今回は、「Marine Sweeper(マリンスイーパー)」(代表:土井佑太)の新たな取り組みについて紹介する。
ダイビングで海に潜り水中清掃を行い、回収したルアーのリメイク・リユースを手掛けているマリンスイーパーだが、今春からは、回収してリメイク・リユースが困難だった破損品や廉価品のルアーの再生も行っている。
ルアーの生産を行っている株式会社KATO SEIKO(静岡県浜松市・加藤孝浩代表取締役)の協力のもと、回収したメタルジグやオモリ等を一度溶かし、そこで生成された「リサイクル鉛」を原料としてメタルジグを生産しているが、その生産現場を取材した。
マリンスイーパーについて詳しくはコチラ → 【マリンスイーパー】水中に残された釣り具を回収しリメイク・販売。「海の掃除屋」土井佑太さんにインタビュー!
回収した釣り具は2年間で2万個以上。ただ、中にはリメイクできない物も…
海の掃除屋「マリンスイーパー」は、2021年1月に土井佑太さんによって設立された。マリンスイーパーの活動内容は、水中清掃を行い釣り人が水中に残した釣り具を回収し、リメイク・リユースを行う。リメイク品・リユース品をネットショップ等で販売し、そこで得られた収益でまた水中清掃を行うというものだ。
2021年の設立以来、2万個以上のルアーを回収しているマリンスイーパーだが、壊れたルアーや、100円ショップで売られているルアー、オモリなど、リメイク・リユースが出来ない物も多くある。回収物の約3割がそのような状態で、「どうにか再生したい」というのが土井さんの課題だった。
そこで、土井さんはリメイク出来ないメタルジグやオモリを熱で溶かして「リサイクル鉛」を生成し、それを原料として新たなルアー(メタルジグ)を製造出来ないかと考え、静岡でルアーやオモリの生産を行っているKATO SEIKOに協力を依頼。
その後話し合いを重ね、今春、ついに生産が開始された。作られたメタルジグは「メタルフェニックス」と名付けられ、販売が開始されている。
「メタルフェニックス」は工業製品ではなく「ナマモノ」
土井さんによると、回収した釣り具を溶かして新たにメタルジグを作るという構想は、マリンスイーパー設立時からあったそうだ。
ただ、資金の問題や協力工場の問題など、課題が多くなかなか取り掛かれなかった。普段は回収物のリメイクは土井さん自身で行っているが、回収物を一度熱で溶かして型に流し込み、一からメタルジグを作るとなると設備の整った工場の協力が必要となる。
2022年、活動が軌道に乗り資金も確保出来ると、土井さんはKATO SEIKOに協力を依頼。しかし、最初は「鉛のリサイクルはできるが、その鉛でのメタルジグ生産は難しい」と言われ、計画は難航。
なぜならメタルジグの主原料は鉛であることが多いが、その他ホワイトメタルの配合率で硬さや比重が変わる。しかし、回収したメタルジグを溶かして生成した「リサイクル鉛」を原料にしてしまうと、ホワイトメタルの配合率が不明なうえ、ロットによって成分に多少のバラつきがでてしまう。KATO SEIKOとしては、生産する商品にそのような原料を使うのは難しいという考えだった。
土井さんは、当時のことを次のように語る。
「KATO SEIKOさんには何度か相談に行ったのですが、何度目かに伺った時、『仮に、実際にリサイクル鉛を使ってメタルジグを作るとどうなりますか?』と聞いたところ、『ぶっちゃけ、普通に作れてしまう。見た目も肉眼では区別できない』というお話でした。
ただ、僕が製造したいメタルジグは成分の担保を求めるのではなく、リサイクル鉛を使った、環境に優しいメタルジグでした。リサイクル鉛を使うことによるエラーを許容するので、やってほしいと伝えると『そういうことならやってみようか、エラーはよっぽど起こらないけどね』とOKを頂きました。
企業としては、お客様に良い物を提供したい、品質を担保したいという考えは当然です。その上で、クライアントの前例のない要望に柔軟に対応出来るのは、KATO SEIKOさんが積み上げてきた技術の高さがあってこそだと思います。
確かに、僕が作るメタルジグはロットによって合金の成分が安定しないかもしれません。『あれ、前回買ったものより0.5g軽いかも?』と思われるかもしれません。ただ、『メタルフェニックス』は海洋ゴミの再生品で、毎回ロットごとに品質が多少変わる、いわゆる『ナマモノ』です。工業製品というより、毎回テイストが変わる農産物や料理に近いのかもしれません。その代わり、ゴミから作った世界で一番環境に優しいルアーです。
そのことをお客様にお伝えして、考えに共感してくれる方に『メタルフェニックス』を選んで頂けたらと思っています」。