前回は釣り人に「クロダイ王国」として知られる広島のクロダイ事情について紹介した。
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広島のクロダイ資源は放流事業によって見事なV字復活を遂げた。
しかし、放流によって増えすぎたクロダイに想定外の問題が生じた。入荷量が多くなることで市場価格が暴落し、漁業者から敬遠されるようになった。
また、広島のマガキ養殖業者にとって稚貝を食べるクロダイは害魚として認知されるようになった。広島のクロダイは放流事業の成功という輝かしい実績を持つ反面、放流事業について新たな教訓をもたらしたのだ。
「アオリイカ」と呼ばれるイカ。実はちょっと問題が…
今回からは(クロダイと同じように)全国的に人気のあるアオリイカについて紹介する。最初にアオリイカの基本的な生態について紹介する。
私たちがアオリイカと呼んでいるイカは、南西諸島に生息している小型のクワイカ、主に太平洋黒潮帯に生息し大型化するアカイカ、そして日本に広く分布するシロイカのいずれかに相当する。
クワイカ、アカイカ、シロイカは遺伝的に種レベルの違いがあり、学術的には既に別種として認められている。
少し前までアオリイカの学名に「Sepioteuthis lessoniana」が使われていたが、この学名に相当するのが3種のうちどれなのかも決まっていない。どれにも相当しない可能性もある。
また、アオリイカという標準和名も適切ではない状況で、今後、クワイカ、アカイカ、シロイカと呼ばれている3種の標準和名も学名決定後に再検討しなければならない。
今回の原稿では、日本に最も広く分布するシロイカ種の生態を中心に紹介するが、私たちが慣れ親しんだ「アオリイカ」を呼称として使用させて頂く。
稚イカの驚異的な成長スピード!
アオリイカの寿命は約1年で、産卵は5~7月が主だ。ふ化した時の仔イカの大きさ(胴長)は5㎜ほどだが、1カ月半で10倍の約50㎜に育つ。
稚イカの成長も早く「一潮(15日)ごとに大きくなる」と言われている。成長のペースは、1日に1㎜、一潮で15㎜、1カ月で3㎝が標準だ。
人工飼育では、100日もすれば胴長13㎝、170日で胴長20㎝、体重は500gを超えたという記録もある。「お盆を過ぎる頃に稚イカが湧いたように現れる」と言われるが、これには稚イカの驚異的な成長に起因している。
稚イカの成長や生存を左右するのは環境だ。アオリイカは水温20度以上の高水温帯を好む。高温好みのアオリイカが豊漁となるのは記録的な猛暑日が続いた年であり、そんな年はエアコンがよく売れ、米も豊作だ。
逆に、低塩分は稚イカにとって致命的だ。真水で3倍に希釈した海水(3分の1海水)に稚イカを入れると、10時間で全滅する。大雨を伴う台風は、稚イカに低塩分をもたらす危険性がある。
また、台風の風波によって稚イカが餌の少ない沖に流出されると生残が悪化する。長雨と台風が多い年は、アオリイカは不漁になる。
エギングと生態
アオリイカの驚異的な成長を支えているのが旺盛な食欲で、餌に対してどう猛で、貪欲にふるまう。食物連鎖で上位に位置するアオリイカにとって、動いているものはすべてターゲットだろう。
エギングで使う餌木の発祥は江戸時代中期の大隅諸島で、夜釣りに使用した松明(たいまつ)の切れ端にアオリイカが抱きついたのがヒントとなったという説がある。松明説はあくまで言い伝えであり、真実は謎だが、アオリイカのどう猛貪欲な性格を利用してるのが餌木とエギングだろう。
エギングの場合、アオリイカはシャクった後のフォールに反応する。おそらく、餌木のトリッキーな動きが「鍵刺激(かぎしげき)になっているだろう。
「鍵刺激」というのは反射的な行動のようなものだ。クモの巣に触れると、餌がトラップされたと勘違いしたクモが反応するのと同じだ。
エギングで演出されたトリッキーな動きは弱った魚と同じであり、アオリイカからは必ず捕獲に成功できる絶好の餌に見えている。どう猛で貪欲なアオリイカの食欲をそそる効果的な「鍵刺激」になるだろう。
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