人気ルアーの商品名が他社から使用中止を請求された!?「商標登録」について弁護士が詳しく解説【弁護士に聞く】

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「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。

今回は、商標登録をしていた自社商品の名称について、他社から使用中止を求められた場合、請求は認められるのかについて弁護士の先生に聞きました。

「釣具業界の法律相談所」のカット
   

知名度の高い人気ルアー、商標登録をしていたのに他社から訴えられて…

当社は釣具メーカーです。先日、弊社の人気商品である「SAKUYA LURE(サクヤルアー)」という商品名について、競合他社より「当該の商標登録は当社が保有しているため、SAKUYA LUREという名称の使用中止と損害賠償請求を行う」という連絡がありました。

当社の「SAKUYA LURE」は、5年前に発売して以来、釣り人に非常に好評で、全国の釣具店で定番商品となっています。累計で20万個以上販売しており、毎年当社の売上の一定の割合を担う、重要な商品です。

発売当初はそれほど売れる見込みもなかったため、商標は取っていませんでした。その後、売れ行きが好調な事から、商品名そのものである「SAKUYA LURE」というアルファベットの商標を取得しました。

ところが先日、競合他社から、上記の通り当社に対して「SAKUYA LURE」の使用中止等について連絡が来ました。この「SAKUYA LURE」が万一売れなくなると、競合他社の商品に同じようなルアーがありますから、競合他社は非常に有利になると思われます。

調べてみると、競合他社は「咲くやルアー」という日本語の商標を確かに10年前に取得していますが、この商標が使用された形跡はありません。

一方で、当社はプロモーションに非常に力を入れており、特にこの3年間はYouTube、SNS、テレビ番組、雑誌、釣具店でのイベントなどあらゆる機会を活用し、「SAKUYA LURE」の認知度向上に努めてきました。その成果もあって、ルアー釣りをする人の8割以上は「SAKUYA LURE」という名前を知っていると推定されます。客観的に見ても、釣り人にとって、一般的に認知された名称であると言っても過言ではないでしょう。

競合他社の言い分が通ってしまうと、当社は非常に大きなダメージを受ける事が予想されます。商品名変更も困難ですし、損害賠償も支払うと経営危機に陥る可能性もあります。

そこで弁護士の先生に質問です。

まず、当社が不審に感じたのは競合他社が持つ「咲くやルアー」という日本語の商標についてです。当社の「SAKUYA LURE」と確かに読み方は同じですが、そもそも、当社も「SAKUYA LURE」という商標を登録出来ています。読み方が同じと言っても、違う商標であり、競合他社の訴えは単なる言いがかりであると思っています。競合他社が持っている日本語の商標でも、当社の持っているアルファベットの商標と同じものであると判断される可能性はあるのでしょうか。

また、競合他社は一度も「咲くやルアー」という商標は使用していないと思われます。当社も競合の商品はいつも徹底的に調査していますが、聞いた事も見た事もありません。そのような、全く使われていない商標でも有効で、釣り人から高い認知度を誇る当社の商標が使えなくなってしまう可能性があるのでしょうか。

ご回答をお願い致します。

(※質問は全て架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)。

商標登録のイメージ
どの業界でも生じ得る商標権のトラブル。今回のケースでは、競合他社の請求は通るのだろうか…?

商標は引き続き使える可能性あり【弁護士の回答】

ご質問のケースでは、御社は商標権侵害の責任を負わず、「SAKUYA LURE」の商標を引き続き使うことができる可能性があります。頂いたご質問に即して、順に解説します。

御社は、アルファベットからなる御社の商標「SAKUYA L‌U‌RE」が、日本語文字からなる競合他社の商標「咲くやルアー」の商標権を侵害すると警告されています。そもそも、アルファベットの商標が、日本語文字の商標の商標権を侵害することがあるのでしょうか。結論的には、そのように判断される可能性はあります。 

裁判所がアルファベットの商標と日本語文字の商標について、似ていると判断した事例はいくつもあります。

たとえば、①「Kami N‌o Su‌n‌a」と「紙の砂」(知的財産高等裁判所平成27年9月29日判決)、②「サクラホテル」と「桜 SAKURA HOTEL 」(東京地方裁判所令和2年2月20日判決)などです。アルファベットと日本語文字では見た目が異なります。にもかかわらず、商標が似ていると判断されるのは、商標が似ているかどうかは見た目以外の事情も考慮して判断されるからです。

「出所混同」が生じるか否か?

この点について、もう少しご説明します。商標が似ているかどうかは、問題となっている2つの商標が同じか似ている商品に使われている場合に、「出所混同」が生じるおそれがあるかどうかによって判断されます(最高裁判所昭和42年2月27日「氷山印事件」判決等)。

「出所混同」とは、商品を買いたい人が商品の生産者や販売者などを間違って認識してしまうことをいいます。出所混同が生じるおそれがあるかどうかは、商標の見た目、思い起こされるイメージ、呼び方について、商品に関する取引の実情なども踏まえて総合的に判断されます。

そのため、商標にアルファベット表記と日本語文字の表記という違いがあっても、その他の事情も考慮して出所混同が生じる場合には、商標が似ていると判断されることになります。

「SAKUYA LURE」と「咲くやルアー」を比較してみると…

では、「SAKUYA LURE」の商標と「咲くやルアー」の商標の場合は似ていると判断されるのでしょうか。

一般的には、先ほどご説明したとおり、アルファベットの商標と日本語文字の商標が似ていると判断される可能性があるのですが、ご質問のケースでは、両商標は似ていないと判断される余地があります。そこで、2つの商標を対比して具体的に見てみましょう。

梅の花のイメージ
「SAKUYA」に対応する日本語は「咲くや」?両者は似ていると判断されるのだろうか?

まず、「SAKUYA LURE」の商標をみてみましょう。「S‌AKUYA LURE」は、アルファベットの大文字「SAKUYA」とアルファベットの大文字「LURE」が単純に横に並んだものです。呼び方は「サクヤルアー」です。

では、「SAKUYA LURE」からはどのようなイメージが湧くでしょうか。「SAKUYA」という文字列は、「SA・KU・YA」、つまり「サ・ク・ヤ」という3つの音節からなる日本語らしい響きを持つ言葉が、アルファベットで表記されていることが分かります。

しかし、この「SAKUYA」に対応する日本語が、「咲くや」なのか、「昨夜」なのか、人名なのかは分かりません。そのため、この「SAKUYA」は、特定のイメージが湧かない一種の「造語」といえます。そして、「LURE」がルアーという製品を指すことは明らかですから、「SAKUYA LU‌R‌E」という商標全体を見ても、ルアーという製品が思い起こされるにすぎないといえます。

次に、「咲くやルアー」の商標についてみてみましょう。「咲くやルアー」は、漢字混じりの「咲くや」と、カタカナの「ルアー」が横に単純に並んだものです。こちらも、呼び方は「サクヤルアー」です。

では、「咲くやルアー」からはどのようなイメージが湧くでしょうか。この点について、「咲くや」の部分は、古今和歌集の歌「難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと 咲くやこの花」に由来するものと思われます。この和歌は、直接には大阪に咲く梅の花を詠んだものです。しかし、ルアーを購入する釣り人の間で、この和歌の存在や意味が一般に知られているとはいえないでしょう。

また、「咲くやこの花」の一部を切り出した「咲くや」が、大阪の地に咲く梅の花などを表すものとして一般的に使われているともいえません。そのため、たとえば「メタル××ルアー」のように、ルアーの材質・性状・外観についてイメージが湧くものとは異なり、「咲くやルアー」という表現からは具体的なイメージが湧きません。よって、「咲くやルアー」という商標から思い起こされるのも、単なるルアーという製品にすぎないといえます。

実情も踏まえて対比してみると…

では、2つの商標について、取引の実情も踏まえて対比してみましょう。

まず、「SAKUYA LURE」は、「サクヤ」と「ルアー」を単純にローマ字表記または英語表記したものにすぎず、見た目の違いが持つ意味合いの差は大きくありません。また、思い起こされるイメージは、ともに単なるルアーで、違いはありません。

しかし、御社は、YouTube、SNS、テレビ番組、雑誌、釣具店でのイベントなどを活用して「SAKUYA LU‌R‌E」の認知度の向上に努めており、御社の商品「SAKUYA LU‌R‌E」は釣り人にはよく知られている一方、「咲くやルアー」という商標は商品に使用されたことがないようです。

競合他社が「咲くやルアー」という商標を使用したことがないのであれば、「SAKUYA LURE」という品名のルアーを見た人は、御社が販売している「SAKUYA L‌U‌RE」という商品を思い浮かべるはずであり、競合他社や競合他社が販売する他の商品と混同することはありません。

そうすると、「SAKUY‌A LURE」と「咲くやルアー」は、呼び方や思い起こされるイメージは同じであるとしても、購入者が商品の出所について混同するおそれはありません。そのため、両商標は似ていないということになるでしょう。

もっとも、商標が似ているかどうかの判断においては、実際に商標が使用されているかどうかといった個別事情は加味すべきでないという見解が有力です。この見解によれば、「SAKUYA LURE」と「咲くやルアー」が似ていると判断される可能性はあります。

なお、「SAKUYA LURE」について商標登録が認められたのであれば、商標登録の審査を行う特許庁の審査官は、すでに登録されていた競合他社の「咲くやルアー」と御社の「SAKUYA L‌U‌RE」が似ていないと判断したといえるかもしれません。

しかし、審査官の審査も万全ではありません。本来登録されるべきでない商標が誤って登録される場合もあります。商標法もそのような事態を想定して、登録異議申立ての制度などを設けています(商標法第43条の2)。そのため、商標登録されたというだけで、他の商標に似ていないと断定することはできないでしょう。

特許庁の看板
特許庁の審査も万全ではない。登録異議申立ての制度も設けられている

今回のケース、競合他社は権利の濫用にあたる?

次に、もし「SAKUYA LURE」と「咲くやルアー」が似ていると判断されれば、御社は「SAKUYA L‌U‌RE」という名称を使用できなくなるのでしょうか。

今回のケースでは、御社は、引き続き「S‌AKUYA L‌U‌RE」の商標を使い続けることができ、商標権侵害の責任を負わない可能性があります。それは、競合他社が商標権侵害の主張をすることが権利の濫用(民法第1条第3項)にあたると考えられるからです。

まず参考になる裁判例として、ある商標が3年以上使用されておらず、不使用取消審判(商標法第50条第1項)により商標登録が取り消されるべきものである場合に、そのような商標の商標権を行使することは権利の濫用にあたるとした事案があります(東京地方裁判所平成31年2月22日判決「moto時計」事件)。

ご質問のケースでは、競合他社の「咲くやルアー」の商標は全く知られておらず、10年間という長期間にわたって使用された形跡がないとのことです。

競合他社の「咲くやルアー」の商標は取り消されるべきものといえるため、競合他社が「咲くやルアー」の商標権を行使することが権利の濫用だと判断される可能性は高くなるでしょう。

商標権侵害で警告・損害賠償請求された時の反論方法については、以下の記事をあわせてご参照ください。

参考: 商標権侵害で警告・損害賠償請求された時の反論方法【事例有り】

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・小林允紀】

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