先日、群馬県の上野村に設定されている「ニジマス冬季キャッチ&リリース釣り場」に行ってきました。この釣り場は、毎年10月から2月まで、ヤマメ・イワナの禁漁期間中に釣り場の有効利用、そして地域振興に役立っています。
そう感じたのは、上野村は神流川の最上流にあるので、神流湖から国道462号を西へ向かって走っていったのですが、途中は人の姿がほとんど見えませんでした。
ところが上野村に入り、漁協事務所前に来ると車がたくさん止まっていて、釣りの準備をしている人達がたくさんいました。「今日は平日だから空いているのかな」という期待を見事に裏切り、気温は氷点下なのに賑わって温かみも感じました。
遊漁券購入の受付は1人ずつ連絡先と名前を書いて行うのですが、販売人の方が「初めてですか?」と声をかけてくれました。
聞けば、朝の受付が一段落すれば色々と教えてくれるそうです。川へ降りるともちろん魚はたくさんいて、しかし何回もキャッチ&リリースされていて賢いですから簡単には釣れません。それをなんとか騙して釣るのがゲームです。
ここに放流されているのは特殊な魚で、ハコスチと名付けられた魚です。群馬県水産試験場が遊漁用に作った魚で、北米の降海型ニジマスのスティールヘッドと、箱島養魚場のニジマスを交配させ、よく引く魚になるよう選抜育種をして2016年に出来上がった魚だそうです。
よく引くという言葉は曖昧ですが、計量器にロッドを取り付けたような機械でヒットした直後の強さを測ると、従来のニジマスの約2倍弱の力があるという結果です。
こういう魚を水産試験場で開発し、釣り場に提供する試み自体は非常にいいことです。釣り人も期待しますし、地元も活気立つからです。
日本でニジマスが繁殖しない理由
ご存知の通り、ニジマスは100年以上前に日本に移植され、水産業の先駆者たちはこの魚を日本各地に放流すれば自然繁殖して、もし食糧危機が起こっても貴重な資源になってくれるだろうと希望に満ちていたそうです。
しかし想像とは裏腹にニジマスはほとんど繁殖しませんでした。理由には諸説ありますが、最初に移入したニジマスの卵がスティールヘッドだったことで、放流しても川を下る習性があったこと。一度降りれば堰堤で寸断された日本の川は上れません。そしてすぐに釣られてしまったことです。
当時はキャッチ&リリースという概念がなかっため、放流しては釣られて殺された結果です。
そしてその放流方式は今日まで続きます。そのため、渓流魚釣りはそういうものだという感覚で釣りを覚えてしまった人たちのなんと多いことか。
日本にルアーが導入されたのは、1966年。ツネミ社が海外の多くのルアーメーカーと代理店契約を結び輸入を開始した頃からです。
そしてスポーツフィッシングという言葉が入ってきて、キャッチ&リリースという言葉も入ってきました。実はそれ以前にヘラブナ釣りでは釣って逃すのが当たり前でしたが、これに関しては食べても美味しくないという理由もあったようです。
時代やニーズの変化に対応していくために
上野村では、別区域でヤマメのルアー&フライによるキャッチ&リリース区間を1999年から始めていました。
当時のニュースで見たのですが、ここに来る釣り客へのインタビューで「他の場所だと魚がいないから釣りにならない」と言っていたのを覚えています。つまり、規則にしないと持ち帰られてしまうのです。調査したところ、当時キャッチ&リリース区間の境界から下流と上流には全く魚がいなかったそうです。
今では全国の何カ所かが、内水面漁業振興の1つとしてキャッチ&リリース区間を導入しています。
では東京都の多摩川はどうでしょうか?
羽村堰より上流を奥多摩川と呼び、奥多摩漁協が管轄しています。1980年代ごろまでは、御嶽渓谷などで大型ヤマメが育ち、「奥多摩ヤマメ」として知られていました。
その後、上流の奥多摩湖のダム内堆積&排砂など、環境はどんどん変わり釣り人も増え、道具も進化したため残る魚も極端に減りました。アユも環境の変化で釣れなくなり、釣り人も来なくなって、ついにはオトリ屋さんが無くなるという現状になってしまっていました。
そして、昨年もアユの仕入れに比べ遊漁券の売り上げが半分以下になるという事態が起きています。その分ヤマメ・マス券の売り上げが伸びているそうです。しかしアユの赤字は収まりません。どうすればいいのか?
方法論ではありません。漁協幹部の考え方が変わらないと、良い方法があってもできない、無理だ、が続きます。
「オトリ屋がないのだからアユルアーを導入すればいい」と言うと、「引っ掛け釣りになるからダメだ」と言われました。「何言ってるの、今の群れアユ釣りだって引っ掛け釣りじゃないですか?」と言っても返事はない。
そして、「マスの仕入れ価格が高くなったからマスの放流量を減らす」と言うので、「釣っても殺さなければいい」とキャッチ&リリースの提案をしたら、「持ち帰りたい人がいるから」と話を濁します。
「持ち帰りたい人のために漁協が赤字を続ける余裕あるんですね?」と聞くと答えない。そんなやりとりを昨年の放流委員会でしました。
時代の変化、ニーズの変化を読んでいないのです。そして、放しては殺すということを何年も繰り返していることに慣れてしまっているという怖さもあります。
漁協は内水面漁業なのですから遊漁という漁業で、生業がたたないといけません。ボランティアじゃないです。勘違いしてます。組合員になって30余年、配当をもらったことは一度もありません。エリアは素晴らしくきちんと管理すれば1区(羽村エリア)だけでも年間1万人ぐらいの受け入れ容量はあるはずなのに…。
考え方を変えられないのが情けないです。会社ならとうに倒産しています。今までの貯金を切り崩していると言っていましたが、世の中が変わり、ダム建設後の環境も変わったことに対応していかなければ滅びます。
新しく変わっていったところへは人が行きます。すでに他所で成功例があるのにそれを見習わないという間違った考え方です。
群馬、埼玉、神奈川、山梨、栃木など、東京の周りは皆対応しているのにおかしいじゃないですか?
多摩川が変われば全国的にもいいモデルになることは間違い無いです。