【釣り人なら知っておきたい】魚が感じる「匂い物質」の正体とは?ヒトにとっても身近な「アレ」だった!

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釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。

今回は、魚が感じる匂い物質の正体について解説して頂きました。

前回は、空気中を移動する匂いの成分と水中で拡散する匂いの成分や性質は異なっている例を、簡単な装置によって分画し、それを水槽で飼育しているヘラブナに用いた実験についてのお話を致しました。

前回の記事 → 匂いの強いエサって効果があるの?強烈な匂いのサナギで実験、驚くべき結果とは…?

では、お魚さんが感じる匂いの成分は一体何なのでしょうか?

人もお魚さんも視覚によって食べ物(餌)があることを感知することが空腹を満たすために必要なプロセスではありますが、お魚さんが暮らしている水の中の世界は常に視界が良好であるとは限りません。

例えば、水深が100m以上もある深海では日光は届かず漆黒の空間が広がっていると言われていますし、夜間においても、また濁りの状況によっても、餌を発見するために視覚を活かすことが困難な環境が多く存在しているのです。

そんな時とても重要な感覚器官が嗅覚となります。

お魚さんが餌を発見するときに依存する感覚器官のイメージ
お魚さんが餌を発見するときに依存する感覚器官のイメージ

実は、お魚さんにも餌に対する嗜好性(好き嫌い)があるということは紀元前300年代から知られています。かの有名なギリシャの哲学者が著した、アリストテレス動物誌に餌の嗜好性についての記述があり、書誌的事実では最古のものとされています。

その中で水産動物(お魚さん)の餌の選択には、嗅覚が極めて重要であることが指摘されています。

それから2300年もの歳月が流れ、お魚さんに対して極めて高い刺激効果を有する化学物質がアミノ酸であることが明示されたのは、1970年代のことです。

時を同じくして1970年代後半になると、アミノ酸を分析する装置(液体クロマトグラフ)の開発が盛んになり、餌に含まれるアミノ酸の種類とお魚さんとの嗜好性との関連性が次々と解明されるようになりました。

その後、アミノ酸以外にもイノシン酸ベタインなど、お魚さんの嗜好性に大きく関与する化学物質が次々と発見され、現在に至っています。

私自身、会社員の当時は高速液体クロマトグラフを用いて色々な餌に含まれるアミノ酸を分析し、新製品の釣り餌開発に反映させてきました。

匂いの正体はアミノ酸!?「遊離アミノ酸」が魚へ刺激

さて、話が少々難しくなってしまい恐縮なのですが、この場をお借りして難解な分、やや目を引く(であろう)イラストを用いて(笑)、アミノ酸の働きについてご説明させていただきます。

人とお魚さんの必須アミノ酸
遊離アミノ酸、ペプチド、たんぱく質の関係を図式化したもの(たんぱく質のモデル図は実際の構造物ではなくイメージです)

早速ですが、アミノ酸というとアミノサプリといった飲料水から健康食品、化粧品に至るまで様々なジャンルで活用されていますから、最近では小学生でも知っているワードとなっています。

いうまでもなく、アミノ酸は私たちの体の組織を作っているたんぱく質の原料でもあります。

たんぱく質は沢山のアミノ酸同士が繋がって作られています。

また、アミノ酸同士が(2~数個)繋がったものをペプチドと呼んでいて、たんぱく質よりも分子量が小さいのが特徴です。ペプチドは沢山の組み合わせがあるため、その(アミノ酸の)配列を特定するのに大変な手間と高度な解析手法が求められますが、近年その手法が進歩していて生理的な機能についての解明が進んでいます。

一方、アミノ酸が他のアミノ酸と繋がらない状態、すなわち単体で存在しているアミノ酸を遊離アミノ酸と呼んでいます。

お魚さんに刺激を与えるとされている化学物質は、この遊離アミノ酸に該当します。

この遊離アミノ酸は、私たち人にとっても大変重要なうまみ成分となっているものもあり、代表的なものとしてグルタミン酸が挙げられます。

グルタミン酸は19‌0‌8年にコンブから発見され、さとうきびを原料として商用化したのが人工調味料として有名な味の素です。

魚が本当に好むアミノ酸は?

ところで、アミノ酸は自然界においては数100種類もあると言われていて、その中でたんぱく質を作ることが出来るアミノ酸はわずか20数種類です。

ちなみに、これらたんぱく質を構成することが出来るアミノ酸のことをαアミノ酸と呼んでいます。

私たちもお魚さんと同様に、食物に含まれるたんぱく質を摂取すると、消化酵素の働きでそのたんぱく質はアミノ酸に分解されます。その一部はエネルギーとして利用されますが、摂取したアミノ酸は筋肉や臓器、血管など体を維持していくために再びたんぱく質として合成されます。

このとき体内で作り出すことが出来ず、食べ物として摂取しなければならないアミノ酸を必須アミノ酸と呼んでおり、人では9種類、お魚さんでは10種類あります。

実は、人の必須アミノ酸とお魚さんの必須アミノ酸は同一のものであり、人の9種類にアルギニンというアミノ酸を加えたのがお魚さんの必須アミノ酸なのです。

人とお魚さんの必須アミノ酸
人とお魚さんの必須アミノ酸

これを掘り下げるなら、人が食べて栄養になるものはお魚さんの栄養になる餌としても成立することに繋がります。

ただし、体を維持していくうえで不可欠な必須アミノ酸が必ずしもお魚さんが好むアミノ酸ではありません。

現在、知られているお魚さんが好むアミノ酸はほんの数種類でしかないのです。

そのアミノ酸であったとしても、全てのお魚さんが好むのかというと決してそうではなくて、ある種類のお魚さんが好むアミノ酸であっても他の種類のお魚さんでは嫌うというものもあります。

アミノ酸とお魚さんの嗜好性
アミノ酸とお魚さんの嗜好性

お魚さんが本当に好むアミノ酸については、養殖業が盛んな種類については採算が見込まれることから解明が進んでいますが、それ以外の多くの釣りの対象となるお魚さんが好むアミノ酸については、まだまだ研究の余地がありそうです。

【参考文献】
「魚類の科学感覚と摂餌促進物質」日本水産学会・編(厚生社恒星閣)、「魚介類の摂餌刺激物質」原田勝彦・編(厚生社恒星閣)ほか。アミノ酸の表については一部著者が改変

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