公益財団法人日本釣振興会では、2023 年より淡水魚の減少対策に力を入れている。昔と比べて淡水魚が減少した原因の1つとして「ネオニコチノイド系農薬」の使用が関係していると考えられている。
ここでは、実際にネオニコチノイド系農薬が使用されていない(ネオニコフリー)農作物を、農家と協力して生産し、販売している生活協同組合連合会コープ自然派事業連合(兵庫県神戸市本部)の辰巳千嘉子副理事長に、ネオニコフリーへの取り組み等について伺った。
ネオニコフリーは実現可能?農薬を使わなくても農作物はできる?
コープ自然派は生協(生活協同組合・消費者が出資し事業や活動を行う非営利団体)だ。前身である共同購入会時代から安全な食品を求めて活動を続けている。
「食と農と環境は一体」と考え、国産オーガニックの推進、遺伝子組み換え作物への反対、食品添加物の削減等に取り組んでおり、その一環として農家と協力してネオニコフリーに取り組み、成功している生協だ。コープ自然派の辰巳副理事長に、ネオニコフリーに取り組んだ経緯を伺った。
(辰巳副理事長、以下同様)「コープ自然派では以前から食の安心・安全、農業を次世代に繋げていく取り組みを行ってきました。ネオニコについては、2010年にダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議(JEPA)で、中下裕子さんからネオニコ系農薬の危険性についての問題提起が行われた事が、ネオニコフリーへの取り組みを始めるキッカケとなりました。この啓発を受けて、コープ自然派でも独自に学習会を開催しました。
当時、農家からは『ネオニコだけは不使用にできない』、『ネオニコ無しでは虫にやられて収穫できない』という声もあり、ネオニコ系農薬を排除してもらうのは、相当に難しい状況でした。しかし、子供の成長にも多大な影響を及ぼす恐れがあるネオニコ系農薬は排除すべきと判断し、コープ自然派では2010年度にネオニコ系農薬を注意喚起農薬に指定しました。
この前段階として、コープ自然派では徳島県に有機農家を育てる学校を作っていました。BLOF(ブロフ)理論(Bio Logical Farming・生態調和型農業理論)といって、簡単に言えば農薬を使わなくても、自然の力で強い植物を作れば、虫による被害も起きにくくなるという理論です。勉強を進めていくうちに、最初は難しいと言っていた生産者の中から『ネオニコを使わなくても出来ると思う』という人が出てきました」。
米作りならネオニコフリーは簡単に出来る!
―ネオニコフリーの取り組みは、実際にどのように進んでいったのですか?
「まず、注意喚起農薬の指定から十分な準備期間を経て、栽培に負荷のかかりにくい作物から順番に、ネオニコ系農薬を『問題農薬』に指定し、排除を呼び掛けていきました。ネオニコ系農薬不使用を、最も簡単に実現出来るのが稲作です。米、青菜、果菜、果実の順でネオニコ系農薬を不使用にするのは難しくなります。つまり、果実等はネオニコ系農薬を排除すると、栽培に大きな負荷が掛かるという事です。
果実とはリンゴや桃等の事です。糖度が高く、栽培に時間がかかる果実はどうしても虫が付きやすく、また害虫による被害で果実そのものがダメになってしまう事が多いですから、せっかく作った果実が商品にならないリスクが高くなってしまいます。
一方で、米作りは、比較的簡単にネオニコ系農薬を不使用にする事が出来ます。コープ自然派でも注意喚起農薬の指定後、2012年度には本田防除(田んぼで農薬等を使いカメムシ類やウンカ等の害虫を防除する)でネオニコ農薬不使用の「環境創造米」の取り組みを始めました。
米作りでネオニコ系農薬は害虫の予防のために使われるのが一般的です。なぜ、そうするかと言えば、国が定める斑点米(カメムシの吸汁が原因で着色や斑点ができた米)の基準をクリアしなければ、等級が下がり、売価が下がるからです。
コープ自然派が販売している産直米の生産地の中心は「JA東とくしま」です。「JA東とくしま」は、2030年には耕地面積の25%を有機栽培・無農薬栽培にすると掲げています。しかし、当初はこの地域でも、なかなかネオニコ排除は進みませんでした。そこで、我々は『翌年作ってもらう米をネオニコフリーにしてもらえば、買い上げ価格を上げます』と伝えたところ、ネオニコフリーの米作りが一気に広がりました。
そもそも、米が黒くなっても色選(しきせん)ではじけますし、斑点米に関わらず食味値で評価する体制があれば、多くの農家でネオニコフリーの米作りは出来るはずです。当然、技術が必要となる部分もありますが、日本の農家は『どうやって美味しい米を作るか』を日々研究されており、技術力は非常に高いです。
そもそも、ネオニコ排除の方が農家にとってもメリットが大きいはずです。健康面への影響もそうですし、農薬を買わなくて良いのですからコスト削減にもなります。
米作りでネオニコフリーを広げるためには、買い先を増やす事が重要です。買い先さえ増えれば、ネオニコフリーの米を生産する農家は増えると思います。そのためにも、私は学校給食からネオニコフリーを広げていくことが最も良い方法だと思っています。ネオニコ系農薬は子供の成長に影響があると言われていますし、給食でより多くのネオニコフリー米を買い支える事によって、ネオニコフリーの米作りを行う農家も更に増えると思います」。
増えるネオニコ排除栽培。商品の9割以上が「ネオニコフリー商品」に
―ネオニコフリーの農作物を消費者に広げるために、どのような取り組みを行われたのですか?
「2015年12月に、生産者と消費者が集まる話し合いから、『ネオニコフリーマーク』が生まれました(図1)。
ネオニコ排除の方針は決まっていたのですが、『リスクを冒してネオニコ排除栽培を行っても、買ってもらえるのか?』、『頑張っても評価されないのでは?』という生産者からの不安の声に応える形で、ネオニコフリーのマークを作り、消費者がネオニコフリーを選びやすくしました。
そして、2017年よりネオニコフリーマークを商品カタログに表示し始めたところ、初年度からネオニコ不使用商品の受注数が78.9%、ネオニコ削減中が15.9%となり、カタログ内のほとんどの商品がネオニコフリー、もしくは削減に取り組んだ商品になったのです(図2)。
これには我々も驚きました。ネオニコフリーの割合はその後も更に増えていきます。消費者が選ぶ事で、ネオニコ排除栽培は増えていくのです。
当初、ネオニコフリーを進める一番の課題が、先ほども難しいと紹介した果実でした。リンゴの産地に出向いて勉強会を行ったり、産地交流の機会にネオニコフリーの学習会も行ってきました。
その結果、小さな子供もおられる農家の1人が、ネオニコフリーへの取り組みに手を挙げてくれました。そして、代替の農薬は使われましたが、ネオニコフリーでリンゴを育てる事に成功されました。2年目からは、その産地にネオニコフリーでの栽培が拡がっていきました」。
意外と安価なネオニコフリー商品。支持する消費者も増加中
―消費者からのネオニコフリーへの反応はどのようなものがありますか?
「コープ自然派でお届けしている農作物は、今はほぼ全てがネオニコ排除または削減中ですから、そうでない商品との売れ行き等を比べるのは難しいのですが、ネオニコフリーは組合員からも当然支持を得ています。
支持されている理由の1つとして、価格面も大きいと思います。一般的に有機栽培は生産の手間が増える等の理由もあり、慣行栽培(化学肥料や化学農薬の使用を前提とした栽培)で作られた農作物より高くなる事が多いです。
しかし、コープ自然派では、扱っている商品の9割以上がネオニコフリーですが、一般的なスーパーで販売されている農作物と、販売価格はそれほど変わらないと思います。例えば、ネオニコフリーの白米は5㎏で1700円前後ですし、クーポン券もありますから、更に割引されます。
こういった販売価格が実現できるのは、有機・無農薬も含めて、我々が産地と栽培計画の段階から一緒に取り組んでいるためです。簡単に言えば『これだけ買うから、これだけ作って頂いて、この値段にしてください』という話し合いです。
農家さんに『無農薬で作ってもらったら、全て買い上げるので作れるだけ作って下さい』と依頼した事もありました。すると予想以上に多く収穫できてしまい、後で困った事もあります(笑)。
また、我々は協同組合なので、生産者、運営、消費者と皆が良くならなければなりません。ですから、我々は基本的に6:3:1という割合を決めており、販売価格の6割は生産者の取り分となります。恐らく、農協や一般的なスーパー等に卸すより、高い価格で農作物を買い上げる事が出来ていると思っています。
運営側も相当頑張っていると自負していますが、規模がさらに拡大し、また友好生協との連携が拡がれば、共同物流のレベルアップなど、より運営の効率を高める事が出来ます。規模が拡がっていけば、農家も消費者も運営もより幸せになる仕組みです」。
買う人が増えればネオニコ排除がすすむ!
―コープ自然派の今後について教えて下さい。
「我々はこれからもネオニコ排除や国産オーガニックの推進に向けて、生産者と一緒に取り組んでいきます。基本的に、農家は皆さん『安心・安全でおいしいものを作りたい』と思っておられます。そして、高い技術力も持っています。国内外の他の生産者と差別化をしていく意味でも、特に若い生産者は有機栽培等についての意識が高い方が多いですし、農水省の方針でも有機農業推進とネオニコ系農薬削減を打ち出しています。農家は作った農作物が売れる事で成り立ちます。今後も買う人が増え続ける事で、ネオニコ排除は必ず広がっていくと思います」。
コープ自然派公式ホームページ
https://www.shizenha.ne.jp/
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