釣り具メーカーのテスターが問題動画投稿、SNSで大炎上。過激な誹謗中傷に法的措置は取れる?【弁護士に聞く】

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「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。

今回は、SNSでの過激な誹謗中について、法的措置は取れるのかを弁護士の先生に聞きました。

「釣具業界の法律相談所」のカット
    

投稿した釣行動画に批判が殺到し、大きな問題に。不買運動まで起こり…?

弊社は釣具メーカーです。先日、弊社のテスターがアップしたSNSの投稿が大炎上してしまい、当該テスターへの個人攻撃や、弊社商品の不買運動を呼び掛ける投稿まで行われてしまいました。

そのテスターは、Xのフォロワー数が12万人おり、投稿の拡散力も高いため、問題となった投稿も一瞬で広がり、数日で200万回を超える表示回数となってしまいました。

問題の投稿は、当該テスターが弊社製品を使って魚を釣り上げるという内容です。動画の詳細は、渓流で弊社の新製品のルアーを使ってイトウを狙うものです。魚が上手くヒットしたのですが、釣れてきたのはイトウではなく、テスターが見た事もない魚でした。そのため、そのテスターは釣れた魚を手にもって「狙ってたのはオマエじゃねーよ(笑)」と言って、地面に放り投げてしまいました。テロップ等も使い、その様子を面白く表現した内容で動画は作られていました。

しかし、後でその動画を見た渓流を管理する漁協関係者から「あの地面に放り投げられた魚は希少種で、もし釣れてしまっても必ずリリースをお願いしている魚です。このような魚の扱い方は非常に残念に思います。他の方は絶対に真似をされないようお願い致します」というメッセージがX上に送られてきました。

それを機に、テスターのSNS上に非難のメッセージや投稿が殺到し始めました。弊社のテスターは、日頃過激な内容の文章や動画をSNSに投稿する事が多く、フォロワー数は多いのですが、以前から良く思っていない人も多い存在でした。そのため、非難も一気に加速したのかもしれません。

テスターへの誹謗中傷の投稿では「お前に釣りをする資格はない」、「魚の名前も知らないのにプロを名乗るな」、「釣りやめろ」、さらに「早く死ね」など過激な書き込みもありました。

また弊社に直接関係するものでは、「このテスターをサポートしているメーカーはセンスが悪すぎる」、「こいつ(当該テスター)を応援しているメーカーの商品は皆さんも買わないように!」と呼びかける投稿も数多くありました。

この炎上以降、弊社への商品の注文数は顕著に落ちており、この影響が長期化すると経営上、大きな問題となってしまいます。さらに、弊社のテスターも、あまりに誹謗中傷の投稿が多いため、釣りどころか外出すら出来なくなってしまいました。今、どういった治療が出来るか調査しているところです。

そこで弁護士の先生に質問です。

まず、弊社テスターにSNS上で誹謗中傷を行った相手に対して、投稿の削除や、特に「早く死ね」といった過激な投稿を行った相手に対しては、厳しい法的な措置をとりたいと思っていますが、どのような訴えを起こせばよいのでしょうか。

また、弊社製品の不買運動を呼び掛けた相手に対しても、投稿の削除と損害賠償請求を行いたいと思っているのですが、訴えは認められるのでしょうか。ご回答をお願いします。

(※この質問は架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)

【弁護士の回答】まずは、SNSの運営会社に投稿者情報を開示してもらえるかがポイント

ネット炎上のイメージ
ネットでの過激な誹謗中傷。今回のケースでは、どのような法的措置を取ることが出来るのだろうか?

SNS上で誹謗中傷を行った相手に対して、投稿の削除などを請求したいと考えているとのことですが、具体的にどういった方法で請求することができるでしょうか。

まず、SNS上の誹謗中傷の投稿に対して行うことができる法的措置としては、主に投稿の削除請求と損害賠償請求が考えられます。そのため、テスターに対して誹謗中傷を行った相手には、投稿の削除請求と損害賠償請求を行うことができます。

そして、投稿の削除請求や損害賠償請求を行うための法的手段はいくつかあります。そのうち、代表的な手段として、投稿をした人の氏名や住所を特定したうえで、その人に対して直接投稿の削除や損害賠償の請求をする手段があげられます。

通常、SNSは匿名で行っている人が多いため、投稿者を特定することは難しいです。しかし、それでは誹謗中傷の被害を受けている人が投稿者に対して何の請求もできずに泣き寝入りしなければいけなくなってしまいます。そこで、法律によって投稿者の情報を特定するための手段が認められています。この手続きを「発信者情報開示命令の申立て」といいます。

ご質問のケースでも、まずは、裁判所に発信者情報開示命令の申立てを行い、SNSの運営会社から投稿者の情報を開示してもらうことになります。

投稿者の情報が開示され、投稿者の氏名や住所が明らかになれば、投稿者に対して、直接投稿の削除を請求したり、慰謝料や治療費などの損害を賠償するように請求したりします。

発信者情報開示請求については、以下の記事をあわせてご参照ください。
参考:発信者情報開示請求とは?流れと必要期間、成功ポイントを弁護士が解説

ここで注意が必要なのは、発信者情報開示命令の申立てを行った場合、必ず投稿者の情報が開示されるわけではないということです。投稿者の情報が開示されるのは、投稿によって開示を求める人の権利が侵害されたことが明らかである場合に限られています。

また、損害賠償請求が認められるためにも、問題となる投稿が名誉権やプライバシー権などの法的な権利を侵害していることが必要となります。

そのため、テスターに対する誹謗中傷の投稿が、テスターの名誉権などの法的な権利を侵害しているかどうかが問題となります。

「お前に釣りをする資格はない」発言は、限度を超えた侮辱行為か?

まず、「お前に釣りをする資格はない」、「魚の名前も知らないのにプロを名乗るな」、「釣りやめろ」といった投稿は、テスターの法的な権利を侵害しているといえるでしょうか。

これらの投稿はテスターに対する侮辱的な表現であり、テスターの名誉感情を侵害するものといえます。

しかし、最高裁判所の判決によると、名誉感情の侵害が法的な権利の侵害として認められるためには、社会通念上許される限度を超えるような侮辱行為でなければならないとされています(最高裁判所平成22年4月13日判決)。最近の裁判例(東京地方裁判所令和3年11月19日判決)でも、「管理者として失格」などといった否定的な内容であっても、個人的な意見を述べるものであるとして、違法性を否定しています。

ご質問のケースで問題となる投稿は、確かに侮辱的な表現ではありますが、「釣りをする資格はない」、「プロを名乗るな」とは、「釣った魚を雑に扱う人には釣りをしてほしくない」という考えを感情的に表現したものであり、投稿者の意見や感想として投稿されているものにすぎません。そのため、社会通念上許される限度を超えるとまではいえないと考えられます。

したがって、「お前に釣りをする資格はない」、「魚の名前も知らないのにプロを名乗るな」、「釣りやめろ」といった投稿については、テスターの法的な権利を侵害しているとはいえず、投稿者の情報を開示したうえで、法的な請求をすることは難しいといえます。

誹謗中傷のイメージ
被害者が法的な権利を侵害されたかどうかは、受けた発言が、社会通念上許される限度を超えるような侮辱行為かどうかで判断される

「早く死ね」発言には損害賠償請求が可能

では、「早く死ね」という投稿についてはどうでしょうか。

最近の裁判例(東京地方裁判所令和3年10月1日判決)では、ツイッター上でツイートを引用して「死ねばいいのに~」と投稿した事例について、このような投稿は、相手が死ぬことを求めるもので、相手の人格を否定するという意味で、社会通念上許される限度を超える侮辱行為と認めています。

この裁判例を参考にすると、「早く死ね」という投稿についても、テスターが死ぬことを求めているもので、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると考えられます。

したがって、「早く死ね」という投稿については、テスターの法的な権利を侵害しているといえ、投稿者の情報を開示したうえで、投稿の削除請求や損害賠償請求をすることが可能です。

なお、発信者情報開示命令の申立てや、損害賠償請求を行うことができるのは、投稿によって誹謗中傷をされた人に限られています。ご質問のケースでは、「早く死ね」という投稿はテスターに対してなされているため、テスターのみが請求することができ、貴社が請求を行うことはできない点には注意が必要です。

不買運動は違法ではない?

不買運動のイメージ
今回の事例では不買運動も起こったが、投稿者へ投稿の削除や損害賠償請求は可能だろうか?

次に、貴社は、SNS上で、「こいつ(当該テスター)を応援しているメーカーの商品は皆さんも買わないように!」と不買運動を呼び掛けるような投稿もされています。

このような投稿について、投稿の削除や損害賠償の訴えは認められるでしょうか。

結論からいえば、このような訴えは認められない可能性が高いです。

不買運動が違法な行為に該当するか否かが問題となった裁判例として、名古屋地方裁判所平成14年7月5日判決があります。この裁判例では、会社の商品が売れるかどうかは、不買運動の有無ではなく、会社の販売努力や宣伝内容、商品の優秀性などによって決まるものであるとしたうえで、事実に基づかない情報を指摘して買い手の判断を誤らせるような事情が無い限りは、不買運動も違法な行為には該当しないと判断しました。

ご質問のケースでは他の投稿内容などの詳細は明らかではありません。確かに不買運動を呼び掛けるような投稿がされていますが、単に貴社の商品を買わないように呼び掛けているだけです。また、貴社が問題となったテスターをサポートしているのは事実です。そのため、事実に基づかない誇張表現などがなされているわけではありません。

そうすると、問題の投稿が違法とはいえませんので、投稿者に対して投稿の削除や損害賠償の訴えをしたとしても、このような訴えは認められない可能性が高いといえます。

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】

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