我が国を代表するゲームフィッシングとして、今も熱い愛好者が多いヘラブナ釣り。
そのフィールドは、ダム湖や野池、河川下流域などの野釣り場と、都市近郊に多い管理釣り場に二分される。ただ、野釣り場においても放流による資源管理が行われているケースが多く、最も放流への依存度が高い釣りの一つだ。
もともとは琵琶湖・淀川水系に生息するゲンゴロウブナを品種改良した養殖個体がヘラブナだ。大型になるように大阪府の河内地方(東大阪~八尾)で明治時代後半から養殖が始まり、生産地に因んで「カワチブナ」と呼ばれるようになった。
カワチブナの養殖の歴史は約110年に及ぶ。今回は明治40年に創業し、五代にわたりヘラブナの生産に取り組む老舗養殖業者、「山口養魚場」にお伺いして養殖池を見学させていただいた。
カワチブナの原点、老舗養殖業者を訪ねて
山口養魚場のベースとなる養魚池は生駒山麓にある。幹線道路(外環状線)からも近く、周囲は住宅も多いが、豊富な地下水が水温を安定させ、ヘラブナが育つ好条件をもたらしている。
山口養魚場のヘラブナが釣り場や釣り人から高く評価されているのは、肩の張った美しい体型と、よく釣れることに他ならない。管理釣り場では放流個体の大型化が進んでいるため、同じトン数を放流しても大型になるほど口の数(匹数)が少なくなり、釣り自体が難しくなっている。
さらにプランクトンを主食としているため釣りエサへの反応は個体差が大きく、せっかく大型を放流しても釣り場で働かなければ大きなムダになってしまう。ある意味、釣り対象魚の方が食用魚よりも育てることが難しい一面がある。
ヘラブナ釣り自体は他の釣りと同様に愛好者の高齢化が進み、急激ではないものの釣り場は減少傾向にある。それは養殖業界も同じで、後継者不足を理由に廃業する業者も多い。
そのような厳しい状況であっても、山口養魚場は出荷量を伸ばしている。山口社長は「釣り場の要望に応える出荷ができるかどうか」が大切で、それが信頼につながるという。それは魚のクオリティでもあり、数量でもある。
本拠地の池では生産量は限られているため、他所へ選抜飼育した優良な種苗を提供して生産池を増やし、十分に育ったところで回収している。最後に本拠地の池で飼育し、サイズやコンディションを整えてから出荷となる。
しっかりと品質管理をするためには思いのほか生産工程が多いが、その手間仕事がカワチブナのブランド力をキープしている。
現在、常勤のスタッフは4名ながら、繁忙期には業者仲間で支え合うなど徹底した効率化でカワチブナの養殖技術を伝承し、ヘラブナ釣りを陰で支えている。
次ページ → ヘラブナのルーツとは?