ビジネスの見通しは全く不透明
ささめ針では2008年頃からウクライナの代理店との取引をはじめ、10年以上安定した取引を行ってきた。売上も年々増加していたという。
織田氏は現状について「弊社の代理店は個人で事業を行っているのですが、特に爆撃の激しい地域に住んでいます。代理店の周りの人もロシアに対して怒りを感じている人が多く、銃を持っていつでも戦うという人が多いそうです。
私も『戦争に行かないで欲しい』とは言えませんし、安否確認のやりとりがかろうじて出来る状態です。送ってある荷物がどうなっているかも不明です。売掛金もありますが、現地ではそれどころではないでしょう。今後どうなるかも、今の段階では分かりません。
ウクライナは順調に伸びてきたマーケットですし、代理店も非常によくやってくれていましたから、何とかしてあげたいという気持ちがあります」。
現在、ささめ針ではウクライナとの取引は完全にストップした状態だ。釣り具に限らず、ビジネスが出来る環境ではない。
ところが、ウクライナの隣国のベラルーシからは「以前注文した荷物はいつ送ってくれるのか?」と問い合わせがあるなど、平時と変わらない対応に織田氏も違和感を覚えているという。
ベラルーシの代理店は「ベラルーシの国民の9割以上は戦争に反対している。ベラルーシはウクライナに侵攻はしていない。ただ、独裁政権でこういった声を上げるのは難しい」と話しているそうだ。
また、ささめ針ではロシアも代理店を通じて商売を行っていたが、戦争が始まって以来、連絡は取り合っていないという。もし、取引を行うにしても、ロシア・ルーブルの下落幅も大きく、支払い手段の問題もあり、現実的に取引を行う事は非常に困難だ。
ささめ針では、現在のところロシアとベラルーシへの取引もストップしている。織田氏は今後のロシアやベラルーシとの取引については次のように語る。
「ロシアに関しては通貨の下落も大きく影響します。ロシアの業者はドルを持っておられる会社も多いですが、決済の問題がありますから、いずれにせよ海外企業との取引は難しいと思います。意外と影響が少ないのがベラルーシかもしれませんが、これも戦況次第でどうなるか分かりません」。
また、今後のウクライナのビジネスについては、全くの不透明だと織田氏は語る。
「ウクライナに関しては10年単位の話で、厳しい状況が続くと思います。国際空港もリニューアルされたばかりなのに破壊されてしまいました。戦争が終結したとしてインフラの再整備だけでも、どれほどの資金や期間が必要となるのか想像もつきません。
釣り具のマーケットとして成長過程にあり、今後も有望な国だったのですが、世界から有望な釣り具のマーケットの1つが、長期的に消失してしまったという印象です。
国が復興に向かうとしても、釣りが楽しめるようになるのは、復興が進み人々の生活も安定した後だと思いますので、釣りのマーケットが復活するのは相当に長い時間が掛かると思います。一企業では大きな事は出来ないかもしれませんが、ウクライナに対して何らかの支援が出来ないかと考えています」。
釣りは平和を象徴するレジャー・スポーツとも言える。
アメリカでも第二次世界大戦後、大きな釣りブームが起きたそうだ。戦争の暗い雰囲気を拭い去って、家族で自然の中で釣りを楽しむ姿は平和の象徴そのものだからだ。
レジャーやスポーツとしての釣りは、自然が豊かで、人々の心にゆとりがなければ成り立たない。
ウクライナでの1日も早い停戦が望まれる。