船長の判断で遊漁船を出船、荒天による事故で乗客が入院。責任は誰に?【弁護士に聞く】

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【弁護士の回答】船長への損害賠償請求は可能!

ご質問のケースでは、荒天時に出船したことで損害を負ったことに関して、遊漁船の船長に対して損害賠償請求をすることが可能であると考えられます。

船長は、船主から船舶の航海を委託された者であるため、乗客の安全管理も含めて誠実に航海を行う義務があります(民法644条)。

そのため、船長が、悪天候が予想され乗客の安全が確保できないことが容易に予想され得るにもかかわらず出船すると判断した場合には、誠実に航海を行う義務を怠ったとして損害賠償請求が認められる可能性があります。

ご質問のケースでは、予報では波の高さが3mとなっており、通常その海域で出船する状況ではないとのことです。風は弱くなっていくとの予報だったとのことですが、海上における天候の変化は正確には予測しがたい性質があります。海上では風の影響を受けやすいので、予報に反して風が強まれば、波の高さと相まって、船が大きく揺れ乗客が転倒・転落する可能性は高いです。

そのため、出船すれば乗客の安全が確保できなくなる可能性は高いといえます。

したがって、荒天によって乗客の安全が確保できなくなると予想できたにもかかわらず出船すると判断した船長に対して、義務を怠ったとして損害賠償請求を行うことが可能と考えられます。

また、船長には誠実に航海を行う義務がありますので、荒天時には、波の影響による船の揺れを最小限にするよう努めるとともに、船が大きく揺れた場合にも乗客にけがを負わせないようにあらかじめ適切な指示をするなどの義務を負っていると考えられます。

裁判例でも、船長が同様の義務を負っていることが認められています(東京地方裁判所平成12年4月17日判決)。この裁判例では、船長が、船に大きな影響を与える可能性のある波を、避けるようタイミングを十分合わせずに船を前進させ、また、乗客に対し、船が大きく揺れた場合に備えて船室内に入るよう注意を与えなかったことが船長の負う義務に違反しているとして、損害賠償請求を認めました。

したがって、ご質問のケースで、船長が、船の揺れを最小限に抑えるよう努力していなかったり、乗客がけがを負わないように指示をしていなかった場合には損害賠償責任を負うと考えられます。

具体的には、海の荒れ方が激しくなり釣りができる状況ではなくなった後は、船長はできる限り船の揺れを抑えるため波を避けるようにタイミングを合わせて船を操縦する必要がありました。

また、船体が損傷すれば、無事帰港することが出来なくなる可能性が高まります。そのため、船体が岩に衝突して損傷しないようにも注意しなければならなかったでしょう。また、波や岩への衝突などによる揺れによって乗客がけがを負わないよう、態勢を低くするよう指示をしたり、手すりを掴むよう指示するべきでした。

船長がこのような行動をしていなかった場合には、船長は上記義務に違反しているといえますので、船長に責任を問うことができるでしょう。

また、船の所有者は、船長が他人に対して損害賠償責任を負う場合には、同様に損害賠償請求を負います(商法690条)。したがって、ご質問のケースで、船長と遊漁船の所有者が異なる場合には、船長だけでなく、遊漁船の所有者に対しても、負った損害を賠償するよう請求することが可能です。

損害として認められる範囲は?

遊漁船で釣りをする人
遊漁船に事故の損害賠償請求は出来るとして、その範囲はどこまでだろうか…?(※写真はあくまでイメージです)

では、船長や遊漁船の所有者に損害賠償請求することが出来るとして、損害として認められる範囲はどこまででしょうか。

けがを負った従業員は、次の通りの損害が認められます。

まず、けがを負ったことで支出する必要が生じた入院費や治療費、船が岩に当たった衝撃で破損や紛失した釣り道具の時価相当額については、船の衝突事故によって生じた損害ですので、損害として認められるでしょう。

また、従業員がけがを負ったことで1週間仕事を行えなくなった場合、1週間分の収入を得られなくなっていますので、本来得られていたものが得られなくなったとして損害として認められると考えられます。さらに、けがを負った従業員の慰謝料についても損害として請求することが可能です。

次に、御社としては、従業員がけがを負ったことで1週間休業せざるをえなくなり、その間事業を行っていれば得られたはずの利益を得られなくなっています。

しかし、企業の従業員がけがを負ったことで企業が活動を行えなくなるリスクは、企業自身が計算に入れて回避措置を講じるべきとされています。そのため、原則として、会社の従業員がけがをしたとしても、そのことで生じた会社の不利益は損害としては認められません。

もっとも、例外的に、会社が個人企業である場合に会社の損害を認めた裁判例があります(最高裁判所昭和43年11月15日判決)。そのため、ご質問のケースでも、御社において代表者に代わる者がおらず、御社の資産と代表者の資産が一体といえるような場合には、個人企業であるとされ、御社が休業状態になったことによって受けた不利益は損害として認められると考えられます。

ただし、損害賠償額を算定する際にあたって、船長だけでなく乗船した従業員にも落ち度がある場合には、その程度に応じて損害賠償額が減少させられることがあります。

例えば、船長だけでなく御社の従業員も危険があると分かりながら出船を希望した場合や、波が荒れているときに船体につかまるなど乗船者として当然取るべき安全措置を取っていなかった場合などには、乗船した従業員にも落ち度があるといえます。

したがって、そのような場合には、乗船した従業員の落ち度も考慮して損害賠償額が減少させられる可能性があります。損害全額の賠償が認められるわけではないため、注意しておきましょう。

(了)

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