釣りエサのスペシャリスト・長岡寛さんの連載「お魚さんッ、私のエサに食いついて!」です。釣りエサに関する事以外にも魚の生態や環境など様々な内容を紹介します。
今回は、気圧と釣果の関係等について解説して頂きました。
前回に続いてヘラブナに関連するお話です。
前回のお話し → 釣果アップのカギ!?フッキングの反射時間と練り餌の強度の関係は?車の運転を例に分かりやすく解説
ヘラブナ釣りでは「雨待ちの食い渋り」ということをよく耳にします。私自身も長年この釣りの愛好者ですが、やはり間違ってはいないと確信していますし、多くの釣り仲間も同様のことを口にします。天気が下り坂になると日差しが遮られ、なんとなくお魚さん全般の警戒心が緩んで、好適な釣果を得られるような気がします(図1)。
その中で、何故ヘラブナはそういう傾向が現れるのでしょう?
ヘラブナは淡水魚の中でも比較的水質の悪い水域に生息しています。水質を表す指標としてBODの値が用いられますが、これは水の汚れが大きいほど、微生物が多くの酸素を消費するため、その量を示したものです。(表1)はBODの値と水のキレイさを示したものです。
続いて、(表2)はBODの値と住めるお魚さんの関係を示したものです。ヘラブナやフナ、コイなどが生息している水域の水はやや汚い水であるため、表の通り水温が20℃の場合、5日間で水1リットルにおいて5㎎もの酸素が微生物によって消費されることになります。
こうした条件下に居るお魚さん達は、溶存酸素が不足気味になっていることが多く、水温が高いほど顕著になります。それならもっとキレイな水域に棲めばいいと思われるかもしれませんが、水質が良すぎるとヘラブナが主食としている植物性プランクトンの発生も少なくなります。つまり餌が少ないということになるのです。
特に、ヘラブナの場合は水温が25℃以上になると、必要とする酸素量と水中の溶存酸素量とのバランスが崩れて餌を食べる量は少なくなってしまいます。もちろん、水温が25℃以下でも酸素量としては常に厳しい環境下で暮らしています。
そうした中で、天気が下り坂になると、気圧が下がってきます。気圧が下がることによって水中に溶け込んでいる酸素量も少なくなってきます(図2・図3)。つまり、雨が近くなると酸素が低下傾向になり、食欲が低下する傾向があるということになります。
魚の鰾(うきぶくろ)に注目!魚種によって異なる気圧の影響
では、そうした傾向が現れるのはヘラブナだけでしょうか?
実は、コイ科に属する多くのお魚さんにも同様の傾向が見られます。では、コイ科に属する多くのお魚さんと、それ以外のお魚さんとは何が異なるのでしょうか。
(表3)はお魚さんの種類による鰾(うきぶくろ)の形態を示したものです。
有気管鰾(ゆうきかんひょう)魚というのは開鰾(かいひょう)魚とも呼ばれ、鰾と消化管の間に気道があるお魚さんを指しています(図4)。
一方、無気管鰾(むきかんひょう)魚というのは、閉鰾(へいひょう)魚と呼ばれることもあり、鰾と消化管は分かれています(図5)。
この両者は、鰾の気圧を調整する仕組みが異なっていて、前者の開鰾魚に属するお魚さんは気圧の調整を行う際に水面に鼻上げすることもありますが、後者の閉鰾魚に属するお魚さんは、鰾の気圧調整をガス腺と卵円体によって行っています。
コイやヘラブナが口から泡を吐き出すのはこうした構造によるものです。そして、鰾と気道が繋がっていることにより、気圧の変化により起こる水中の溶存酸素量の変化に敏感であることが伺えます。これは、常に酸欠状態に近い条件下で生き延びる上で、より酸素の量が多い場所に移動するなど適応力が求められた結果、このように進化したと考えられます。
開鰾魚に属するお魚さんの中でも、先ほどからお話ししている水が汚れている場所に生息しているヘラブナをはじめとしたコイやフナは、そうした理由で気圧が下がると食欲が無くなってしまうのです。
一方、閉鰾魚に属しているお魚さんは気圧の影響を受けにくいと考えられます。バスやシーバス、クロダイやアジなど、低気圧が接近したからと食いが悪くなることはありません。もしもそうした傾向があるとしたら、それは別の要因であると考えて良いでしょう。
ちなみに雨待ちの食い渋りですが、雨が降り出すと解消してくる傾向があります。増水による危険が無い場所で、しっかりと雨具の準備をして出かければ釣果に期待が持てるはずです。
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