未来が楽しみな釣り場として今回注目したのは、大阪の都心を流れる淀川だ。世界有数の古代湖として知られる琵琶湖を水源とし、固有種が多い特別な水系である。
ただ、明治時代から続く大規模な河川改修や遊水地の干拓、高度成長期の水質汚染などでその自然環境は大きなダメージを受けた。そのリカバリーは容易ではないが、かつての魅力を取り戻そうと淀川河川事務所(国土交通省近畿地方整備局)や研究者、多くの市民団体が奮闘している。
今回は淀川河川事務所が取り組む多岐に及ぶ河川環境整備の中から釣りに関連する事業をまとめてみた。
淀川河川事務所が取り組む河川環境整備
日本の河川行政の歴史を振り返ると、現在の国交省の河川環境整備事業のベースとなっているのが1997年の河川法改正だ。それまでの治水・利水に加えて、「河川環境の整備と保全」が同法の目的に位置付けられた。
淀川河川事務所の河川環境(水質・景観・生態系等)整備と保全に対して必要な指導と助言を行う機関「淀川環境委員会」が設置されたのも同じく1997年だ。
淀川本川はこの連載企画でこれまで紹介してきた釣り場のように漁業権は設定されていないが、行政、有識者、市民がうまく連携して自然再生に取り組んでいる。
【水質】BOD値は1.0mg/L前後をキープ
「淀川の魚は食べられない」と言われたのは遠い昔の話。水質汚濁の代表的な指標の一つ、BOD値(生物化学的酸素要求量)は渓流魚が十分に棲めるレベルにまで改善している。
大阪湾の海水の影響を受ける河口近く(伝法大橋)ではやや数値が高いが、他の観測地点(枚方大橋、鳥飼大橋、菅原城北大橋)では、もうこれ以上の改善は難しい1.0mg/L前後を10年以上キープしている。
今後の河川水質管理の指標項目の一つである「人と河川の豊かなふれあいの確保」の調査結果も表の通り好評価となっている。水質においては親水性が高まっているといえるだろう。
【河口堰と天然アユ】増減が激しいアユの追跡調査継続中
現在の淀川大堰(河口堰)から下流はかつて「新淀川」と呼ばれ、明治18年の大洪水を機に開削された人工河川だ。この大きな堰の両側に魚道が設けられ、毎年春になると天然アユの遡上が見られる。
かつての本流は現在「大川(旧淀川)」と呼ばれ、淀川大堰の左岸側に隣接する毛馬の水門で新淀川と分岐しており、こちらからもアユが遡上する。
アユの遡上数は平成24年からCCDカメラによる計測を開始し、それまでの目視による換算値よりもより正確なデータが得られるようになった。遡上数は年別、日別、魚道別に詳細なデータが淀川河川事務所のホームページにて公開されている。
淀川大堰の魚道はより遡上しやすいように約10年前に改善され、その直後に遡上数は向上したが、増減を繰り返している。直近では令和元年は約3万5000尾と低迷したが、令和2年度は約26万尾まで回復している。
海産アユの遡上数はどの河川においても激しい増減を繰り返している。淀川ではただ単にアユの遡上数を計測するだけでなく、淀川環境委員会の委員である京都大学防災研究所の竹門康弘先生を中心とした「京の川の恵みを活かす会」が淀川河川事務所と連携してアユの産卵直後の流下仔魚調査から冬期の河口域での生息調査、遡上環境の改善事業など、アユの一生を追いかける調査を継続している。
淀川河口周辺の大阪湾沿岸はほとんどがコンクリート護岸となっており、アユの稚魚が天敵に襲われやすいため、河口域で始まった干拓再生試験地施工によって大型魚から稚魚が守られることが期待される。
さらに近年では淀川大堰上流の水位を下げることで旧淀川から溯上してきた稚魚が毛馬閘門の手前に溜まる現象を幾分解消できることが分かったという。
誰もが知り得たいアユ個体数の増減メカニズムがここ淀川で判明するのではと期待が高まっている。淀川河口堰の魚道を通過するのはアユだけではないが、この河口堰の稼働を前提にした淀川の自然再生は、やはりアユの生息環境改善を抜きには語れないだろう。
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