釣具店員の巨額横領、自己破産で返済を回避?全額返済させる事は出来るか【弁護士に聞く】

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「釣具業界の法律相談所」は、釣具業界で起こる可能性のあるトラブルに対して、弁護士の先生に見解や対処方法をお聞きし、紹介するコーナーです。今回は店員の横領事件ですが、相当ややこしい案件です。【質問は全て架空の質問です】

 

(質問)弊社は釣具店を経営しています。先日、弊社の社員による横領が発覚し、大きなトラブルとなってしまいました。

弊社は釣具店を3店舗展開しています。横領した社員は30歳代で、その内の1店舗の店長を長年務めていました。横領の手口は、不正な手段で高級リール等の仕入れを行い、中古釣具店やフリマサイトで売却していました。

仕入れは全てその店長に任せていた事や、棚卸では店長が内容を改ざんする等、様々な隠ぺい工作も行われていたため、横領に気付くのに時間が掛かってしまいました。結果的に、その店長は5年間にわたり横領を続けており、被害総額はおよそ2500万円である事が判明しました。

悪い人のイメージイラスト
多額の横領をしている事が発覚

弊社はその店長を懲戒解雇し、さらに被害額の返還請求を行いました。しかし、店長は「お金は家族で全部使ってしまった。貯金は数十万円しかない」と話しています。店長は横領を認めており、弊社に謝罪する意志はありますが、返還請求については「全額の返還は無理です。自己破産します」と開き直った態度を取っています。

その店長は、弊社から横領したお金を使い、高級四輪駆動車を購入していました。さらに、毎年、家族4人で海外旅行に何度も行くなど、贅沢に見える暮らしをしており、弊社の中でも話題になっていました。弊社の給与だけでは、とてもそれだけの生活は出来ないはずです。

高級四輪駆動車のイメージ写真
派手な生活が出きていた理由とは…(写真はイメージ)

弊社の別のスタッフがその店長に、何故それだけお金があるのかを聞くと「実家からの援助がある」とウソの返事をしていました。

この店長の妻は、弊社で以前アルバイトをしていた女性です。店長と結婚を機に退職したのですが、夫の収入については以前から把握していたはずです。つまり、高級車や海外旅行の資金は、給与以外の手段によって得たお金である事を分かっていながら、使っていたはずで、非常に腹立たしく感じます。弊社は少なくとも、横領された2500万円を全額取り戻したいと考えています。

そこで弁護士の先生に質問です。

まず、店長が自己破産してしまうと、弊社は横領された金額の返還請求ができなくなるのでしょうか?

また、店長の妻も不正な手段で得たお金と知っていながら、家族で豪遊していた事が判明した場合、店長夫妻に対して何らかの請求は出来ないのでしょうか。

店長の家には、実際に現金の預金は数十万円しかなく、それ以外に資産となるものは、高級自動車と高級釣り具、ブランド品のアパレルがある程度で、全て現金化しても1000万円以下だと思われます。資産を現金化して返済に充てても、弊社は1500万円以上の損失となります。何とか全額返済してもらう方法はないでしょうか。ご回答お願い致します

(※質問は全て架空の内容です。実際の企業等とは一切関係がありません)

【弁護士からの回答】全額支払ってもらう対策は可能

元店長は横領したことを認めつつも、全額返還できないから破産すると述べているようです。元店長は、破産することで御社への支払を免れてしまうのでしょうか。

結論から述べると、元店長は破産しても御社に対する支払を免れるわけではありません。破産法253条1項2号が、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」については責任を免れないと定めているからです。以下ご説明します。

破産しても支払いは免れない

まず前提として、「破産」とは、支払ができなくなった個人や法人について、支払を免除することによって債務の負担から解放するための手続です。破産が認められれば、破産者は債務から解放されます。

しかし、破産者は必ずしもすべての支払を免除されるわけではありません。破産法253条1項には、破産しても免れられないものが定められており(これを「非免責債権」といいます)、その中に「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」が挙げられています(破産法253条1項2号)。つまり、破産者が害意をもって相手に損害を与えた場合の損害賠償請求(民法709条)は、破産しても支払を免れないということです。

そして、ご質問のケースでは、御社の元店長に対する損害賠償請求権は「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」にあたり、元店長は支払を免れないと考えられます。

まず、元店長が御社のお金で高級リールなどを仕入れて、中古釣具店で転売し、その代金を自分のものにしていたのであれば、元店長は横領や背任の不法行為責任を負います。そして、被害総額は2500万円と高額であり、棚卸で内容を改ざんするなどの隠蔽工作をしていたり、不正に手に入れたお金を高級車の購入費用に充てるなどして浪費していたりしたようですので、悪質性は高いです。

そのため、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」(破産法253条1項2号)にあたるといえ、元店長は破産しても免責されないでしょう。この点については、東京地方裁判所令和2年12月24日判決などが横領を理由にした損害賠償の支払は免れられないと判断しています。よって、元店長は、破産しても支払を免れることはできません。

元妻へは以下の3つの場合に請求する余地あり

次に、元店長だけでなく、元店長の妻に対しても請求することはできるのでしょうか。結論としては、以下の3つの場合に元店長の妻に請求する余地があります。

1つ目は、妻が元店長の不正行為を手引きするなどして元店長に協力していた場合です。この場合、妻は、元店長と共同で不法行為を行ったといえ、元店長と連帯責任を負います(民法719条)。この点、妻は以前御社でアルバイトをしていたようですので、元店長による不正行為を手引きできる立場にあったのかもしれません。しかし、妻が不正行為に加担していたとまでは断言できません。現実には、妻が不正行為に加担していたことを証明するのは簡単ではないでしょう。

2つ目は、妻が不正に得られたお金を使って利益を得ていた場合です。この場合、妻は、本来御社に帰属すべき利益を法的な根拠なく得ていたことになり、御社に対して不当利得の返還義務を負います(民法703条、704条)。もっとも、元店長が高級自動車を購入したり、家族4人で海外旅行に何度も行ったりしたとしても、妻がどのくらいの利益を得たといえるかは明らかではありません。妻に請求するには、妻がどのくらいの利益を得ていたかを証明する必要があります。

3つ目は、妻が元店長の「身元保証人」になっていた場合です。この場合、妻は、元店長が御社に与えた損害を賠償する責任を負います(民法465条の2)。もっとも、御社と元店長の妻が事前に書面で「身元保証契約」を取り交わしていなければなりません。また、身元保証契約は、責任の限度額を定めなければ無効となること(民法465条の2第1項)、有効期限が5年であること(身元保証に関する法律2条)にも留意が必要です。

以上のいずれかの場合には、元店長の妻に対しても請求をすることができるでしょう。

裁判もしくは任意で支払ってもらう。その際は「合意書」で書面に残す

最後に、御社は元店長夫妻から損害全額を回収できないでしょうか。結論としては、2500万円全額を支払ってもらえるような対策は可能です。

まず、強制的に支払ってもらう方法としては、元店長夫妻に対して裁判を起こすことが考えられます。勝訴すれば、最終的に元店長夫妻の資産に対して強制執行できるようになります。

ご質問のケースでは、元店長の家には現金預金が数十万円、高級自動車と高級釣り具、ブランド品のアパレルがあり、現金化すれば1000万円以下になるとのことです。そのため、強制執行すれば、これらの資産から一部支払を受けることができます。

また、現在元店長の家にある資産のほかにも、生命保険契約があれば生命保険の解約返戻金に対して強制執行することができます(民事執行法155条1項)。

さらに、元店長が御社を辞めた後どこかの会社に就職していれば給与の収入があるでしょう。就職先が分かるのであれば、給与を差し押さえることもできます(民事執行法143条以下)。ただし、給与については、差し押さえることができるのは原則として手取り金額の4分の1までです(民事執行法152条1項2号)。

次に、強制的に支払ってもらう方法以外に、御社と元店長夫妻との間で、2500万円について、たとえば毎月末日までに25万円ずつ支払うことなどを約束させ、任意に支払を継続してもらうことが考えられます。この場合は、「合意書」を取り交わして約束した内容を書面に残すべきです。

さらに、公証人役場で、「強制執行認諾文言付公正証書」という契約書を作成する方法もあります。公正証書を作成することができれば、万一相手がお金を払わなかった場合であっても、裁判を起こすことなく強制執行できるようになります。

ところで、先ほど「元店長は破産しても支払義務を免れない」とご説明しました。しかし、元店長が破産すると問題が出てきます。というのも、破産手続では、破産者の資産は基本的にすべてお金に換えられ、債権者に平等に分配されてしまうからです。

そうすると、元店長が持っていた高級自動車などは全て現金化され、他の債権者に支払われることになり、御社が元店長の資産から支払を受けることができなくなってしまいます。そこで、御社は、元店長に対して破産しても支払を免れないことを説明し、破産しないよう説得するとともに、合意書や公正証書の作成に協力してもらうべきでしょう。

業務上横領発覚時の会社の対応については、以下のページで詳しく解説していますのでご参照ください。

業務上横領発覚時の会社の対応とは?被害回復や処分の手順を詳しく解説 – 咲くやこの花法律事務所

【回答者:弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士・木曽綾汰】

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