釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。
今回は「魚から釣り人の姿はどのように見えているのか?」について解説します。
小魚や金魚は私達の姿を「視覚」で認識している
小川を覗き込むと、それまで群れて泳いでいた小魚たちが私の姿に驚いて、一目散に逃げていくことを幾度も目の当たりにしています。
一方水槽で飼っている金魚は私が近くに行くと、餌をねだって水面近くで口をパクパクさせて何とも可愛らしい動作を起こします。
このことから、小川を泳いでいる小魚も水槽の中にいる金魚も、水中から私たちの姿を視覚によって認識していることは疑いないということを改めて感じさせられます。
金魚からどれくらい鮮明に人の姿が見えているのかは分かりませんが、この状態の時、人からは金魚を覆っている鱗に至る細部まで鮮明に見えています。
では先ほどの小川のような屋外ではどうでしょう?
水の透明度が高く、なおかつお魚が水面近くにいて、水面が波だっていないなどの条件が揃えば、多くの場合その姿(お魚の存在)を容易に視認することが出来るでしょう。
しかしながら、天候が良ければ水面に当たった日光の反射が生じます。風が吹けば水面は波立ってしまうでしょう。その他にも水の透明度が低い、お魚が深い位置にいるなど陸の上から水中が見えにくい要件がいくつもあります。
水の透明度が低い場所やお魚が深い場所を泳いでいるということは、当然ながら陸の上よりも光の量が少ないため暗い場所でもあります。
暗い場所からは明るい場所にあるものはよく見えますが、明るい場所にいると暗い場所にあるものはよく見えません。
お魚の多くは外敵から身を守るための保護色或いはそれに近い色彩を帯びています。そうでない錦鯉のような観賞魚もいますが、これらの多くは人工的に作られたものです。
皆様が知っている通り、多くのお魚は背中側が黒っぽく腹側は淡い色彩になっているのは、上空からの攻撃と水中からの攻撃に対して外敵に発見されにくくしているためといわれています。
これが陸の上から水中を泳ぐお魚さんを視認することはなかなか困難である理由の1つということになるでしょう。
魚から人の姿は良く見える。しかも巨大生物に映っている
反対に水面による乱反射の影響を受けず、暗い場所から明るい陸上を見ているお魚からは実に良く人の姿が見えているといえるでしょう。
さらにお魚の多くが保護色をしているのに対して、人の場合は何らかの服装を身に着けています。
釣り人の中には迷彩色の服を着用していることもありますから全てとは言えませんが、仮にも体重1㎏のお魚から体重60㎏の人を見上げているとしたら、質量は60倍にもなりますから、人からすれば体重3.6トンにも及ぶ巨大な生物として映っているはずです。
お魚の目にある角膜は偏光フィルターのような役割をするという説があります。私たちも釣りに行くとき偏光グラスをよく使いますが、偏光フィルターは水面からの反射光に含まれる紫外線をカットするため水中がよく見えて大変便利です。
ちなみに水面下を泳ぐコイの姿を裸眼(図1)と偏光フィルターを介した状態(図2)で撮影すると以下のようになります。
実際のお魚の目にはこれと同じように映っているかは分かりませんが、これらのことを考え合わせてみると、私たちから見える以上にお魚からは人の姿は鮮明に見えていることが伺えます。
さて、ご存知の通り光が進む速度は大変速く、空気中では秒速30万キロと言われています。私たちが暮らしている地球の外周は概ね4万キロですから、光は1秒間に地球を7周半も進むことはよく知られています。
ところが光は水中ではその速度が4分の3ほどに落ちてしまうことも周知の通りです。
飲料水が注がれたグラスに刺したストローが曲がって見えるのも、水中に差し込んだヘラ竿の穂先が水面を介して折れ曲がったように見えるのも、空中と水中での光の進む速さが異なるための屈折により、そういう見え方になります。
では普段私たちが目にしている陸の上からの視点と、お魚からの日常として水中からの視点では物体の見え方はどのように違うのでしょう。