今回は、食品包装容器・資材の大手である株式会社折兼(愛知県名古屋市本社・伊藤崇雄代表取締役)と、関西で釣り具の量販店を展開する株式会社フィッシングマックス(兵庫県芦屋市・吉田学代表取締役社長)によって共同開発された「ベイトバガスパック」を紹介する。
海洋で分解され、「海に還る」釣りエサ容器として開発されたベイトバガスパックは発表以来話題となり、導入する釣具店も増えている。「ベイトバガスパック」の開発の経緯などについて、折兼の服部貞典氏と味岡愛恵氏に話を伺った。
そもそも「バガス」とは?
ベイトバガスパックは、折兼とフィッシングマックスの共同開発によって作られた、海洋でも土壌でも分解する釣りエサ容器だ。
原料として竹と、サトウキビから糖汁を絞った後に出る搾りかすの「バガス」が使われており、100%植物由来の素材で出来ている。
釣具店では活きエサの販売用にプラスチック容器が使われることが多いが、ベイトバガスパックは、もし風で海に飛ばされたとしても海中で分解されるため、環境に優しい釣りエサ容器として話題となっている。
ベイトバガスパックの原料である「バガス」は、全世界で年間1億トン以上発生しており、主にボイラー燃料、飼料原料、農業堆肥として有効利用されているが、余剰分は廃棄されている。
欧米では食品容器としてプラスチックの使用が禁止されている国もあり、バガスを使った食品容器も使われているが、日本ではまだそれほど普及していない。
しかしここ数年は、SDGsへの関心の高まりや、コロナ禍によりテイクアウト・デリバリーなどの中食が増え、大量のプラスチック容器が排出されたことが問題視され、日本でも紙やバガスを使った食品容器が注目を浴びるようになってきた。
折兼では以前から環境負荷の少ない商品の開発・販売を行っており、食品用に様々なタイプのバガス容器を開発。今はプラスチックの包装資材をメインに販売しているが、近年はエコ商材にも力を入れているそうだ。
特に、バガス容器の開発に関しては、「海ごみゼロアワード」や「愛知環境賞」の優秀賞などエコに関連する様々な賞を受賞。現在は食品以外にもアパレル業界や化粧品業界でも使われている。
「ベイトバガスパック」開発の経緯。年間数十万個分のプラスチックを削減!
ベイトバガスパックの開発の経緯について、折兼の服部貞典氏に話を伺った。
「フィッシングマックス様との出会いは、自然との関わりが深い釣り業界で、環境にやさしいパッケージの需要があるのでは? と一本の電話より飛び込み営業をしたところから始まりました。
本当に分解するのか検証して頂くため、バガス容器を持って帰って頂き店舗の水槽で試したところ、微生物が多かった事もあるとは思いますが、わずか60日で完全に分解し大変驚かれました。
これが決め手となり、『導入コストがかかってもいいから、ぜひ釣りエサ容器としてバガス容器を使いたい』と言って頂き、同社の意見を取り入れながら、ベイトバガスパックの開発を開始しました」。
フィッシングマックスでは、年間約25万個のプラスチック製パックがエサ容器として使われていたが、2022年6月からはベイトバガスパックの導入を開始。現在は全店舗でベイトバガスパックが使われている。
その後、「フィッシング遊」や「キャスティング」でも、環境への取り組みの一環として、ベイトバガスパックが導入されている。釣具業界で考えると、数十万パック分のプラスチックが削減された事となる。
海洋で150日で分解!万一海に落としても安心な釣りエサ容器
バガス容器の分解速度については、土壌で約70日、海洋でも約150日で完全分解することが実証されている(北九州市立大学による生分解性実験の結果)。
また、ベイトバガスパックは製造から焼却までの過程で、プラスチックと比較して80%以上のCO2削減となることも分かっており、資源の有効活用に加えてCO2削減にも貢献出来る。
ベイトバガスパックは環境に優しいだけでなく、釣りエサ容器としての機能性も抜群である。
まず、耐久性が高く、水漏れなどのトラブルは今まで一度も無いという。プラスチック以上に高温にも強く、例えば電子レンジで200℃に加熱しても破損しない。
一方で、冷凍した場合、プラスチックはマイナス20℃で割れることがあるが、ベイトバガスパックは冷凍が原因で割れることはない。
プラスチックと比べると水には少し弱いが、パック全体が水に浸かるとふやけてしまう程度で、少しの水滴なら全く問題はないそうだ。
また、本体と蓋が一体型でそれぞれツメがついており、嚙み合わせて封が出来るため輪ゴムを留める必要がなく、片手で開け閉めが可能だ。
さらに、直射日光を遮るためエサの鮮度が保てるほか、蓋部分に保冷剤が置ける凹みがあるなど釣り人にとっても喜ばれるエサ容器だ。
エコ容器の導入で企業のイメージアップを!
一方で、ベイトバガスパックのデメリットがあるとすれば、プラスチック容器と比べて導入コストがアップしてしまうことだ。一度に大量生産出来るプラスチック製パックとは異なり生産に手間がかかるため、プラスチック製パックの5~6倍の値段になってしまう。
このことについて、服部氏は以下のように語る。
「釣具店様にとって、ベイトバガスパックの導入はコストアップになってしまう事が多いとは思いますが、エコ容器を使う事は企業のイメージアップにも繋がります。
近年は環境問題への意識が高い人が増えている事もあり、様々なジャンルで環境に優しい商品を選択する消費者が増えています。
今年、弊社でもフィッシングショーに出展させて頂き、釣具業界や釣り人へPRをさせて頂きましたが、『一部の釣具店で釣りエサ容器が環境に優しいものに変わっている』と認知されている釣り人は、我々が想像していた以上に多く、来場者の多くの方から関心を得ることが出来ました。
低コストのプラスチック容器全てを、一度にベイトバガスパックなどのエコ容器へ切り替えることは難しいかもしれません。そのため、まずは一部だけでもベイトバガスパックを試して頂けたらと思います。
我々もプラスチックを否定するのではなく、プラスチックとエコ容器を上手く共存させ、それぞれの商売に合った形で取り組んで頂くことで環境問題に貢献し、釣具店様のイメージアップにも繋げて頂きたいと思います」。
深刻な釣り場減少問題。未来の釣りと釣り場を守るために…
ベイトバガスパックの導入は企業のイメージアップだけでなく、釣り場のゴミを減らす事にも繋がる。
現在、釣り人によるゴミの放置等が原因で釣り禁止や立入禁止の漁港が増え、釣り場の減少が大きな問題となっている。
特に目立つのはエサ容器などの釣具の包装容器で、ビニールやプラスチックから出来ているものが多いため風で飛ばされやすく、海洋プラスチックゴミを発生させてしまう懸念もある。
こういった問題を少しでも軽減するために、他の素材に変えられる物は、環境に優しいエコ容器に変えていくことも必要ではないだろうか。
ベイトバガスパックは今はワンサイズしかないが、希望があれば異なる形・サイズでの生産も可能だという。
蓋部分には環境問題への取り組みをPR出来る「Plastics Smartロゴ」が入っているが、その部分を会社のロゴに変更するといったアレンジも可能だ。ほかにも、例えば冷凍でも使えることから、冷凍エサの容器としての導入も出来そうだ。
最後に、他に釣具業界と一緒に取り組めそうな事業に関してもお聞きした。
「釣具業界では、子供を対象としたイベントを活発に行われているとお聞きしていますので、環境学習のイベントを一緒に行えたらと思います。
弊社ではフードサイクリングの取り組みも行っていますので、例えば、食品残渣と使用済みのバガス容器を回収し、堆肥化して、その堆肥で作物を育て、収穫する。その一連の流れを子供達に体験してもらうイベントを検討中です。
この様な環境学習を取り入れたイベントを、釣具業界とのコラボで実現出来たらと思います」。
消費者の環境問題への意識が高まりつつある中、ベイトバガスパックは、釣り人も安心して使える環境に優しいエコ容器だ。
釣り人と一番近い距離で商売を行う釣具店にとって、ベイトバガスパックの導入は環境への取り組みを分かりやすくPRすることができ、企業のイメージアップに繋がる。
また、導入する釣具店が増えることで、釣りというレジャー・スポーツ自体のイメージアップにも繋がり、釣り人の環境問題への関心を高める良いキッカケにもなりそうだ。
釣りと釣り場を守り、持続可能な釣りビジネスを実現させるためにも、ぜひエコ容器の導入を検討してほしい。
問い合わせ先は、株式会社折兼(052-561-3662)まで。