霞ケ浦水系をベースに水辺環境保全に取り組むNPO法人水辺基盤協会。1995年にスタートした霞ケ浦クリーン大作戦「53 PickUp!」と名付けられた活動はたちまち全国に広がり、楽しむことも忘れない水辺清掃活動として今も続いている。
同法人の代表を務める吉田幸二氏は、1984年に日本で初めてバスプロ宣言した人物。本場アメリカのバストーナメントにチャレンジし、バストーナメント団体であるW.B.S.(ワールドバスソサエティ)を立ち上げ、後に続くバスアングラーたちに大きな夢を与えてきた。
そんなプロアングラーの先駆けであり、バストーナメント界のリーダーとして活躍してきた吉田氏が水辺の環境保全活動に向き合い、さまざまな活動に取り組んでいる。
今回は市民(釣り人)から自治体や公的機関、環境団体に働きかければ、こんなに素晴らしい水辺環境保全活動ができる事例として、NPO法人水辺基盤協会の現在の取り組みを紹介したい。
950mの水路に生き物を呼び込んだ吉田幸二氏の熱意
霞ケ浦の南岸に流れ込む清明川(せいめいがわ)の河口北側に950mほどの水路がある。この名もない水路に、国交省(霞ケ浦河川事務所)は霞ケ浦の水質浄化を目的に、2007年まで本湖からポンプで水を汲み上げてきた。
しかし、水路(水草)を活用した植生浄化施設は、当初の目論見ほど水質改善につながらず、ポンプによる導水はその役目を終え停止となった。
吉田氏はいう。「一度、人が手をつけた水辺の環境は、手間を惜しまず維持管理していかなければ荒廃してしまう」と。水辺基盤協会のメンバーが「導水路」と呼ぶこの水路も例外ではなく、水が流れなくなり、葦原や雑草が水面を覆うことで水生生物が減少した。
吉田氏は長大で水深も浅く、足場もよいこの水路を放置することはもったいないと感じ、来る日も来る日も河川事務所へ足を運び、ポンプの再稼働を懇願する。
だが、河川事務所はたとえポンプを稼働してくれたとしても、水路の維持管理までは関知してくれない。管理は地元の有志たちで、半永久的に継続していかなければならないという覚悟のうえでの河川事務所との交渉だった。
そして、吉田氏の熱い思いは河川事務所に通じ、2017年にポンプは再稼働。
その後は公益財団法人リバーフロント研究所(河川財団)や、茨城大学などの研究機関と連携し、水路や葦の活用方法などさまざまな有効利用にも取り組んでいる。
吉田氏は水路の湖側にある葦原を残し、反対側の葦や雑草を刈り取って整地。水面に太陽光が差すようになったことで、水草が繁茂するようになる。
さらに、水路と本湖を水生生物が行き来できるように造った魚道がうまく機能し、マブナ、ヘラブナ、モツゴ、タナゴ、スジエビ、テナガエビなどの生息場や産卵場となった。
水路にはドブガイ、イシガイなども多く、それらの二枚貝に卵を産み付けるタイリクバラタナゴはこの水路内で繁殖するようになったという。
河川事務所の水質調査で一度は大きな改善が見られないと判断された水路だが、実際には多くの水生生物が棲み着くようになる。
吉田氏の思い描いていた水路の環境は整いつつある。水質調査の主だった指標となるBOD(生物化学的酸素要求量)や、pH(水素イオン濃度)などの数値だけでは、水生生物が棲みよい環境を表すことはできないことを証明したカタチとなった。
子供達が釣りやガサガサで楽しみながら環境を学べる水辺
水辺基盤協会が維持管理に取り組んでいる水路の整備はまだもう少し時間を必要とする。
今年の7月にはポンプが故障するというハプニングがあり、吉田氏は発電機とポータブル水中ポンプで水路内へ水を汲み上げる作業に追われた。生物多様性に富んだ水路の維持管理は想像を超える労力を必要とする。
その原動力となっているのが子どもたちの環境学習の場や、生き物と触れ合うことができるフィールドの提供だ。その思いは吉田氏自作のたくさんの看板からも伝わってくる。
命を守ること(救命具)の大切さ、生き物の尊さ、ゴミを捨てないことから始まる環境保全活動、危険な生き物への注意喚起などが心のこもったイラスト入りで描かれている。
第二弾、第三弾と続く水辺再生計画。次は湖畔の養魚池跡地の釣り場活用
吉田氏は導水路の再生だけに留まらず、養魚池跡地を釣り人に開放すべく次なる事業展開を模索している。
霞ケ浦本湖とつながっている池で魚を飼っていた養殖業者が廃業し、放置されたままの池がある。そのようなあまり整備する必要がない池を簡易釣り堀として活用するプランを温めている。
吉田氏の身体が1つなので、今回紹介した水路の運用が軌道に乗ってからになるが、霞ケ浦水系にはまだまだ釣り人をワクワクさせてくれそうな水辺が残されている。水辺基盤協会のさらなる活動に期待したい。
水辺基盤協会の原点となる水辺清掃活動「53Pick Up!」
「53Pick Up!」とは、「後世に残そう。ゴミのない美しい水辺を!」を合言葉にスタートした水辺の清掃活動。
バスブームと言われた90年代はバスフィッシング雑誌が多数発刊され、最前線で活動していた吉田氏はメディアに登場する機会が増えた。
しかし、その当時の湖岸にはゴミが散在し、「このままじゃ、釣り人は増えない」と盟友であった故・本山博之氏と話し合い、「拾うしかないだろ」という結論に達した。
特定外来生物に指定されたブラックバスに対する風評の緩和のために参加する人もいるが、「ゴミ拾いはバスフィッシングを守る免罪符ではない」と吉田氏は参加者に伝えている。
一時期は全国40カ所(年間70回)まで実施回数が増えたが、現在は10カ所で各地区年1~2回を定期的に行っている。
湖岸清掃活動で最初に立ちはだかった壁は、拾ったゴミの処理の難しさ。今でこそその功績が認められて協力してもらえる自治体も増えてきたが、活動費が嵩んだ時期もあった。
参加者は当然ながらボランティアだが、一般は1000円、中学生が500円、小学生が100円の参加費(清掃協力金)が必要になる。
霞ヶ浦環境科学センターとのコラボで200~300人規模の釣り教室を開催!
水辺基盤協会では、環境学習イベントや釣りファン育成にも取り組み、茨城県環境科学センターや流域市町村と連携して子どもたちに釣りを指導している。茨城県環境科学センターで実施している釣り教室は参加者200~300人という大規模のイベントになった。
市民活動が釣り場環境を変える!
今回、NPO法人水辺基盤協会の活動を紹介したのは、市民活動(釣り人)のパワーが釣り場環境を大きく変えられることを、釣具業界関係者に知ってほしかったからだ。将来へつながるビジョンをしっかりと描いている釣り人の活動を、業界関係者にサポートしてほしいと願っている。
NPO法人水辺基盤協会
正会員:入会金3000円 + 年会費6000円(初年度計9000円)
サポーター会員:年間1000円
法人会費:年間3万円
水生植物基金(寄付):一口1000円
※会員は4月1日~翌年3月31日を区切りとして募集。今回紹介した水路を活用した植生浄化施設の維持管理費は「水生植物基金」で賄われている。
詳細は、NPO法人水辺基盤協会公式ホームページまで。
【取材・執筆:岸裕之・編集:釣具新聞】
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