釣り具メーカーのインストラクターの写真が偽広告に使われていた!?削除依頼や損害賠償請求は出来る?【弁護士に聞く】

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「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界でも起こる可能性のあるトラブルについて、弁護士の先生に聞いて見解や対処方法を紹介するコーナーです。

今回は、釣り具メーカーの専属インストラクターの写真が偽広告に使用されていた場合、削除請求や損害賠償請求はできるのかについて弁護士の先生にお聞きしました。

「釣具業界の法律相談所」のカット
    

「人気インストラクターと一緒に行く釣りツアー」偽広告を発見!?

弊社は釣具メーカーです。先日、SNS上で弊社の人気インストラクターの画像が無断で使用された広告を発見しました。

このインストラクターは弊社と専属契約を結んでおり、弊社の顔とも言える人物です。弊社のあらゆるプロモーション活動に登場してもらっており、釣り人からも弊社のインストラクターとしての認知度は高く、大変人気がある釣り人です。

広告の内容は、「弊社の人気インストラクターと一緒に行く釣りツアー」という内容でした。広告をクリックすると旅行の申し込み画面となり、住所、氏名、連絡先等を記入した上、指定されている銀行口座に旅行代金の10万円を振り込むというものです。

釣りツアーの内容は2泊3日で、その内の1日は弊社インストラクターと一緒に船に乗り、丸一日釣りが出来るというものです。いろいろな釣りのレクチャーが受けられ、その日は一緒に夕食も食べられるというもので、先着15名と書かれてありました。

こういった内容は、当然全てデタラメです。偽広告に掲載されている旅行の期間、弊社のインストラクターは海外にロケに行く予定が以前から決まっており、釣りツアーに参加できるはずがありません。

弊社インストラクターに聞いても「勝手に画像を使われて驚いている。明らかな詐欺の広告で迷惑している」と話していました。そもそも、弊社とインストラクターの契約では、弊社に無断で他の企業の広告に出る事は違反となります。

広告の詳細に弊社の名前は出ていませんでしたが、広告に載っているインストラクターは弊社の帽子とウエアを着用しており、釣りツアーに弊社が関係しているような誤解を与える内容となっていました。

後日、このツアーに申し込んだという人から弊社に電話がありました。「旅行代金を振り込んだのに、何の連絡もない。広告に書かれてある番号に連絡しても繋がらない。どうなっているのか」との事です。

弊社は、この釣りツアーに関係がなく、広告も偽物である事を伝えましたが、弊社や弊社のインストラクターのファンの方が被害に遭われているので、何か救済が出来ないかと考えています。

そこで弁護士の先生に質問です。

まず、この偽広告が掲載されていたのはInstagramとFacebookです。この広告に気付いた時点で、当社は削除要請をメタ社に出しましたが、対応してもらえず今も掲載されています。この広告を掲載し続けているメタ社に対して訴訟を考えています。弊社は偽広告の掲載中止と、インストラクターを無断で詐欺広告に使用された事で弊社のイメージを棄損されたとして損害賠償を求める予定ですが、これは認められる可能性はあるのでしょうか。

また、この偽広告を作り、旅行代金をだまし取っている企業に対して、同様に損害賠償請求を起こしたいと考えています。この訴えは認められる可能性はあるのでしょうか。ご回答をお願いします。

(※質問は全て架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)。

偽広告のイメージ
偽の広告を載せられた場合、SNSの運営者や掲載した企業へはどんな対応が出来るだろうか…?

偽広告の削除請求については「名誉権侵害」がポイント【弁護士の回答】

御社は、InstagramやFacebookを運営するメタ社に対して、偽広告の掲載停止や損害賠償を求めることができるでしょうか。

結論を申し上げると、ご質問の事案では、メタ社に対する掲載停止請求も損害賠償請求も認められる可能性は高くないと考えられます。掲載停止請求(以下では「削除請求」と呼ぶことにします)と損害賠償請求のそれぞれについて順にご説明します。

まず、御社が偽広告の削除請求ができるのは、SNS上の投稿によって、御社の権利、典型的な例としては、御社の名誉権が侵害されたといえる場合です。

では、ご質問のケースの偽広告は、御社の名誉権を侵害しているでしょうか。偽広告が御社の名誉権を侵害するといえるのは、一般の人が、偽広告の記載それ自体から御社が違法・不当な企業であるとの印象を抱く場合です。

たしかに、偽広告は、御社が人気のインストラクターと一緒に行く釣りツアーを開催しているという偽情報を発信しており、実際にだまされて応募してしまった方もいたようです。そのため、御社が詐欺的なツアーをする会社だと思った人もいるかもしれません。

しかし、ご質問の広告には、たとえば、御社が違法な営業を行っているとの記載があるわけではありません。広告には、御社が2泊3日で丸一日人気インストラクターと一緒に釣りができるツアーを行っているという記載があるだけで、それ自体は違法な内容ではありませんので、そのような記載自体から御社が詐欺的なツアーをする企業であるとの印象を持つとはいえません。

そのため、偽広告の記載それ自体が御社の名誉権を侵害するとはいえず、偽広告によって名誉権が侵害されたという理由で偽広告の削除を求めることは難しいと考えられます。

「著作権侵害」で削除依頼が可能?

ところで、偽広告には御社の人気インストラクターの画像が無断使用されています。この画像は「写真の著作物」(著作権法10条1項8号)ですので、御社がこの画像を撮影したのだとすると、御社には画像の著作権があります。

そこで、御社は、メタ社が御社の著作権を侵害しているとして、偽広告の画像の削除を求めることが考えられます。

この点、ネット上の掲示板サービスを提供する事業者について、投稿された書き込みが著作権を侵害すると通知を受けた後も是正措置を取らなかったという事案で、著作権侵害であることが極めて容易に認識でき、速やかに削除することもできたことなどを踏まえて、掲示板運営者が著作権侵害に加担したと判断して削除を認めた事案があります(東京高等裁判所平成17年3月3日判決)。

この裁判例の考え方を前提にすれば、御社がメタ社に対して、著作権侵害を証明する十分な証拠を示すなどしてメタ社が著作権侵害の事実を極めて容易に認識できる状態にあったのであれば、御社はメタ社に対して偽広告の削除を求めることができるでしょう。

著作権のイメージ
     

メタ社への損害賠償請求はできる?

次に、メタ社に対する損害賠償請求について検討します。損害賠償請求をする場合も、メタ社が偽広告を掲載していることによって御社の権利が侵害されたことが必要です。しかし、すでにご説明した通り、メタ社が偽広告を掲載していることによって、御社の名誉権が侵害されているとはいえません。

また、日本には「プロバイダ責任制限法」という法律があり、メタ社のような、不特定多数の者が通信を行うサービスを提供する事業者は、流通している情報が他人の権利を侵害すると知っているか、知ることができた「相当の理由」がある場合に限って損害賠償責任を負います(プロバイダ責任制限法3条)。

そして、流通している情報が他人の権利を侵害する違法なものかどうかの判断に十分な調査を要するような場合には、「相当の理由」があるとはいえません(総務省「プロバイダ責任制限法逐条解説」参照)。

そのため、ご質問のケースでも偽広告によって御社の名誉権や著作権が侵害されていることを証明する十分な資料をメタ社に提供していたなどの事情がなければ、メタ社が損害賠償義務を負うとはいえないでしょう。

なお、以上は、御社が削除請求や損害賠償請求を行う場合のご説明です。

ご質問とは異なり、御社のインストラクター個人が、自分の画像が無断で使用されたと主張して請求を行うのであれば、削除請求や損害賠償請求が認められる可能性はあります。

というのも、著名人には、顧客吸引力のある自分の氏名や画像を無断で広告に使われないという権利(「パブリシティ権」といいます)があり、ご質問の偽広告もインストラクターの権利を侵害しているといえるからです(最高裁判所平成24年2月2日参照)。

偽広告を掲載した企業へは損害賠償請求が可能

続いて、偽広告を掲載していた企業に対して損害賠償請求することはできないでしょうか。

結論を申し上げると、偽広告を掲載していた企業に対する損害賠償請求が認められる可能性があります。この点についてはいくつか考え方がありますが、以下では2つの考え方をご説明します。

まず、御社が偽広告の会社に対して、「人気インストラクターの画像を独占して使う権利」が侵害されているとして損害賠償請求することが考えられます。

参考になる裁判例として、ある会社が、フィットネスプログラムを運営する会社の人気トレーナーの肖像を、その会社に無断で使用したという事案があります。この事案では、ある運営会社が人気トレーナーの肖像を独占的に使う権利を持ち、実際に独占して使っている場合には、無断使用している第三者が警告を受けてもなお利用を継続しているようなときには、不法行為になるとしました(大阪高等裁判所平成29年11月16日判決)。

ご質問の事案では、偽広告の会社は御社の「顔」であるインストラクターの画像を使って釣りツアーを宣伝しており、インストラクターの人気度を、利用した広告に使っていました。

そのため、偽広告の会社は、インストラクターの画像を独占して使うことができるという御社の権利を侵害しています。よって、御社が偽広告の会社に対して警告した後も利用を継続するなどして、御社に損害が発生したことを証明できれば、損害賠償請求が認められるでしょう。

次に、御社が偽広告の会社に対して損害賠償請求するための根拠として、すでにご説明した著作権法違反が考えられます。

御社が偽広告に使用されている画像の著作権を持っている場合、御社の許可なくインストラクターの画像を使用した偽広告の会社は、御社の著作権を侵害していることになります(著作権法21条、23条参照)。したがって、御社は、偽広告の会社に対して、著作権侵害を理由に損害賠償請求することができるでしょう。

著作権侵害を理由とする損害賠償請求については、以下の記事も併せてご参照ください。

参考:画像の無断転載など著作権侵害の損害賠償額について解説

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・小林允紀】

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