「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。
今回は、根掛かりで水中に残されたルアーを回収し販売する行為は、法律的に問題はないのかについて弁護士の先生に聞きました。
水中で拾ったルアー、中古ショップに販売すると10個5000円!?
私は良くバス釣りに行きます。霞ヶ浦等を中心にバス釣りが出来る釣り場に、頻繁に出かけています。岸からルアーでバスを釣るのですが、狙う場所によっては、どうしても根掛かりする事があります。そのため、意図せず、水中にルアーを残したままになってしまう事があります。
先日、この根掛かりが多い場所に行くと、水位が通常よりも低かったため、ルアーや糸が多く絡まった杭がむき出しになっていました。
私は日頃からゴミを出来るだけ出さないように釣りをしていますし、釣り場の清掃も年に何度か参加しています。そのため、水の中に入り、その杭まで歩いていき、10個以上のルアーや絡まった釣り糸を全て回収しました。回収したルアーの中には、新品同然のルアーや人気のルアーもいくつかありました。
そこで、「使えそうなルアーは少し洗うなどして、中古ショップで売れば小遣いになるのではないか?」と考えました。回収した中で、破損や劣化がひどいなど、明らかに使用できないルアーは家に持ち帰り捨てました。
後日、水中から回収したルアーを近隣の中古釣具店に持ち込み、査定をしてもらいました。すると、ルアー10個で5000円の値が付き、買い取ってもらいました。私としては、釣行費用の足しになりますし、釣り場もキレイになって大変嬉しく思いました。今後も水中からルアーを拾えば、また売ろうと思いました。
ところが、この事を釣り仲間に伝えると「それは、法律的に問題があるんじゃないの? 調べた方がいいよ」と言われました。私はゴミとして水中に放置されているルアーを拾って売っただけで、悪い事はしていないと思っていますが、本当に問題がないのかは分かりません。
そこで弁護士の先生に質問です。
まず、水中に放置されていたルアーを回収して、中古釣具店等に販売する事は、法律的に問題があるのでしょうか?
また、私はゴミ拾いだと思っていますが、水中に放置されていたルアーを回収して、持ち帰って捨てる事や、使えそうなルアーは自分で直して使う事については、法律的な問題はないのでしょうか。
ご回答をお願い致します。
【弁護士の回答】回収・販売は法律上問題なし
ご質問のケースで法律上問題となり得るのは、①水中に放置されていたルアーを回収する行為、②回収したルアーを中古釣具店等に販売する行為です。
そこで、まず①水中に放置されていたルアーを回収する行為が法律上問題ないかを検討した上で、①の行為が法律上問題なかったとしても、②回収したルアーを中古釣具店等に販売する行為が法律上問題ないかを検討しようと思います。
まず、①水中に放置されていたルアーを回収する行為に関して、刑法254条の漂流物横領罪に該当するかどうかが問題となります。漂流物横領とは、簡単にいうと、水面又は水中に放置された他人の物、すなわち、「漂流物」について、拾ったり回収したりするなどして自分の物にしてしまうことをいいます。
ご質問のケースで、水中に放置されていたルアーを回収する行為が漂流物横領罪に該当するのは、水中に放置されていたルアーが「漂流物」に該当する場合です。
では、今回水中に放置されていたルアーは、刑法254条が定める「漂流物」に該当するでしょうか。
「漂流物」とは、上に述べた通り、水面又は水中に放置された他人の物のことをいいます。漂流物横領罪は、他人の所有権を侵害する行為を処罰する罪なので、所有権を放棄された物については「漂流物」には当たりません。
したがって、水中に放置されていたルアーが、元々のルアーの所有者である釣り人から所有権を放棄された物である場合には、そのルアーを回収したとしても、漂流物横領罪には該当しないことになります。
所有権が放棄されたか否かはどう判断する?
所有権を放棄されたか否かを判断するにあたって、参考となる裁判例として、ゴルフ場内の池の中のロストボールを回収した行為について窃盗罪に該当するか否かを判断した裁判例があります(東京高判昭和61年1月30日、同事件の上告審最決昭和62年4月10日)。
この裁判例では、プレー中に池に打ち込まれたため、容易に回収することができないとして、プレイヤーが回収を断念したゴルフボールについて、所有権を留保する意思表示をするなどの特段の事情がある場合を除いて、プレイヤーはそのゴルフボールの所有権を放棄したと認めるのが相当と判断しています。
この裁判例を参考にすると、娯楽等に使用する道具について、その道具が回収困難な状況になり、道具の所有者が回収を断念した場合には、特段の事情がなければ、所有権が放棄されているものと判断してもよさそうです。
ご質問のケースにおいて、水中に放置されているルアーは、釣り人が、根掛かりしたことによってルアーが回収困難な状況になったことで、回収を断念してやむを得ず糸を切るなどして、水中に放置されたものであるといえます。
したがって、そのルアーの持ち主が所有権を留保する意思表示をしているなどの事情がない今回のケースでは、水中に放置されているルアーの所有権はすでに放棄されており、法律上の「漂流物」には該当しないでしょう。
よって、①水中に放置されていたルアーを回収する行為については、漂流物横領罪には該当せず、法律上の問題はありません。また、所有権が放棄されたルアーは、ルアーを回収した人が新たな所有者となります(民法239条1項)。そのため、回収したルアーを家に持ち帰って捨てることや、使えそうなルアーを自分で直して使うことも問題ありません。
なお、ご質問のケースとは異なり、人工的な釣り堀など民間事業者が管理するような釣り場に放置されているルアーについては、仮に元の所有者が所有権を放棄していたとしても、民間事業者がルアー等を回収して再利用を予定しているような場合には、新たに釣り場の管理者が所有権を取得し、これを占有していると評価される可能性があります。
そのため、管理者がいる釣り場に放置されているルアーを回収した場合には、窃盗罪などの犯罪が成立する可能性があるため、注意が必要です。
ルアーの回収は問題なし。販売も違法にはならないの?
次に、②回収したルアーを中古釣具店等に販売する行為に関して、古物営業法の規制が及ばないかが問題となります。
回収したルアーは一度誰かが使用した物品であり、それを販売することは「古物」の販売にあたるようにも思われるからです。
もっとも、結論から申し上げますと、ご質問のケースのように回収したルアーを古物商の許可を得ずに販売しても、古物営業法には違反しません。
古物営業法は、一度使用された物品について許可を得ずに売買したりすることを禁止しています。しかし、古物営業法の目的は、盗品等の売買を防止し、速やかに盗品等を発見することにあります。
そのため、盗品等の混入のおそれが乏しい、「古物の買取りを行わず、古物の売却だけを行う営業」については、規制対象から除外されています。
ご質問のケースでは、水中から回収したルアーを売却しているのみで、どこかから買い取った物を売却しているわけではありませんので、古物営業法の規制の対象外となります。
よって、②回収したルアーを中古釣具店等に販売する行為については、古物商の許可を得ていなくても、古物営業法に違反せず、法律上の問題はありません。
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】
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