生産する魚種はどうやって決まる?
「生産する魚種を決めるのは、まず漁業者や住民に対してアンケート調査を行います。そこでどういった魚種が良いのかという候補を選びます。その後、水産技術センターによる科学的知見と栽培漁業センターの施設の能力や技術力、経費等を総合的に判断して決定します。
例えば、極端な例を挙げると住民の方から『ウナギを作って欲しい』、『マグロを作って欲しい』という要望があったとしても、各施設の設備や経費の関係で生産出来ない魚種もありますし、放流してもそれが資源の増加に繋がるのかという科学的知見も必要ですから、どんな魚でも作れるわけではありません」
キジハタ(アコウ)の生産に力を入れる
それでは今、実際にどういった魚種の生産 に力を入れているのか伺った。
「今、大阪の栽培漁業センターで力を入れているのはキジハタ(アコウ)です。なぜ、キジハタなのかですが、理由はいくつかあります。
まず、キジハタは単価の高い魚、つまり高級魚です。さらに沖合にいる魚ではなく沿岸に生息しますから、漁師も沖合まで船を出す必要がありません。こういった理由もあり、漁業者からの要望も多い魚種です。
キジハタは平成元年前後の大阪湾では漁獲量は多かったのですが、その後、理由は不明ですが急激に姿が見えなくなった魚です。その後、平成12年より種苗放流を行い継続してきた結果、漁獲量は確実に増えています。こういった漁獲量が減少した魚が、栽培漁業の対象魚として望まれる傾向もあります。漁業者の漁獲量が増えてきた魚は、釣り人の皆さんにも『よく釣れるようになってきた魚』として認識されてくると思います。
釣り人にとってもキジハタは岸からや、ボート釣りでも湾奥や沿岸で釣れているはずです。近年は釣りの対象魚としても人気だと聞きます。当栽培漁業センターで作ったキジハタは大阪湾に放流するのはもちろんですが、山形県や島根県等の漁協等、遠方にも有償譲渡しており、その地元で釣れていると聞いています。大阪湾でも大物のキジハタが釣れて、フィッシングショーで表彰されていますが、あれは間違いなく当センターが作ったキジハタでしょうから、嬉しく思っています。
栽培漁業では基本的に食物連鎖のピラミッドの頂点に近い魚種を生産する方が、放流する数も少なくて済みますし、効果があらわれやすいです。例えばイワシやエビなどピラミッドの下層にいる魚介類を放流しても、それが増えたのかどうかは元の数が多すぎて自然変動で増加したのか、放流の効果なのか測定は困難でしょう」
減少が確認されている魚種を優先する傾向に…
「確かにクロダイを生産して欲しいという声はあります。ただ、大阪湾で言えば、今はクロダイやスズキは十分な資源量があると考えられています。栽培漁業は基本的には、先にも述べましたが減少が確認されているような魚種が生産の対象になりやすいです。
また、クロダイは漁業者からの要望は少ないのが実情です。クロダイは単価が低い上に、鋭い背ビレ等もあり、網から外すときに漁師がケガをしやすいという事もあり、あまり需要がないのです。
しかし、三重県等ではクロダイの栽培漁業を行っています。こういったエリアは、筏釣りも盛んですし、地域の産業としてクロダイが重要である等の理由もあって、今も放流を続けているのだと思います。
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