先頭の魚をバラすと群れの他の魚も釣れなくなる?釣り人なら知っておきたい!魚の群れの習性について解説

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釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。

今回は、3回に分けて解説している「お魚さんをバラすとどうなるのか?」の中編です。

前回の前編はコチラ → 魚は痛みを感じるの?バラすと釣れにくくなるのはどうして?魚の学習能力について解説

「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」のタイトルカット
   

バラすと他のお魚さんまで釣れなくなるのか?

前回は、論文を題材に、口に釣り針が刺さったお魚さんは痛みを感じていることをお話ししました。

バラしたお魚さんの口に、釣り針や仕掛けが付いたままであればなおさら食事どころではないはずです。私たちも虫歯などで口内に痛みがあり、それが強ければとても食事をするどころではありません(図1)。

ヒトの口が痛い時のイメージ
(図1)ヒトの口が痛い時のイメージ

なるほど、口に釣り針が刺さったまま、あるいは外れたとしても痛みが残っているなら、そのお魚さんはすぐに釣れないということは解ります。

しかし、多くのお魚さんは数の違いこそあるとはいえ、数尾あるいは数十尾の群れで移動していることが多いはずです。もしもバラシが原因でその後お魚さんが釣れなくなってしまったとするなら、何故釣り針の痛みを感じていない(群れの中の)他のお魚さんまで口を使わなくなってしまうのでしょうか?

繰り返しますが、ヒトは蜂に刺されて痛みを感じることによって、蜂は危険な生物であることを本人が学習し、それを仲間や経験の浅い子供たちに伝えることによって、蜂に刺された経験の無い人でも蜂が危険な生物であることを学習し、発見すると警戒するようになります。

では、お魚さんはどうなのでしょうか(図2)。

魚の群れの先頭が針にかかった時のイメージ
(図2)口に釣り針が刺さって痛い思いをするのは群れの中の1尾だけ。何故他のお魚さんまで釣れなくなるのか?

これを解き明かす1つのヒントとして、お魚さんが群れで行動する習性があることが大きく関係しています(図3)。

規則正しい群れのイメージ
(図3)規則正しい群れのイメージ。全ての個体は餌を食べるときでも一定の間隔と向きになっている

簡単に言うなら、群れの中の先頭の1尾が右に行くと後ろにいるお魚さん達も右に行き、左に行けば同様に左に行くという習性です。

お魚さんの群れの中で最初に餌を食ってくるのは、先頭にいる1尾であることが多いので、その1尾がバラシなどの理由で不規則な動きや、予測しない方向に移動してしまうと、後ろにいるお魚さん達はそれについて行ってしまうため、お魚さんの群れ全体が釣り餌のある位置とは異なった方向に泳いで行ってしまうことになります。

また先頭の1尾でなくても、規則正しく泳いでいる群れの中に不規則な動きをする1尾を投入すると、お魚さんの群れは乱れるという観察結果も報告されています(図4)。

不規則な群れのイメージ
(図4)不規則な群れのイメージ。群れの中の先頭の1尾が不規則な動きをすると後ろに続く他の個体もそれにならって不規則となる

バラしても遠くに逃げることは無い!

あるとき数人で沖磯に渡船した時のことですが、朝最初に自分の仕掛けに食ってきたお魚さんを不覚にもバラしてしまったことがあります。すると、その後他の仲間にもアタリが来なくなってしまいました。

後ろめたさを感じながら粘っていると、上り間際に再び食ってきたのです。そして釣り上げたメジナの口には、間違いなく自分が結んだ釣り針が刺さっていたのです。メジナだけでなく、クロダイでも同様の経験を私も釣り仲間もしています。

これとは別に、釣り上げたメジナにタグを打ってリリースしたところ、数日後に同じ場所で採捕されたことがあります。

この2点から考えると、群れにいる他のお魚さんを連れて、どこか全く別の場所に逃げてしまうというのは、一時的であり必ずしも全てではないことが分かります。そして、バラしたお魚さんは思いのほか近くにいることになります。

群れの中で最初に(あるいは群れの他のお魚さんを押しのけて)エサに食いつくボス的存在のお魚さんが、その場所にいて口を使わなければ後ろにいる子分的なお魚さんも、口を使わなくなることがあるのです。

コンディションが良好だとバラしの影響は少ない?

随分前の話になりますが、カツオとマグロの一本釣り漁船に調査同行させていただいた時の話です。乗船したのは、船から散水機で水面に海水を吹き付けながら活きたカタクチイワシを投入し、カツオやマグロをのべ竿で釣り上げる漁です。

その時よく見ていると、掛かったお魚さんの中の1~2割は途中で針が外れることによって、甲板に釣り上げられる前にバレてしまい海中に戻っていきます。ところがそんな状況とは関係なく、しばらくの間は狂ったように釣れ続いていました(図5)。

カツオの1本釣り
(図5)カツオの一本釣り。かなりの数をバラしているが、釣れ続いていた

この様に、お魚さんのコンディションが良好で群れの密度が高ければバラしがあっても釣果にはあまり関係ないことが理解できます。

広大な外洋ですから、お魚さんは危険だと思えば瞬時に逃げるスペースは無限大に広がっているにもかかわらず、カツオの群れはその場から逃げることがなかったことになります。

同様に、子供向け円形プールにフナなどのお魚さんを放して釣らせるイベントでも、短時間の間に同じお魚さんが繰り返し釣り上げられています。

これらは先ほどのお話と逆になってしまいますが、釣り上げられて放されたお魚さんもすぐに釣れてしまうということが多いのです。この時よく観察していると、魚体が綺麗で体力のありそうなお魚さんほど繰り返し釣り上げられる回数が多くなるような気がします。

他にも海上釣り堀や管理池では、畜養の生け簀から網ですくって放流しますが、放流されたお魚さんはすぐに食って来ます。

どうやらお魚さんのコンディションが良ければ、バラしの影響は少ないということが言えそうです。

〈参考文献:「魚はなぜ群れで泳ぐか」有元貴文著・大修館書店〉

◆長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」の連載記事一覧はコチラ

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