中川社長は次のように語る。
「当社にとってアユの友釣りは主力のジャンルの1つでしたが、20年ほど前から売上も下降線が続くようになっていました。当時、アユの友釣りは上級者だけが楽しみ、高齢化が進む釣りになっていました。その反面、河川の環境は良くなり、毎年のように多摩川等では過去最高のアユの遡上が確認され、多くの河川で魚道の整備が進むなど、アユの友釣りにとって右肩上がりの良い話がある中で、市場は縮小を続けていました。
このままの状況が続くとアユの友釣りはいずれ廃れてしまうと、私は強い危機感を持っていました。そこで、ルアーを使って簡単に釣りが出来るようにし、再びアユ釣りや河川が賑わうように出来ないかと考えたのが、アユルアー(リアユ)を始めたキッカケです」。
中川社長がルアーを活用してアユ釣りを再び盛り上げようと決めた後、まずは若い釣り人がなぜ友釣りをしないのかを調査すると、道具等の問題の他に、意外にも「オトリ屋に行く事に抵抗がある」という答えが返ってきた。
アユの友釣り師とルアーの釣り人はそもそも準備の習慣が違う
友釣り師は、釣行の前にオトリ屋に行き、釣果情報を得て活きたオトリアユを購入するのが一般的だ。エサ釣り師も、釣行前に釣具店に行き、エサを買う。しかし、ルアーの釣り人は釣行前に釣具店等に立ち寄るという習慣がほぼないのだ。
さらに、初心者がアユ釣りを始めるには次なる難関が立ちはだかる。オトリを購入して、いざ釣ろうとしても、活きたオトリにハナカンを通す事は至難の技だ。こういった様々な事を考えると、若いアユ釣り師を増やすためには、まずは川に入ってすぐに釣りが出来るルアーを活用するのが一番良い方法だという確信が強まった。
また、季節商売に加え、オトリ屋の事業承継も上手くいかない等の理由で、廃業するオトリ屋も出てきていた。川にはたくさんの天然アユが遡上しても、オトリが手に入りにくい状況が近い未来に起こる事も予想された。そのため、中川社長はリアユの開発を加速させたという。
再びしっかりとアユ釣りに取り組む。だからカツイチでリアユを行う
「手軽にルアーでアユ釣りを始められるというコンセプトでリアユのプロジェクトを開始しました。延べ竿はもちろんですが、2刀流、つまりリール付ロッドを使用したキャスティングスタイルでもアユルアーの釣りが出来る可能性もあることから、漁協の遊漁規則を調べると、全国で5つぐらいの河川で釣りをしてもよい事が分かりました。当時、いろいろな漁協さんに協力依頼を行ったのですが、特にリール付ロッドでのアユルアーを理解してもらえる漁協さんは少なかったです。
全国内水面漁業協同組合連合会の本部にも現状の報告や今後のアユルアー活動の相談に行きましたが、全国的に遊漁等のルールを変更するのは難しい事も分かりました。所詮、若造1人で活動していてもなかなか顕著な進展は得られなかった、というのが当時の実情です。しかし、そうこうしているうちにアユの市場は悪化するばかりです。色々な非難は予想の上、見切り発車でリアユを発売し、プロジェクトをスタートさせる形をとりました」。
中川社長は当時管理職ではあったが、社内で極秘プロジェクトとして単独でリアユのプロジェクトを進めていた。カツイチは友釣りの関係者も多い会社だ。思わぬ形で「ルアーのアユ釣りを広げようとしている」という取り組みが外に漏れると、どういった反応が起こるか分からなかったからだ。言い換えるとアユルアーは業界の中でもパンドラの箱、開けると災いが起こる可能性が高いものだった。
実際にリアユを発売以降、中川社長はオトリ屋から非難を受けた事は何度もあり、業界関係者からも「息子さん(現在の中川社長)は何をやっているの? どうしてもルアーをやるのならデコイ(カツイチのルアーフックブランド)でやってよ」等と、苦言もたくさん頂いたそうだ。
「私はあえてカツイチ(アユ、渓流、磯などカツイチの総合釣り鈎・仕掛けのブランド)のカタログ表紙でリアユを発表することにこそ意味があると思っていました。私が先代とは違う方向から再びアユ釣りに向き合い、カツイチを盛り立てたいという気持ちが強かったからです」。
新しい釣り人に川に入ってアユ釣りをしてもらう事がリアユの目的。オトリ屋の商売を邪魔するものではない
中川社長は、アユルアーに取り組み始めた頃から伝えているが、アユルアーは決してオトリ屋の商売を邪魔するものではない。まずはルアーを使ったとしても、ともかく川に入ってアユ釣りを始め、アユを釣ってもらうことがリアユの目的であり、新規の釣り人を呼び込む事で、結果的に友釣りを楽しむ人が増え、漁協やオトリ屋を訪れる釣り人が増えることを見据えていたからだ。この誤解を解いていく事には、今でも苦労する事があると言う。
「2012年に発足して以来、毎年、漁協の皆様と講習会も実施して、徐々にではありましたがアユルアーを楽しむ人も増えました。数年すると、キャスティングスタイルのルアーで釣りが出来る河川も20河川ほどまで増えました。アユルアーが出来る河川では、特に若い釣り人が増えていました。そして、次のステップとして、以前から親交があったパームスの飯田重祐氏をお誘いして、キャスティングで行うアユルアーの釣りを広める活動を本格的に開始しました」。
キャスティングアユを広める事で、アユルアーの拡大も加速
リアユはもともと友釣り用の、のべ竿で使用する事を前提に設計されている。友釣り用の仕掛けもそのまま使用でき、活きたオトリアユのかわりに、リアユをセットしてアユを狙う。これがいわばアユルアーの第一段階だが、第二段階として、ルアータックルを使用したキャスティングアユの普及が始まった。パームスをはじめ大手メーカーも参入し、一気にアユルアーの注目度が高まっていく。
パームスからは大ヒットルアーとなる、キャスティグアユのルアー「エスケード」が発売された。この「エスケード」を友竿用に専用チューンを施したのが「リスケード」で、これはカツイチ社から発売している。ルアータックルでも使いやすいルアーや専用のロッド等も発売された事で、アユルアーを始めるハードルは更に下がり、普及へと繋がっていく。
渓流釣りを楽しむ人は、アユルアーをしてもらいやすい
「パームスさんをお誘いして、渓流釣りの人が大勢アユルアーに入ってきてくれたのは、アユルアーにとって大きなターニングポイントになったと思います。そもそも、私は5~6年ほど1社でプロジェクトを自分なりに進めてきたのですが、私なりにアユルアーを受け入れる釣り人の層が分かってきました。
まず当初目論んでいたバス・ソルトアングラーにアユルアーをしてもらう事はほぼ不可能だという事が分かりました。何故ならバス・ソルトのアングラーは釣り場に対してお金を払う習慣がありませんから、遊漁料に抵抗があったのだと思います。それならば、対照的に渓流釣りをしている人は、アユルアーと相性が良いのではないかと考え方を変えました。
実は私がお聞きした多くの漁協の共通点として、渓流の遊漁券収入は安定しており、アユほど大きな減少がないという事を言われていました。渓流人口はバスやソルトに比べれば多くはないですが、渓流釣りの方にアユルアーも楽しんでもらえるようになれば、いろんなシナジー効果がきっと生まれると予想し、ターゲットとする顧客の層を変えたのです。
渓流釣りの方がアユルアーをしてもらいやすい理由として、まず、渓流釣りを楽しむ人は川で魚を釣る装備が最初から整っていることが挙げられます。川のルールやポイントも良く知っておられ、他のジャンルの釣り人よりアユルアーを始めてもらいやすい。そもそも、渓流釣りをされる方は、ウエダー、ベスト、ネット、シューズなど川に入る道具を全て持っておられますし、特にサクラマスを釣られている方は、アユタイツを履いておられる方が多く、そのまま竿や道具を変えればアユルアーが始めれるのです。また、何より日本特有の釣りである『アユの友釣り』へのリスペクトを持たれているのも渡りに船です。
渓流釣りの釣期(シーズン)を考えてみても、渓流釣りは3~5月ぐらいがシーズンで、アユの友釣りの始まりとともに場所がアユとバッティングするため源流域に行かれるか、多くの方が一時的に釣りをやめられます。仮に渓流釣りの方々がアユ釣りを始めたら、川に釣り人が持続するサイクルが生まれるはずだと考えました。
数年後、推察していた通り、徐々に渓流釣りの方々がアユルアー釣りを始める事となりました。
アユルアーでも有名な相模川では、近隣の釣具店の店員さん等の取り組みの成果もあって、夏場は渓流釣りの方を中心にアユルアーに移行されるようになりました。こういった事例が増えた事で、アユルアーの認知度が全国的に上がったと思います」。