大型釣り具店「釣りのポイント」を展開している㈱タカミヤ(北九州市本社・上田桂嗣社長)は、昨年11月に、釣具業界初となる完全無人店舗「いつでも餌蔵」をオープンした。
現在、長崎女神店、小倉赤坂海岸店、若松響灘店の3店舗があり、いずれもポイントの店舗に併設されている。釣具業界のみならず、小売業としても注目される新しい取り組みだ。
「いつでも餌蔵」を作った経緯や今後について、タカミヤの上田桂嗣社長に話を伺った。
商品点数約1000アイテム!24時間営業の完全無人店舗「いつでも餌蔵」
「いつでも餌蔵」は現在3店舗ともポイントの店舗内に併設されている。
ポイントの営業時間内は釣りエサコーナーとして誰でも利用できる。ポイントの営業時間が終了すると、釣りエサコーナーが仕切られ、完全無人店舗の「いつでも餌蔵」として利用が開始される。翌朝、ポイントが開店の時間を迎えると、再び釣りエサコーナーとなる。
「いつでも餌蔵」を利用するには、事前に顔認証登録が必要となる。夜間や早朝など無人店舗になった後は顔認証によって入店が出来る。
また、利用するためには、ポイントの会員である事と、クレジットカードの決済を出来る事が条件となる。いずれも、顧客の利便性と、高いセキュリティを追求して考えられたシステムだ。
「いつでも餌蔵」の商品点数は1000アイテムを超える。ポイントの営業時間内はエサコーナーとして利用されていることもあり、各種エサの品揃えは充実している。
それに加えて、仕掛け、オモリ、ハサミなどの小物類、バッカン、ほかルアー(エギ、プラグ、ワーム、タイラバ等)も一部取り揃えられている。
この「いつでも餌蔵」は名前の通り、24時間いつでも利用できる。ポイントの営業中はもちろん、釣り人は深夜や早朝の釣行前に釣りエサを買う事や、現地で忘れ物に気付いた時にも対応できるため、非常に便利だ。
ただ、ご年配の釣り人など、顔認証システムへの登録やセルフレジ等に抵抗のある人には利用しづらいかもしれない。
しかし、タカミヤによると「いつでも餌蔵」に登録している顧客の年齢層は、若い人が若干多い印象だが、年齢による大きな偏りはないという。シニアの釣り人でも高頻度で来店しているケースもあるそうだ。
「スマートショップ」で担い手不足・労働環境改善に対応
タカミヤが「いつでも餌蔵」を開発した背景には、今後予測される深刻な担い手不足をはじめ、今の釣具業界や今後の小売業が直面する様々な問題がある。
2040年には国内の企業で働く担い手が1100万人不足するという予測もある。担い手不足に対応するため、小売業界では「スマートショップ」と呼ばれる先進テクノロジーを駆使した、店舗の無人化や省力化等の開発が進められている。
また、釣具店が抱える業界独自の問題もある。これについて上田社長は次のように語る。
「釣具のビジネスは近年、体質が大きく変わってきています。深刻さを増す担い手不足に加え、人件費や光熱費等様々なコストの上昇が続いています。そういった中で、販売価格の下落やお客様へのポイント還元などサービス競争も激しくなり、利益を確保するのが年々難しくなっています。
一方で釣り人は釣果や潮、シーズンによって動かれますし、何より天候に大きく左右されます。
深夜や早朝でも釣具店へのお客様のニーズは確かにあります。お店を開けていればお客様が来られる事もありますが、天候が悪化した場合、急激に来店客数は減少します。
お客様に来て頂けなければ、売上もありませんから経営上の負担も大きいですし、何よりスタッフのモチベーションが下がってしまいます。
当社においても労働環境の改善も進めていますが、お客様のニーズに応えるために、深夜営業や早朝営業を行う場合、スタッフにも負担が掛かってしまいます。こういった釣具店特有のジレンマを、全国の釣具店様も持ち続けておられると思います。
利益が得られにくい環境の中で、今後は担い手不足と賃金上昇が経営に与えるインパクトはますます強くなってくると予測しています。
最低賃金もここ5年で10%以上高くなりました。学生さんのアルバイトは、今は確保する事が非常に難しくなっています。我々にとっては担い手不足ですが、働く側から見ると働く会社の選択肢は多くなっています。こういった状況下で、深夜や早朝に喜んで働いてくれる人はこれからもいるのでしょうか。
とはいえ、我々は専門店を運営していますから、専門知識を持ったマンパワーが今後も必要です。こういった様々な課題を解決していくためには、どうしてもスマートショップの実現を進めていく必要があると考えていました」。
省力化で得られたエネルギーは、お客様へのおもてなしに
小売業に限らず、ホテルの予約や飛行機のチケットの手配等、様々なサービスで人を介さずに行うケースが増えている。
こういった背景には、サービスによっては無人化が好まれる背景もあると上田社長は語る。
「先ほど担い手不足の話をしましたが、一方で人がサービスを行う事がマイナスとなる場合もあります。世の中ではセルフレジも増えましたし、ガソリンスタンドもセルフが多くなっています。セルフのガソリンスタンドは多くの利用者から支持されていると感じます。
人がサービスを行う場合は、人の質がお客様の満足度に大きく関わってきます。例えば、有人のガソリンスタンドでスタッフから失礼な扱いを受けたとしたら、そのガソリンスタンドに次も行きたいと思うでしょうか?
人を介する事によって、お客様にストレスが掛かる場合もあるため、様々なサービスで無人化が進む側面もあると思われます。
ただし、我々が目指しているのは単に店舗の無人化や省力化を行う事ではありません。
お客様のニーズがある深夜や早朝は無人店舗でそのニーズに応えさせて頂き、その省力化で蓄えたエネルギーを、営業時間中にお客様に真のおもてなしをするために使いたいのです。
DXの極みともいうべき無人店舗ですが、デジタルを駆使するからこそ、アナログ営業の価値が際立ちます。私は多くの経営者とは違い、デジタルはアナログの補助だと考えています」。