「地球・ひとのために私達が出来ること」テーマに対談。日本釣用品工業会・島野会長、東京大学・住名誉教授、京都大学・松下名誉教授

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5月31日、東京大学第二本部棟にて、「環境保全活動に取り組む、釣り業界団体のトップ」の一般社団法人日本釣用品工業会島野容三会長(対談当時の役職・現在は顧問)、「気候変動の権威」の東京大学住明正名誉教授、「環境政策の第一人者」の京都大学松下和夫名誉教授が一堂に会し、世界環境デーに合わせて「地球・ひとのために私たちが出来ること」とのテーマで対談を行った。

島野会長、松下理事、住名誉教授
東京大学の住明正教授と日釣工の島野会長(役職は当時)と松下和夫理事(京都大学名誉教授)が対談を行った。写真は東京大学第二本部棟(東京大学未来ビジョン研究センター)前で撮影

つり環境ビジョンコンセプトに基づくLOVE BLUE事業との社会貢献事業・環境保全活動の取り組みを続けて10年を迎えた、一般社団法人日本釣用品工業会島野容三会長、気候変動研究の権威である東京大学住明正名誉教授、国連気候変動枠組条約や京都議定書の交渉にも参画した環境政策の第一人者の京都大学松下和夫名誉教授は、この対談の中で、地球温暖化が進むと、国内や世界各地では集中豪雨など異常気象の頻度が増え、今後は世界の穀倉地帯の干ばつが危惧される。そして環境問題に一発逆転の秘策はない。地道な努力がやはり大事。その為に私たちができることについて、それぞれの視点から対談を行った。

地球温暖化は人間活動の効果が大きい

島野 「本日は、住名誉教授、松下名誉教授に貴重な対談の機会を頂きましたこと心より御礼申し上げます。私は、一般社団法人日本釣用品工業会の会長として今年で19年目となります。

ご存知の通り、弊会は、日本全国の釣りメーカーによる全国団体で、大きな活動は2つありまして、ひとつは消費者の為のフィッシングショー。ここ2年はコロナ禍の影響でオンライン開催をしておりますが、例年、パシフィコ横浜で約5万人の方がお集まりいただくショーを主催しています。

もうひとつが、LOVE BLUE事業(詳細後掲)と言いまして、私たちは釣りを通じて、海や川などの豊かな自然環境から恩恵を受ける中で、釣りに関わる人々とともに世の中に役立つことをさせて頂こうと、水辺の環境保全活動などを社会貢献事業として取り組んでいます。どうぞ宜しくお願いします」。

一般社団法人日本釣用品工業会の島野容三会長
一般社団法人日本釣用品工業会の島野容三会長(役職は対談当時)

「東京大学へお出でいただきましてありがとうございます。島野会長と同い年なんです。私は岐阜県岐阜市の長良川のほとりで生まれ育ちまして、川で泳いだり、1回だけアユ釣りをしたこともあります。とても寒かったですね。朝早くて毛ばりで釣るんですよね。大学には67年に入学し物理を勉強して卒業し大学院の後、自然に近い仕事をやりたくて気象庁に入りました。その頃、物理的な法則に基づいて天気を予測する数値予報が試みられていましたので、そこに参加しました。その後、明日、明後日の予報から、1週間、数カ月から来年の予測を対象とするようになり、数値モデルも大気だけのモデルから、大気と海をつなぐようなモデルに発展していきました。そして温暖化の問題が出てきて、気候を再現するモデルを基に取り組むことになりました。

まず、人間活動の温暖化への寄与という点ですが、2021年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第一作業部会(WGⅠ)第六次評価報告書(AR6)政策決定者向け要約(SPM)に記載がありますが、『人間活動が温暖化に寄与していることが疑う余地がない』と明記されるまでに20年以上かかっていることが示されています。この背景は、温暖化問題が我々の社会のエネルギーシステムに直結していることから、既存のエネルギーシステムを変えることにつながるからです。例えば化石燃料を止めて太陽電池に変えるとすると、途端に自分の商売どうなるのかとなるわけです。とはいえ、最近の地球が暖まってきている。それは自然変動だけではこうならない。やはり、人間活動の効果が大きいというのが今の結論なのです。

その次に、温暖化すると、異常気象の頻度が増えます。事実毎年、日本で集中豪雨が起きているので、日本ではコンセンサスがあります。アジアでも豪雨や山崩れに関心がありますが、世界的に見れば干ばつが大きな問題です。将来的には穀倉地帯の干ばつによるダメージが大きいのではと言われています。また、山火事も難しい問題です。海外では基本的に消さないという方針を持つ国もあります。自然のサイクルであり、森林の再生につながるという理由からですが、ただ昔と違って、民家が森林の近くに建つようになったことでほっておくと延焼被害が起きることになります。また熱帯雨林での人為的な焼き畑もあり、生態系の破壊につながっています。これらのように、人間社会が変わることによって新たな災害が増えるということが起きてきます。

そこで大きく問われているのは、今後の対応です。温暖化は進むだろうと。いくら削減努力をしても、今程度のことは起きるだろうと。そうするとやはり、対応策を考えた方が良いのではないかということなのです。私もそう考えています」。

東京大学の 住明正名誉教授
東京大学の 住明正名誉教授

松下 「本日はお招きいただきましてありがとうございます。私も島野会長、住先生と同い年です。住先生と同じ年に大学に入りまして、経済学部に進みました。経済が発展すれば世の中や人々の暮らしが良くなるという思いがありましたが、当時は日本が高度経済成長期で経済が拡大して行く一方で、水俣病や四日市ぜんそくという悲惨な公害が起こっていまして、自分なりに環境問題に関心をもっていました。その頃、環境問題に取組む環境庁ができまして入庁し、環境関係、公害対策に取り組むことになりました。

1980年代後半から、地球環境問題が注目され、今まさに住先生が専門的に研究されているIPCCの報告書が出てきました。地球温暖化問題は当時は行政が対象とするより科学者が議論している段階でしたが、徐々に世界的に取り組まなければと、行政側から関わって行きました。科学的なメカニズムが解明され、温暖化の影響が明らかになって来て、エネルギーはどうすれば良いか、交通は、住宅はと、具体的な対策の議論に関わって来ました。

温暖化について、ひとつ補足すれば、温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を多く排出している人と、そこから被害を受けている人が非対称という問題があります。CO2を多く排出している人(や国)は相変わらず豊かな生活を続け、一方で殆ど排出していない人(や国)が干ばつや豪雨などの深刻な被害を受けているということがあります。さらに、CO2を排出しているのは、現在の世代ですが、深刻な影響を受けるのは、現在の若者、そして将来生まれてくる子どもたちなのです。その意味で世代間の対立、世代間の公平性の問題があると思います。

今、スウェーデンに始まり、ヨーロッパ、アメリカを中心として気候正義を求めて、若い人たちが立ち上がっています。彼らにしてみれば、大人になる頃には地球が大変なことになるのではとの強い危機意識を持っています。それに対して今を生きる私たちは責任があると思います。

それから、経済との関係では、今は、環境対策をする方が、結果として経済の安定的な発展につながると徐々に認識されてきました。最近注目されるグリーン水素などに積極的に投資すること、そして再生可能エネルギーを増やし省エネを進めることで、雇用や産業社会のよりよい発展ができると言われるようになってきました。その過程で産業構造が変わることによる課題もありますが、できるだけ早く化石燃料に依存しない経済に移行することで、社会的な発展や国際競争力をつけることが出来ることが明らかになっています。かつては、太陽光や風力発電はコスト高で普及しませんでしたが、今では石炭火力などより安くなってきています。所謂グリーンニューディール(環境への投資を通じて経済を活性化し雇用を増やす)という考え方です。日本は、土地は狭いですが周囲の海が広いので、大規模な洋上風力を1つのオプションとして力を入れたら良いのではと考えています。人間の居処から離れていることで、直接的な影響を受けないことや、日本には造船業や部品メーカーも多いので裾野となす産業も幅広いとのメリットもあります。

もう1つ、ロシアとウクライナの情勢について触れます。現在も多くの方がお亡くなりになられたり避難を余儀なくされたり、深刻な人道的問題が起こっています。加えて凄まじい環境破壊です。戦争により軍用機の飛行や、戦車走行、ミサイル・大砲発射など、その都度ものすごい量のCO2や有害物質が排出されています。また有害物質が地中に長期に留まって、今後の復興は困難を極めるものと思います。尚且つウクライナは原子力発電所が15基もあります。戦争は最大の環境破壊ですし、人権破壊だと思います。最近の戦争を見ると、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争のいずれも、石炭や石油という化石燃料を巡って争われたものです。もし、世界中で太陽光とか風力を活用出来るようになれば、戦争が起こりにくくなります。『石油をめぐる戦争は起こるけれども、太陽をめぐる戦争は無い』と言われています。私たちはそういう時代にしてゆく必要があると思っています」。

京都大学の松下和夫名誉教授
京都大学の松下和夫名誉教授

危ないところに住まないような施策や立地も大事

「私から温暖化と自然災害という点で、その対応策を具体的に挙げるとすれば、例えば河川の氾濫などが起こり得る場合に、もちろん様々な歴史的な事情や背景があることと思いますが、やはり危ないところには住まないようにする施策や立地も大事なのではというのがひとつ。昔は河川の流域に氾濫原が沢山ありましたが、堤防などにより河道を固定し、氾濫原を宅地や農地などに利用してきました。

しかし、堤防だけで守るということではなく、遊水池などへ水を流せるような設計にし、普段はその遊水池を公園や緑地として活用するような流域延滞で治水したほうが良いのではないかという方向に変わりつつあります。私もそう思います。そして、今の日本の風土の中で、どうやって上手く暮らして行けるかという地域開発をしてゆくのが必須だと思います。なんでも東京に集めてと言うのは無理があるだろうと。だから地方分散型で対応策を行うというのが今の考え方だと思います」。

「昭和の時代は、ある意味イケイケでしたので、どうしても生産側の視点が非常に大きくて、それが消費に向かった時にはバブルとなった。逆に、今問われているのは、『安定した消費』というか、『人生をエンジョイできるライフスタイルの設定』と思います。どうも昔の名残で、お金を使えば幸せなんだというマインドが日本にはありました。大きな言葉で言えば、「文化」と言いますが、もう少しゆとりある生活が重要かなと思っています。

やっと日本も少し変わって来ましたが、ヨーロッパでは街角に広場があって、オープンテラスとかありますよね。東京は人口が多くて交通の邪魔とか言われますが、日本は暑くなるわけですから、やった方が良い。日本でできるようになったのは、コロナ禍で、オープンエアーの方が良いということからですね。それも都市計画と絡めて行った方が良い。

そういう意味で、今求められているのが新しいライフスタイル、生き方ですが、でもまだはっきりと見出されていない気がします。そう言った点では、新しいライフスタイルを作っていくというのが一番。その点で、釣りは非常にある意味、自然に親しんで良いことだと思いますね。今は、園芸とか農業とか、一次産業も見直されています。それから二次産業のように物理的な物を作り上げて行くことが大事な気がします。それは、人として、生きていく意味として、人生を楽しむのに大切な要素かも知れないと思います」。

釣りは人間に環境の大切さを教えてくれる本当に良い機会

島野 「確かにライフスタイル、世の中の消費形態はどんどん変わっていますね。単に物質的な喜びだけではなく、心の豊かさを得られたり、体の健康の増進であったりということだと思います。かつそれで省エネや、作る過程もかなり明快に省エネを要求されています。そういうことにコンシューマー自身が目覚めてきているということは、大いに世界中で見て取れます。

そういった意味で、もちろん釣りは、確かにコロナ対策で三密を避けるということもありますが、それ以上に、『釣りは人間に環境の大切さというものを教えてくれる本当に良い機会』です。それは子どもから大人まで含めて非常に良い機会を与えてくれるスポーツであり、かつまた環境以外にも、親子の対話であるとか、それから命の大切さであるとか、そういったものを子どもたちに教えていくことができる、絶好の情操教育の場といいますか、そういった意味で、釣りはこれからも大いに活用していただけるものと思っています。

その意味で、私たちも単に釣り道具を作るということだけではなく、もちろん釣りは釣り道具がなければ成り立ちませんけれども、それだけではなく、今申し上げたような多くの価値があるということをもっともっと、世の中にアピールして行くことを自分たちも努力して、みなさま方にご理解をいただくということも大切なことだと思っています」。

松下 「物を沢山買ったり、消費するというよりは、自然に親しむとか、レクリエーションするとか、いわゆるコト消費が段々増えてきています。またモノづくりでも従来ほど、沢山の資源やエネルギーを使わずに効率的に出来るようになって来ているということですね」。

「環境問題は、一発大逆転の秘訣がある訳ではないのです、残念なことに。その意味で、地道なコツコツした努力はやっぱり大事で、ほんとに昔からの知恵だと思いますが、『腹八分の生き方』が大事だと思います。でも、すごく難しいのは、なかなか合意が取れないことです。『環境が限られていて、環境要因は変えられないから、人間は控えめに生きていくべき』という意見は強いですが、『それだけでは面白くない、とことんやるのが人間らしい』という意見もあります。『とことんまでやる』という人の意見は、自分がとことんまでやって、他の人に与える影響は気にしない、という場合が多いですが。このような異なる意見の合意をどう実現するか、というのがひとつの大きなテーマだと思います」。

松下 「アメリカ的なバイタリティー、例えばイーロン・マスクとか、GoogleとかAppleなどのように新しい事業をどんどんやっていくようなフロンティア精神、ベンチャー精神も必要です。一方で、ヨーロッパとか日本のような古い伝統社会があって、自然や社会の制約の中で慎ましく生きるという心がけも必要です。日本はもともと狭い処に大勢住んでいる訳ですから、お互いに配慮し自然に遠慮しながら生きてゆくと。一方で今後の将来社会を見通して、新しいベンチャーとか技術革新などを若い人にはどんどんやってもらうことも必要ですね」。

これから釣りをしていく人達のために、未来へどれだけ遺産を遺していけるのか

島野 「私どもがLOVE BLUE事業を始めたのも、そもそも根底には、持続できる社会、持続できる環境へ取り組んで行こうということからです。いま住先生や松下先生からのお話にもありました、この自然環境をどうやって守って行くのか。そして、多くの価値のあるこの釣りというものを世界中の皆様に未来永劫、楽しんでいただきたいと、そのためにも、『自分たちの身の丈に合った、色々な環境改善をして行こう』というのがこの事業の発端なのです。

それには、自分たちで財源を持たなければならないと考えました。自主財源ということです。政府に頼んで税金を出してくれということではなく、自分たちで集めた資金の範囲で、やれる範囲で、まずは始めて行こうということで、初めて参りまして、お陰さまで、参加企業は260社を超え、去年では3億円を超える資金が集まっております。その貴重な浄財を基に、全国規模での水辺の環境保全活動として、専門のダイバーによる全国からのご要望を受けた水中クリーンアップ活動や、魚族資源の保護増殖という趣旨での、全国の公的栽培機関と連携した放流事業など、持続可能な社会の為に、公益財団法人日本釣振興会とも協働事業という形で、私どもといたしましても、多少なりとも社会の為に貢献したいということで進めています。『これは決して、何も業界の繁栄のためにではなく、やはり、これから釣りをして行く人たちの為に、未来へどれだけの遺産を遺して行けるのかという取り組みであり、あるいは、我々も釣り業界として恩恵を受けている地球にどれだけの貢献ができるのか』ということが大切な事業なのです」。

松下 「このLOVE BLUE事業は、釣り商品に環境・美化マークというものを表示して、そのマークの表示された商品を釣り人のみなさんが購入した、その売上の一部をメーカー等から集めているのですね」。

「消費者はそういう細かいことは気にしないかもしれないけど、そういうことは大事だと思いますよ」。

島野 「ありがとうございます。住先生が仰る通り、環境保全活動のみならず、LOVE BLUE事業の自主財源の枠組みについてもアピールすることで『私も多少環境保全に協力しているんだ』との意識を持ってもらえることになります。とても大事なことだと思っています」。

災害対策はごまかすと高くつく。ちゃんとする方が一番安上がり

「日本は、公共部分の維持管理は政府の仕事で、我々は税金を払って社会に対する貢献はやったから、あとは政府でやってください、関係無いんだというマインドが強いです。また、国からの補助金に依存するということがあると思います。いま、島野会長が言われたように、自前の資金、自分たちの判断でファンドを創設して、それで意思決定して行くということは大切ですね。自分たちの判断で良い社会を作るために、自らの頭で考えて事業を展開するということはした方が良いと思います。それは、政府に対する施策の意見を言う根拠にもなると思います。

結局、我々のところは科学的知見、知識を与えているだけなんです。人間に対しては、行動に移していただくのは知識だけでは駄目なんです。肚に落ちるということが非常に大変なことで、それは地道に努めて行くしかないと思います。災害は昔から同じことで、目先の利益がギリギリになった時の人間の判断があるので、そういう目先の判断が問われる状態にしないうちに、打てるような対策を考えて行くのが、我々行政の仕事だと思います。

実際、修羅場になったら判断もつかなくなるということもあり得ます。そのための訓練は大事だと思います。東日本大震災も大切な教訓だと思っています。ただ災害対策は、儲かる仕事ではないのです。支出ばかりでマイナスなのです。それでも先延ばしとならないように、世の中のマインドを変えていく必要があって、そこは、大分変わってきているとも思います。やはり、誤魔化すと高くつく。ちゃんとする方が一番安上がりなのだということは、色々な意味で徐々に広まってきていると思いますが、そういうことは、説得して広めて行くしかないと思っています」。

島野 「私たちが社会貢献として取り組んでいる環境保全事業のLOVE BLUE事業も収益が上がるというものではありません。『そもそもこういう事業は求めるものではない』と思っています。いかに自分たちが貢献できたかということに満足感を得ると言いますか、あるいはやりがいを感じるというのか、そういうところに持っていく。そういう事業・理念なのだということをご理解いただく。社会貢献事業に資金を出しても全然売り上げにつながらないではないかという方も中にはいらっしゃる。そういう方々をひとりひとり説得していって、ご理解いただくということが、私の仕事でもあり、非常に大事なことだと思っています」。

「その意味では、『そろばん勘定するお金の中に、自然環境の価値とかそういうものを考慮するべき』と思います。狭い視点だと、自分だけが儲かれば良いという滅茶苦茶狭いそろばん勘定ですね。もうひとつ悪いのは、ツケは他人に回して利益だけを取れば良いという考え方も酷い。やはり、皆が良くなるように考えるということが大事だと思います。ともすれば、人間は、見たいものしか見れないから、見たつもりでも、見たくないものは眼に入って来ないんですよ。それでも、自分は全部見たと思っている訳です。ですから、色々な人の意見を聞くということは大事だなと思います。若い人からの意見を聞くのも大事だなと、本当に思います。歳を取りますと、いい話しか聞きたくない、文句を言われたら鬱陶しいという気分になります。それを心した方が良いと思っています。誰だっておべんちゃらの方が良いですからね」。

いかにロングレンジで物事を観ながら、自分達がどのように社会に貢献していけるのか

島野 「やはり、今、住先生が仰ったことで思いますのは、目先の利益に囚われることなく、自分たちが何をしていかなければならないのかということですね。それは、一企業であっても、ひとつの業界団体であっても、これは変らないと思います。ですから、『いかにロングレンジで物事を観ながら、自分たちがどのように社会に貢献して行けるのか。企業もお金は大事ですけれども、社会に属していますから、その中で、どう貢献できるのか。あるいはお客様が世界中となれば、世界的にどのような貢献ができるのか』と考えます。ひとと社会への貢献ということですね。例えば、お客様がそれでご健康になられる、あるいは、精神的に安らいでいただくことができるということもひとつの貢献の姿だと思います。私も一会社の経営者としてもずっと考え行動してきたつもりです。

研究開発という観点でも、やはりロングレンジ、5年、10年というレンジで研究開発も進めて行かなければならないと思います。一企業という観点でも、私は日本人の精緻なモノ作り、日本人の英知を結集した緻密なモノ作りを世界に問うて行く。これが私の会社の真骨頂でありコアコンピタンスです。開発もすべて国内。海外には一切出していないのです。それをこの20年間言い続けていまして、おかげでなんとかやっています」。

「それは世界的に見てもちゃんとしたメーカーはそうやっていますよね」。

松下 「やはり、『ひとを大事にすることが重要』ですね。最近の日本は国際的に比較しても分かりますが、教育に対する投資が非常に少ない。人に対する投資をしっかりと行い、尚且つ、既得権益を擁護するばかりでなく、将来世代の若い人たちが希望を持てたり、あるいは意見を自由に表現出来たり、コミュニケーションができるようにする。そうすれば新しい産業も次々とおこります。意思疎通が図られて透明性がある社会を作っていけば、若い世代が伸び、ベンチャーなども活発になってくる、そういうことが大事だと思います」。

「地球・ひとの未来のために、私たちが出来ることは、いろいろなことがあると思いますけれども、一番大切なのは、あらゆる意味の『社会システム作り』だと思います。テクノロジーは色々なところが頑張るので出てくると思いますが、今の日本を見るときに、先行きが不安ということがあります。それは何で不安かと言えば、ちゃんとした制度やシステムが出来ていないからで、そういうところが非常に大事なことかと思っています。それを実現するための技術的なテクノロジーは必ずできると工学部の先生も仰っていました。あとは腹八分目の生き方が良いのかもしれない。あとは今の日本の議論にありませんが、戦前の反省をした方が良いと思っています。視野が狭くなり戦争に踏み込んでいったマインドを考えてみる。そして、そうならないようにすることが非常に大切だと思います」。

島野 「私は、それぞれの人、それぞれの会社、それぞれの業界、それぞれが身の丈に応じた、自分たちに何が貢献できるのかということを真摯に考えて、企業も、業界団体も、個人も『皆が少しずつでも身の丈に応じた貢献を行っていくこと』それが非常に大きなものになってくると思いますし、そのような集積が私は大事だと思います。逆に私1人くらいならイイやという考え方をしていますと、それが何十万人、何百万人となって、厳しい現実となると思います。『身の丈に応じた貢献をそれぞれがそれぞれの立場で取り組む、その大切な考え方を、影響力のおありになる、住先生や松下先生からの発信をお願いしながら定着させて行くことが、未来の人たちに、この地球を託していくための、自分たちの責務』だと思っています。

【提供:(一社)日本釣用品工業会・編集:釣具新聞】  

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