研修中の新入社員が研修内容や会社の機密情報をSNSに無断で投稿した場合、本採用を拒否することや、本人に損害賠償請求を行うことは出来るのでしょうか?
弁護士の先生に解説して頂きました。

この連載では、釣具業界で起こる可能性のあるトラブルに対して、弁護士の先生に見解や対処方法をお聞きし、紹介していきます。
(※以下の内容は架空の質問です。実際の団体・企業、人物等とは一切関係がありません)。
新入社員が研修内容や未公開の新店情報をSNSで…
弊社は釣具店を10店舗運営しています。4月に新入社員10名に入社してもらったのですが、そのうちの1人が社内の機密情報を個人のSNSで発信してしまい、トラブルとなってしまいました。
その新入社員は、弊社入社以前から個人で複数のSNSアカウントを運用しており、Instagramも3万人を超えるフォロワーがいます。その能力を発揮してもらい、ゆくゆくは弊社のSNSの運用にも関わってもらいたいという思いもあって採用しました。
入社後、3カ月は研修期間となるのですが、その間に問題が発生しました。その新入社員A君が自身のアカウントで弊社の研修内容について詳細にアップしていたのです。その中には他店には知られたくない研修内容も含まれていました。
A君は自身のSNSで、自分が弊社に入社したことを報告しているため、A君の投稿を閲覧した人は、研修内容が弊社のことだと分かってしまいます。
この件については、弊社の教育係から、社の業務にかかわる内容について個人のSNSではアップしないよう、A君に厳重に注意しました。A君も一応は納得した様子でした。
しかし後日、より大きな問題が起こってしまいました。弊社は来年に初進出となる地域に新店をオープンする予定で準備を行っていました。新店の件については当然、社外秘の情報ですし、社内でも幹部しか知らない情報です。
A君は研修中に、先輩の幹部社員が話している内容を耳にしたようで、自身のSNSに「来年〇月頃に〇県に弊社の店舗が初出店するかも!」とアップしてしまいました。もともとA君のSNSはフォロワーも多く、その投稿は「いいね」が3000を超えるなど、閲覧数も相当なものになっている様子でした。
弊社のスタッフがその投稿を見つけた後、ただちにA君を呼び出し、投稿の削除を行わせました。どうしてそのような投稿をしたのかを問いただすと「弊社の宣伝を行ってあげたつもりだった」と話していました。こういった情報を無断で配信するのは大問題だと厳しく注意をしたのですが、「会社はもっとSNSの発信に力を入れるべきだ」などと、自身の持論を述べ、反省もそれほどしていない様子でした。
そこで弁護士の先生に質問です。
まず、A君は研修期間中なのですが、注意しても改善の見込みがないことから、本採用は見送り、なるだけ早く退職してもらうことに決定しました。個人のSNSアップの件以外の勤務態度は普通だったのですが、弊社で会社の一員として勤めていくのは無理だと判断しました。今回の件を理由に、本採用せず退職してもらうことは法律的に問題ないでしょうか。
また、機密情報である新店のオープンをSNSにアップされたことで、直接の被害は今のところないのですが、他店も対抗してくるでしょうし、弊社に損害も出てくると思われます。A君に何らかの損害賠償請求を行うことはできるのでしょうか。

どのような場合に解雇することができるのか?【弁護士からの回答】
新入社員のAは、会社に無断で機密情報を個人のSNSで発信してしまいトラブルになっていますが、このようなAを本採用せずに退職してもらうことは可能でしょうか。
まず、会社の一方的な意思表示によって従業員に会社を辞めてもらうことは、解雇に該当します。
今回、Aは3カ月の研修期間中ということですが、研修期間が終了した後、本採用を行わずに、Aの同意を得ずに辞めてもらうことも、同様に解雇に該当します。
解雇を有効に行うためには、①客観的に合理的な理由があり、②社会通念上相当なものである必要があります。
そのため、ご質問のケースについても、上記の解雇を有効とする要件を満たすかどうかを検討することとなります。
ただし、今回の研修期間が「試用期間」であるならば、「試用期間」が終了した後に本採用を拒否するという扱いは、通常の解雇と比べて、解雇が有効と判断されやすいです。
なぜなら、従業員の採用を決定した当初は、その人の資質や性格など、業務に対する適格性などについて資料を十分に収集することができないため、試用期間中に適格性を判断することが許容されているからです。
したがって、ご質問のケースにおいて、Aを本採用せずに退職してもらうことができるかどうかは、通常の解雇よりも広い範囲で解雇が認められることを前提に、試用期間中の働き方からして、引き続き雇用しておくことが適当でないと判断することが客観的に合理的で、社会通念上相当であるかを検討することとなります。
本採用拒否は無効となる可能性が高い
本採用を拒否することができるかどうかを判断するため、まずは、試用期間中の働き方からして、引き続き雇用しておくことが適当ではなく、本採用拒否が相当であるという判断に傾く事情を検討します。
会社とAは、雇用契約を結んでいますが、雇用契約が続いている期間に関しては、Aは従業員の立場として、会社に不利益を与えないようにしなければなりません。
そのため、Aは、会社に不利益を与えないようにするため、会社の機密情報を第三者に漏えいせずに適切に管理する義務(これを「秘密保持義務」といいます。)を負っています。
ご質問のケースでは、Aは、教育係から注意を受けていたにもかかわらず、会社の機密情報を個人のSNSで複数回発信する行為を行っています。
また、Aが漏えいした研修内容に関しては他店に知られたくない情報が含まれており、店舗の出店情報に関しては社内でも幹部しか知らない情報だったとのことですので、いずれも重要な情報といえます。
このような重要な情報を漏えいする行為は、Aが負っている秘密保持義務に違反するものであり、Aの従業員としての適格性に疑問を抱かせる事情です。
また、2回目に注意した際には、「会社はもっとSNSの発信に力を入れるべきだ」などと自身の持論を述べて、反省の様子もなかったとのことですので、協調性にも疑問があるといえます。
これらの事情は、本採用拒否が相当であるという判断に傾くものといえるでしょう。
では反対に、試用期間中の働き方からしても、本採用拒否するのは相当ではないという判断に傾く事情はないでしょうか。
確かにAは教育係から注意をされたにもかかわらず、再度会社情報をSNSへ投稿していますが、AがSNSへ投稿した回数はまだ2回にすぎません。また、その目的も会社に損害を与えようなどというものではなく、会社の利益になると思って行動したものです。そうすると、Aの行為は悪質なものとまではいえず、また今後の改善可能性が全くないものともいえません。
また、会社の幹部は、社外秘であるはずの出店情報をAにも聞こえる場所で話してしまっており、会社の機密情報を守るための措置が適切であったともいい難いです。
さらに、現状では、Aの行為によって、会社に直接の損害が生じたわけでもないようです。
これらの事情は、本採用拒否が相当ではないという判断に傾くものです。
そして、以上のような事情を総合的に踏まえると、確かにAには注意をされてもSNSに投稿することをやめなかった落ち度はありますが、その行為の悪質性は高くなく、今後の改善可能性もないわけではなく、会社にも一定程度の落ち度があったことなどからすると、試用期間中の働き方からして、引き続き雇用しておくことが適当でないと判断することが客観的に合理的で、社会通念上相当であるとまではいえません。
したがって、Aに対する本採用拒否は無効となる可能性が高いです。

法的に問題なく退職してもらうためには、合意で辞めてもらう
以上のとおり、従業員に一方的に辞めてもらうとなると、無効となってしまう可能性が高いです。
しかし、従業員も合意したうえであれば、法的に問題なく退職してもらうことは可能です。
どうしてもAに辞めてほしい場合には、Aに辞めてほしい理由を説明し、合意のうえで退職してもらいましょう。
損害賠償請求は認められない可能性が高い
Aに対する損害賠償請求が認められるためには、Aが行った行為と損害との間に相当因果関係が認められる必要があります。
相当因果関係とは、Aの行為によって損害が発生することが相当であるといえる関係のことをいいます。
ご質問のケースで想定される損害としては、新店としてオープンした店舗における利益が減少したことによる損害が考えられます。
しかし、利益が減少する理由は様々であり、AがSNSで出店情報を漏らしたことによって利益の減少が生じたことを立証することは容易ではありません。
また、仮に相当因果関係が認められたとしても、会社から従業員に対する損害賠償請求は、全損害の10~25%程度にまで制限される傾向にあります。
これは、会社は、従業員を利用して利益を上げている以上、従業員による損害も負担すべきという考え方に基づいています。
したがって、会社からAに対する損害賠償請求は認められない可能性が高く、仮に認められたとしても、その金額は本来の損害の金額よりも制限される可能性が高いです。
【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】
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