安心安全な釣り場へ。苫小牧港「一本防波堤」釣り場開放への道のり【日本釣振興会】

スペシャル ニュース

2022年4月23日に北海道苫小牧港東港の通称「一本防波堤」が釣り場として有料開放され、釣り界でも大きな話題となった。

長年にわたり立ち入り禁止だった防波堤が、公益財団法人日本釣振興会北海道地区支部等が主体となり、解放に向けた活動を継続してきた結果、安全で管理された「苫小牧港海釣り施設」として開放された。

開放期間中は利用者も多く、釣り人からも好評だった。そして、今年も4月1日(土)から営業が再開されている。

開放までの経緯や施設の状況について、施設の運営を行う「苫小牧港釣り文化振興協会」の明村享代表理事(会長)と森田忠志業務執行理事に現地で話を伺った(取材は2022年9月に実施)。

苫小牧港釣り文化振興協会の明村享代表理事(写真左)と森田忠志業務執行理事
苫小牧港釣り文化振興協会の明村享代表理事(写真左)と森田忠志業務執行理事。明村代表理事は苫小牧市の元市会議員、森田理事は著名な釣り人でもある

解放された防波堤の先端500m。過去には釣り人のルール違反で釣り禁止に…

苫小牧港の一本防波堤
昨年の春に有料開放された通称「一本防波堤」。10月末まで営業し、多くの釣り人が訪れた。釣果もよく、期待の釣り場だ

苫小牧港は苫小牧市から勇払郡厚真町(ゆうふつぐんあつまちょう)に位置する特定港で、北海道の海の玄関として多くの航路を有している。国内に8港ある中核国際港湾(国際海上コンテナターミナルを有する港湾)にも指定されている。

苫小牧港は西港区と東港区があり、開放されたのは東港区内防波堤(A)、通称「一本防波堤」だ。名前の通り、沖に突き出た一本の防波堤で全延長は1030m。途中に立ち入り禁止のゲートがある。このゲートから堤防の先端までの約500mが釣り場として開放された。

苫小牧港の一本防波堤
通称名の通り一本だけ沖に突き出た防波堤。当然、釣果も期待できる

明村代表理事や森田理事はこの地域を昔から知る人物だが、立ち入り禁止になった経緯について次のように語る。

昔は自由に釣りが出来たが、大事故の発生後閉鎖に。その後も一部の釣り人が…

「昔の話ですが、一本防波堤が完成した当時は自由に釣りが出来ました。当時から魚は良く釣れました。立ち入り禁止のゲートもありませんし、沖に防波堤もあるので漁協が渡船も行っていました。

しかし、2009年に自衛官6名が、一本防波堤の沖合にある防波堤に自分達のボートを使って上陸し、釣りをしていた際、荒天となり、ボートに乗船して帰ろうと試みたものの転覆しました。結果的に5名が亡くなるという大事故が起こってしまいました。

その後、渡船が出来なくなり、一本防波堤にも立ち入り禁止のゲートが設けられました。しかし、今度はそのゲートを乗り越えようとした釣り人が事故を起こし、完全な釣り禁止になりました。その後も侵入を試みる釣り人もおり、管理者も頭を悩ませていました」。

一部の釣り人の行為が招いた結果とも言えるが、一般的な多くの釣り人にとっては、釣りが出来る場所が制限された状態が続いており、釣り場開放を求める声も大きくなっていた。一方でフェンスを乗り越え、防波堤の奥に侵入する釣り人も後を絶たず、新たな重大事故の発生が懸念されていた。

苫小牧港、一本防波堤のフェンス
今も厳重にフェンスが設置されている。当たり前だが、不法な侵入はしてはならない

管理者を置き「安全に管理された」釣り場に。釣り文化振興モデル港にも指定

公益財団法人日本釣振興会北海道地区支部では、苫小牧港の管理者である苫小牧港管理組合と何度も勉強会を開き、話し合いを重ねてきた。

組合に対しては安全対策整備の依頼を行った。日本釣振興会側は、管理者を置き、行政と協力しながら安全に管理された釣り場として運営を行う事で、侵入を防ぎ、死亡事故を無くす体制作りが出来ないかを検討してきた。

開放に向けては日本釣振興会本部、日本釣振興会の水際線有効活用委員会、日本釣振興会北海道地区支部が連携しながら取り組んできた。

2020年には、苫小牧港で釣り開放の在り方を考える「苫小牧港海釣り施設協議会」が発足した。この協議会には苫小牧市をはじめ行政機関、苫小牧漁協等が参加し、事務局は苫小牧港管理組合と日本釣振興会北海道地区支部が務めた。

この協議会の中で荷役が行われていない東港の一本防波堤を有料化し、管理された釣り場として運用する事が具体的に検討されてきた。

そういった中、2020年8月に苫小牧港は国土交通省港湾局が指定する「釣り文化振興モデル港」に指定される。同年10月には苫小牧市役所で、岩倉博文苫小牧市長に指定証が手渡された。釣り場としての開放が強力に後押しされた形だ。

関連記事 → 【北海道・苫小牧港】「釣り文化振興モデル港」の指定証交付。2021年度に一般開放目指す | 釣具新聞 | 釣具業界の業界紙 | 公式ニュースサイト (tsurigu-np.jp)

一本防波堤の管理事務所と関係者
関係者の努力が実り開放された。地元北海道支部役員で日本釣振興会本部理事でもある牧野氏(運営団体の副会長も務める・写真左から4人目)は開放実現に向けて積極的に活動を行ってきた

開放前には新たな課題も…

ただ、2020年に苫小牧港の西港に釣り禁止の看板が新たに設置される事態が起こった。

釣り人が時期によっては港内に何本も竿を出し、船が港に入ってきても竿を上げずに荷役の邪魔になるなど、主にマナー問題のトラブルが起きていたためだ。苫小牧港の西港には強力に釣り禁止をうたった看板が28枚設置され、完全に釣り禁止となってしまった。

この事態を受け、地元では「一本防波堤を開放するために禁止になったのではないか」という噂まで流れた。そのため、明村代表理事や森田理事は、苫小牧港管理組合に書面で質問書を出し、西港の看板と一本防波堤の開放は全く関係ないという返事をもらっている。

こういった状況を乗り越えながら、開放を進めるにあたり、安全に運営できるかを確認するために試験開放等も行い、実際に落水実験等も実施し、安全性を確認した。

苫小牧港の一本防波堤の安全設備
釣り人の安全対策は徹底的に行われている。もちろん、オープン後は事故もゼロだ

2021年7月には開放された施設を運営するため、非営利型一般社団法人苫小牧港釣り文化振興協会が設立された。理事は地元在住のメンバー中心に構成された。

施設の準備も進められた。陸地から防波堤に入る場所近くに、管理棟や男女別トイレ、物置を設置し、駐車場も整備された。初期設備費用は日本釣振興会から「つり環境ビジョンコンセプトに基づくLOVE BLUE事業費」として拠出された。

そして、2022年の4月23日に念願のオープン日を迎えた。コロナ禍のため派手なセレモニー等は行わなかったが、開放を待ちかねた多くの釣り人が訪れて盛況な出だしとなった。     

一本防波堤のオープン日の釣果
昨年のオープン日に訪れた釣り客。クロガシラガレイが釣れた
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